十三幹部と魔王の城

化野生姜

第1話「その日、魔王は遅刻をしていた。」

 おどろおどろしい蝋燭の灯る大広間。

 その席にはアンデットやオーク、ダークエルフと言った面々が並び、

 彼らの双眸には暗い光が満ちていた。


 そこにカツカツと言う足音を立て、一人の男がやってくる。


 男は古めかしいマントを着込んで杖を持ち、

 その雰囲気はいかにもラスボスと言った具合で、

 見る者を震撼させるオーラに満ちていた。


 そうして、男は一番奥の赤いビロードの椅子に座るとこう言った。


『すまないね。今日は定例会議の日であるというのに魔王である

 私が遅刻をしてしまって…なにせ、勇者をとめるための領地の

 水路監査をしたからなのだが…まあ、私の事情はこれくらいにして、

 会議をはじめるか…』


 そうして次に魔王は「あれ?」という具合に首をかしげた。


 十三幹部…それは、魔王に仕えるという名目の

 種族も思想も別のいわば烏合の集を従える長たちである。


 だが、その席に座っているのは十二人…あきらかに一人足りない。


『ふむ、ベリオットがいないな。あの悪魔族の男はどうした。』

 

 すると、奥から二番目にいる獣人族のボルボが、すっと手を挙げた。


『俺、ヤツヲ殺シタ。ヤツ、俺ノ自慢ノ尻尾ケナシタ。

 俺、嫌ガッタノニ引ッパッタ。

 ダカラ、思ワズ殴ッタラ動カ無クナッタ…俺、責任取ル。』


 ボルボの声は震えている。

 見れば、威厳あるライオンの風貌をもつ彼の目には

 うっすらと涙さえ浮かんでいた。


 それを見て、魔王には、この事故が故意のものではないことがわかった。


『そうか…うっかり殺してしまったか。

 思えば、ベリオットはどこか相手を見下したような態度を

 取る男だったからな。それにお前は最近幹部になったばかり。

 勝手もわからなかったのだろう…まあ、ここは私に免じて許す。

 以後、気をつけるように。』

  

 それを聞くと、ボルボは顔をあげて魔王を見た。


『俺、処罰無シナノカ?ベリオットノ死体、水路ニ捨テタノニ許スノカ?』

 

 魔王はそれにうなずいて答えた。


 そう。例えボルボがベリオットを殺し、その死体を水路に遺棄し、

 強力な魔力のせいで水の流れと水質が悪くなって病気が領地内に蔓延し、

 民衆の治癒や水路の浄化に大量の労力を注ぎ込んだとしても、

 過ぎたことは仕方がない。


 死んだ者は生き返らない、それは自然の掟だ。


 こうして、魔王は会議をはじめる。

 疲れを感じさせない声で話を進める。


 十三幹部あらため、十二幹部はその言葉に耳を傾けはじめた…。

 


 

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