第八話 武器と防具を揃えよう
「どうだカッコイイべ?」
「丸焼き、いや丸焦げか」
目の前に真っ黒な豚がいた。
俺は今、武器と防具の総合武具店にいる。よくわからないので噴水広場に面した外装の立派な店に入ったのだ。三階建ての一際大きな店だ。俺は「好きなモノを選んでこい。今日は俺の驕りだぜ!」と太っ腹宣言したのだ。
「しかもごれ、認識阻害の効果も付与されているダ」
目の前では店員が手揉みして頷いていた。
「ええそうですそうです。占めて20万ジェンです。とぉってもお買い得な品ですよ!」
金がありすぎて高いのか安いのかよくわからん。でも、オーク一匹倒して千ジェンだからオーク二百体分か。そう考えるとやたら高く感じるな。どれどれ……。
□漆黒のヘルム:重いだけの兜。量産品。黒いので夜は見えづらい。
□漆黒の鎧:重いだけの鎧。量産品。黒いので夜は見えづらい。
□漆黒のブーツ:同上
□漆黒のグローブ:同上
□漆黒の斧:同上
「単に黒いから闇に紛れるだけじゃねーかよ!」
店員がビクッと跳ねると、顔をそむけた。鑑定持ちを舐めんなよ! 駄目だこの店、絶対ぼったくりだ。
「おい、ここは駄目だ。もう出るぞ! ルシアも行くぞ」
「ええ、私はどれもいまいちだったから問題ないわ」
「ぞ、ぞんな!」
オーグは慌てて防具を脱ぐ。ガシャガシャと煩かった。さて、あらためて別の店を探すか。大通りから脇道に入ってみた。噴水広場前と違って小ぶりな店が多い。
「ねえあそこ。あれも武具屋なんじゃない?」
店頭の床に無造作に剣と鎧が立て掛けてあった。とりあえず鑑定してみた。
□冒険者の剣:初心者用装備。しっかりと鍛造されていて丈夫な剣。
□冒険者の鎧:初心者用装備。しっかりと鍛造されていて丈夫な鎧。
「なんか職人気質の臭いがするな。入ってみようか」
店内は薄暗く埃っぽかった。
「大丈夫ダか? ここオンボロな店だども」
「ああ!? 文句があるなら他の店にあたれ!」
野太い怒鳴り声が聞こえた。周りを見回すが店内には誰もいない。
「おい、聞いておるのか!」
あ、良く見たら下に居ました。ドワーフってホントに背が低いのね。ん? 俺は目についた盾を掴む。
□カイトシールド:無骨な作りだが非情に頑強。地属性(中)。
「なあ親父さん。地属性ってどんな感じの効果なんだ?」
「ほほう、それに気づいたか」
見る間にドワーフのオッサンの機嫌が良くなった。
「例えば地属性の魔物。例えばゴーレムとかだな。そいつらの攻撃を幾分か和らげることができるのだ。逆に地属性の魔法の威力は強まるぞ」
「へー。よく見るとどれもこれも、何らかの付与が付いている武器や防具が多いな。しかもどの武具も鋳造じゃなくしっかりと鍛造で鍛えられているじゃないか」
「そうだろう! お前さん良くわかっているじゃないか!」
まあ、鑑定君が教えてくれるからな。なければさっぱりだ。
「いい店ね。ここで一式揃えましょうよ」
「そうだな」
「お主エルフなのに珍しいな」
ドワーフのおっさんがルシアを見て驚いていた。
「ん? どういうことだ」
「エルフは見た目がダサいとか言って儂らドワーフの一品を忌避するからな」
「命を預ける装備にそんなこと言ってられないわ。少なくとも私はここのはどれも立派な品だと思う」
「わはははは! こりゃ愉快な奴らだ。おう、好きなものを選ぶといい! どれもこれも儂が精魂込めてつくったものだ」
「じゃあ、おやっさん。こいつの、オーグの武器と防具を見繕ってくれないか。こいつは完全に見る目がないんでな」
「カイト! おめえ!」
「私からもお願いするわ」
「ルシア、おめえまで……」
「ふん、仕方ないな。ちょっとこい」
涙目のオークが店の奥へと引っ張られていった。俺とルシアも店内に散った。それぞれ自分にあった武具を選んであとで落ち合うことにしたのだ。
色々な武具を鑑定したり、剣を実際に振ってみたりした。
「まー、俺はこんな感じかな」
□オブシビダンソード:5万ジェン
勇者の剣や魔王の剣と打ち合っても決して折れることのない片手剣、鑑定阻害(中)、闇属性(大)、視認阻害(小)、製作時期不明、製作者不明、古の秘宝、鑑定不能、鑑定不能……。
はい、伝説級の剣が来ました。うーむ、鑑定阻害のせいか付与されている効果を全て確認することができない。これは早く鑑定のレベルを上げないといけないな。それ以外は――。
□ワイバーンレザーアーマー:30万ジェン
ワイバーンの皮をなめして作った軽くて丈夫な革の鎧、物理防御(中)、火属性(中)。
□ワイバーンレザーブーツ:5万ジェン
ワイバーンの皮をなめして作った軽くて丈夫な革の靴、跳躍力増(小)、火属性(小)。
□ワイバーンレザーグローブ:1万ジェン
ワイバーンの皮で作った薄くて丈夫な革グローブ。雷属性(小)
うーん。ちょっと全身が黒くなってしまったな。
「あ、カイト……。そ、それ、似合ってるわね」
「ああルシアか。お前ももう決まっ――」
純白のドレスだった。所々に鮮やかで繊細な青の刺繍が散りばめられている。ゴールドの髪色との相性は抜群だった。
「き、綺麗だ……」
「えっ――」
あ、やべ。つい口走ってしまった。ルシアの顔が見る間に真っ赤に染まる。多分、俺も同じようになっていることだろう。なんか顔が熱い。二人して俯いてしまった。
「お主ら二人で何しとるんじゃ。お、エルフの嬢ちゃん、思った通り似合っているじゃないか」
□クラウディスカイドレス:100万ジェン
白い雲の合間から見える青い空をイメージしたドレス。青の刺繍はブルードラゴンの鱗を特殊な薬品と魔道具で圧縮し糸へと加工したもの。白の刺繍も同様にスノードラゴンの鱗から作った糸である。非常に希少な一品。ドラゴンの鱗から作られているため非常に強靭な物理防御性能を誇る。
敏捷増加(中)、氷耐性(大)、水耐性(大)、氷魔法属性(大)、水属性(大)、跳躍力増加(小)。
日本円にすると一千万円。高いだけあってかなりの一品でした。おそらくこれでも安いのだろう。鑑定で確認したが、この店の品は同じ武具でも相場より安く品質も良いのだ。
「それはな。ドワーフの国から旅立つ際に儂の師匠から餞別代りに頂いたものなんだ。エルフの国との友好の証として作ったものだったんだが……。まあ、色々あってな」
なんか気になること言われたよ。というか値段はあってないようなものでした。希少な一品というか、世界に一つしかないんじゃん。
「おいおい、そんな品を初めて会った俺らに売ってもいいのか?」
「本来は非売品だ。ただ、ふと思い出してな。エルフのために作ったものだからエルフが着るのが当然だ。エルフは暫くこの店には寄りつかなかったからすっかり忘れておったがな。武器も防具も使ってこその代物だ。嬢ちゃんならきっと最大限に活用してくれるだろうて」
「親父さん、ありがとう」
「お、おうよ」
ルシアが嬉しそうに頭を下げていた。ドワーフのオッサンは頭を掻きながら困った顔をしていた。照れているようだ。それ以外にルシアの装備は……。
□ミスリルの双剣:10万ジェン
ミスリル鉱石で作られた鍛造剣。二刀流。軽くて良く斬れる。敏捷増加(中)
「あれ? ルシアは双剣のスキルなんて覚えてないだろ。弓でなくていいのか?」
「大丈夫、二日も剣を振ればスキルなんて勝手に覚えるでしょ」
お前の戦闘センスはチートかよ。それ、普通の冒険者が聞いたら泣くからな。
□クラウディスカイブーツ:30万ジェン
げ、ブーツもそれか。た、高い……。
□クラウディスカイグローブ:10万ジェン
グローブに百万円……。
まあ、目の保養になるからいいか。全ての防具に敏捷性増加が付与されているしな。速さを生かして戦うルシアにはぴったりだ。が……ルシアの装備だけで一千五百万円だと! これ、冒険初心者にあるまじき装備だよな。そんなものを俺らに売りつけるオッサンもオッサンだが。
「オラも揃えてもらったど!」
オーグの武具は、兜、鎧、籠手、ブーツ、両刃のバトルアクス。トータルでジャスト10万ジェンなり。特筆すべきことはなし。中堅冒険者の無難な鋼の装備である。あ、ブーツは革だけどな。
「オラの扱いが酷い……」
「しかしお主、その剣は何処で見つけた? 確かにそんなものあったような記憶はあるが、最近見かけなかったんだよな。しかもそれは俺が作ったものではない。はて、誰から譲り受けたのだったか……」
「いや、普通に剣のコーナーに並んでいたけど」
あれか、視認阻害のせいだな。
「しかし、これほんとに5万でいいのか?」
「あ、ああ。なんか凄そうなんだが、一体全体なにが凄いのかわからんしな。誰も買わないだろ」
支払いは三人で二百一万ジェン。全財産の半分以上が持っていかれたよ。まあ、まだ金は十分にあるからいいけどさ。
「武器や防具の手入れが必要になったらいつでも来い。安くしてやるぞ」
「ああ、わかった。何かあったらよろしく頼む」
「カイト、ありがと」
「あ、ああ」
くっ、ルシアの笑顔が眩しくて直視できなかったよ。そのドレスが破壊力を増してやがる。
「カイド! 早く宿に行って飯ぐおう! オラ、プリスマが食べたい!」
「わかったよ。今日はもう疲れたしな」
俺らは宿屋へと向かう。武具屋のオッサンが飯が美味い宿を紹介してくれたのだ。
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