第四十六話 ゴールデンワールドマップ
人を舐めたようなスキル付与。それに気をとられてしまったが、実はもう一つとても気になる事があった。
温泉から上がってドライの魔法をかけてもらっていた時にそれは起きた。パドの体から飛び出したのだ。無論ドライの魔法自体とは何ら関係ない。小さな玉だ。金のじゃないよ。薄っすらと赤く光っていた。輝きも弱く、大きさも小さいが見覚えがあった。おそらくあれは魂の欠片だ。俺の体に吸い込まれていったのだから間違いない。
「なあ、パド。さっき魔法をかけたとき、赤い光が見えたか?」
「え? なにそれ。そんなの見えなかったよ」
「そうか……。お前から出てきたように見えたんだけどな」
「温泉に入った後だったから湯気でも出ていたのかな?」
どうやらパドには見えていないようだ。そしてアルタとチカからはそんなものは一切出ていなかった。吸い込んだ俺の体も特に変化がない。これは一体どういうことだ?
以前、パドを鑑定した時には何ら怪しげなスキルは見当たらなかった。念のため、改めて鑑定してみる。ん? これは――。
以前見た時には存在しなかったスキルがあった。
「なあ、パド。お前さ、毒耐性以外に何かスキルを得てないか?」
「え? そんなことないよ」
「いいからもう一度だけ確認してみろ」
「やっぱり毒耐性だけだよ」
「そうか……」
俺がパドを鑑定すると、《触媒》というスキルが新たに増えていた。《》に入っていると本人も見えないスキルのようだ。詳細はと。
□触媒:じっくりコトコト煮込まれた温泉スープから魂の素を取り出すスキル。
「……」
「カイトどうしたの?」
人の魂を勝手にコンソメ扱いするんじゃねー。しかし、俺は魂レベルで温泉を愛しているということなのか? 温泉クラブに入部したのはもはや
「なあ、もう一度温泉に入ってみよう」
「ええっ!?」
「またあれに並ぶのは嫌よ」
「チーも、溺れそうになるから嫌」
確かに背の小さいチカは、口にお湯が入りそうになってたな。俺の『着衣水泳』スキルをあげたいところだ。
「チカは俺がオンブしてやるから。ほら、もしかしたらスキルが得られるかもしれないし」
「なら入る!」
即答したチカ。スキルよりも俺のオンブに目を輝かせていた……。まあいいけど。
「えー。僕はスキルも得たし遠慮するよ」
「お前は強制だ」
嫌がるパドを引きずり列に並び直し、再び温泉に浸かった。
「やっぱり駄目だったわ。やはりチャンスは一度きりみたいね」
「チーはカイ兄がオンブしてくれるなら何度でもいいよー」
やはりパドの体からは魂の欠片は出てこなかった。この温泉に溶け込んだ分は全て回収したということか。これはダンジョンの温泉を全て制覇しないといけなさそうだ。
そうなると――。
「パドは猛特訓だな」
「えっ!? なんでいきなり?」
俺一人が制覇しても駄目なのだ。温泉に溶けた欠片を取り出すためには触媒のパドが必要なのだ。でもこれって俺の魂なんだけど。なんで他人のパドが仲介しないと取り出せないんだ。納得がいかない。いずれにしろ、深層に潜るには今のパドの実力では無理だ。守りながらでは限界があるし。少なくとも即死だけは避けられるほどの強さになってもらわないとな。
こうして初めてのクラブ活動はつつがなく終えた。魂の欠片の入手方法が判明したのは想定外の収穫だった。
その日の晩。寮の自室で大きな蝋燭を片手にパドに声をかけた。
「これに火を灯してみろ」
「え? 光ならライトでいいじゃない」
「違う。これはお前の魔力操作の特訓だ。お前は魔力総量は多いがいかせんその操作が雑すぎる」
「そんなことは……」
「今日の洞窟の壁は酷かったな。ドロドロに溶けていたぞ。何人かは熱風で軽い火傷を負っていたしな」
「うっ……」
「繊細な操作を身につけるには、魔法の威力を絞る練習が一番だ」
「そ、そうかな」
「ああ、兎に角やってみろ」
「わかったよ。じゃあ行くよ。『ヘルファ――』」
「おい!?」
「い、痛ぁっ! いきなり何するのさ」
頭を押さえた涙目のパドが俺を睨む。
「それは俺のセリフだ! お前は馬鹿か!? なんて魔法を唱えようとしてやがる!」
「だって、一番得意な魔法の方がいいかと」
「寮が燃え尽きるわ!」
「じゃあどうすればいいのさ」
「ただのファイアでいい。いいか蛇口からゆっくりと水を出す感じで――」
「『ファイア!』」
「あぢぃいいい!?」
蝋燭ごと俺の右手が炎に包まれた。必死に手を振って火を消す。消えた時には蝋燭がドロドロになっていた。
「強すぎるだろーが!? 蛇口から出す感じっていっただろ! 部屋が燃えるわ!」
「だからウォーターサーバーから出すようにドパッと」
あ……。そうだった。この世界には水道なんてなかったのだ。水を飲むときはサーバーから水を出すのだが、あれはポチッと押したら勢いよく出るんだった。仕方ない例えを変えるか。うーん。ちょろちょろ出すものねぇ。俺は蝋漬けになった右手を洗いながら考える。あーあれにしようかな。
「いつも飲んでる緑茶があるよな」
「うん。あの苦みは癖になるよね」
「あの、緑茶いれる容器があるだろ」
「あー。カイトが自作した変わった形の水差しね」
「急須と言うんだけどな。あれを傾けてゆーっくりとお茶を出す感じだ。いいかゆーっくりだぞ」
「ゆっくりだね! わかった!」
「ちょっと待て」
元気よく答えるパドに逆に不安になった。万が一、部屋に火がついたら洒落にならん。何かあっても引火しないようにしないと。蝋燭を何かで囲うか。といっても、部屋にあるのは机、椅子、ベッド。どれも木製で良く燃えそうだ。あ、いいものがあるじゃないか。
俺はアタッシュケースから一辺が一メートルほどの大きさの菱形の板を数枚取り出す。一枚を台座にして他の板で回りを囲う。
「ねえ、カイト。その真っ赤な板ってなに?」
「ああ、これは赤竜の鱗だ。これなら生半可なことじゃ燃えないぞ」
「なんでそんなもの持っているのさ!? 超激レアの素材だよ!」
「まあ、色々あってな」
「そんなものをこんな使い方したら駄目だよ」
「いいんだ。腐るほどあるしな」
「腐るほどって……。言ってることおかしいよ……」
すっかり忘れてアタッシュケースに眠っていたくらいだ。
「よし、いいか。ゆーっくりだからな」
「もう、わかったよ。『ファイア』」
「おお、成功だな」
「やった!」
蝋燭の先端にだけ小さな炎を灯すことに成功した。
「よし、じゃあどんどんサイズを小さくしていくぞ」
「え?」
そういって、俺は手元に置いてあった箱の中身を見せた。様々な大きさや形の蝋燭が敷き詰められてある。見栄えが微妙な出来損ないの品がディスカウントされていたので、大量に購入しておいたのだ。
「えええ!? こんなに! もう寝たいのに……」
「真剣にやらないと今日は寝れないぞ」
その後、何時間も練習した。失敗もあったが、最後の方はほとんどミスをしなくなった。この調子でいけば魔力操作も比較的早く上達しそうだな。
「あぁぁああああ!?」
翌朝、パートナーの絶叫で起こされた。
「見事な世界地図だな」
「アルタたちには内緒にしてよ!」
泣きべそをかきながら布団にクリーンとドライの魔法をかけるパド。
夜の火遊びはほどほどに。
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