第一世界 ロージェン(さあ、魔王討伐だ!)

第一話 目覚めると

 俺は目を開ける。そこは真っ白な世界だった。おい、転生できてないじゃねーかよ!


「あぅあぁあ」


 ん? でも言葉が紡げない。おかしいな。口からでた息が白く伸びてすっと消える。あれ? もしかしてこれは。悟った瞬間、凍てつく寒さに襲われた。どうやら俺は雪の上に横たわっているようだ。不味い、このままでは凍死街道まっしぐらだ。転生直後に死亡とか嫌すぎる!


 俺は立ち上がろうとする。が、頭を浮かすことすら出来ない。まるで金縛りにあっているかのようだ。俺は助けを求めて叫ぶことにした。おーい誰か助けてくれ!


「オギャー! ギャー!」


 俺は確信した。これは確かに転生なのだと。そして赤子とは何も出来ないか弱い存在であることも理解した。一瞬、途方に暮れた。しかし今はやれることをやるしかない。


「オンギャー! オンギャー!」


 ただ泣き続けた。だってそれしかできないんだもん。


 そんな俺の視界が突然覆われた。な、なんだ! うわっ、豚頭が俺を見下ろしている。も、もしかしてこいつオークか! 止めろ俺は美味しくないぞ。


「オギャー! オギャー!」

「院長先生! 大変だどー! 雪の上で赤ちゃんが泣いているど!」


 その声に慌しく誰かが駆けつける音が聞えた。


「ああ、大変だわ!」


 宙を舞う感覚。その後に心地よい暖かさに包まれた。ああ、どうやら胸に抱えられたようだ。あれ、でも軟さが足りない。


「こんな季節に捨てられるなんて、なんて可哀想な子なのかしら」


 心配そうに俺を見下ろす瞳はサファイアブルー。金色のサラサラヘアーは肩にかかる長さだ。

 超美人のお姉さんだった。今までの人生の中で最も均整のとれた顔立ちをしていた。勿論、前世というか地球世界の記憶も足してだ。長く細長い耳が特徴的だ。ああ、憧れのエルフ。


「院長先生、早く中に連れて行ってあげようよ」

「あら、そうだったわね。温かい部屋でおっぱいをあげないとね」


 豚君、君は命の恩人だ。オークとか思っちゃってごめんよ。おそらく豚の獣人なんだろうな。いつか何らかの形でこの恩は返したい。


「はい、おっぱいでちゅよー」


 期待した俺を責めないでくれ。いやほんとに淡い期待だっただけだよ。美人エルフがおっぱいをくれるのかと思ってしまったんだ。男の子なんだからそれ位の妄想は許して欲しい。赤子なのに汚らわしいと思わないでくれ。そもそもエルフだから皆無だった。


「なんでしょう。いま穢れた空気を感じました」

「あぐあぐあぐ」


 俺は必死で哺乳瓶を咥える。温めたミルクが胃に染みわたる。そういえば、この世界にも哺乳瓶はあるのか。


 お腹一杯になった俺を待っていたのは。羞恥プレイだった。三十歳になってオシメを替えられる気持ちがわかるか。しかも絶世の美人に変えられるんだぞ。


「あら、男の子だったのね。かわいいおちんちんでちゅねー」

「オギャー! オギャー!」


 俺の分身を見て可愛らしく微笑むお姉さん。なんだこの拷問は。もう、お婿に行けない。頼むからそれ以上何も言わないでくれ。

 ん? そういえば何で赤子なのに言葉がわかるんだ。日本語ならまだしも。あーもしかしてこれは定番のスキルなんだろうか。


 オシメを替えられると、ベビーベッドに寝かされた。お休みなさいと微笑むと、エルフのお姉さんは出て行った。さてここからが本番だ。おそらくこの言葉で良いはずだ。


『ステータスオープン』


 そう頭の中で叫んだ。


□名前:カイト=シドー

□種別:人間

□年齢:0歳

□職業:赤ちゃん《異世界トラベラー》

□レベル:1

□HP:10/10《1000/1000》

□MP:5/5《500/500》

□敏捷:115

□魔法:なし

□スキル:なし《異世界言語、鑑定(1)、無病息災、成長促進、経験値増加(1)、十二神の加護(MAX)、無限収納(低)、異世界アタッシュケース(小)》


 ふむ。ラノベを愛読していたから俺には大体わかる。友達がいないから読書ばっかりしていたのだ。ああ、思い出したくない過去が……。


 いや、頭を切り替えよう。まず、《》はあれだな。他の人からは見えないステータスだろう。そうするとまず疑問なのは種族欄だ。なぜ人間のあとに疑問符がつくんだ。俺はれっきとした人間だと思うのだが。まあ細かいことは置いておくか。


 HPとMPそして敏捷についてはこの数値がどの程度なのかよくわからんな。比較してみないと判断がつかない。そして赤ちゃんって職業なのだろうか。異世界トラベラーねえ。あれか旅気分で楽しめばいいってことだな。

 やっぱり異世界言語があった。まあ、これから異世界を渡り歩くんだから必須だよな。スキル名称の後の()はおそらくスキルレベルだろう。無限収納の後の低ってなんだ。無限なんだから容量が変わるのはおかしいよな。無限収納とは?と頭で問いかける。


□無限収納(低):何でも入れれる便利な亜空間ボックス。中では時間が進まない。低レベルでは生物は入れることはできない。異世界移動時は持ち運べない。


 やはり検索できたか。思った通りの機能だった。しかし、レベルが上がると生物まで入れることができるのか。うーん想像以上だ。異世界移動時は持ち運べないで分かったぞ。異世界アタッシュケースはその例外で幾らかならそれに入れれば持って行けるってことだな。


□異世界アタッシュケース:その通りです。


 おい、説明を省くなよ。それだと幾つ運べるかわからねーし。あと気になるのは加護がMAXとは。十二神の加護とは?


□十二神の加護:通常は一人一人の神の名前のついた加護である。が、面倒臭いので一つにまとめた。その効果はヒミツ。


 おい、面倒臭いってどういうことだよ。糞、奴ら面白半分にやりやがったな。まーおいおいとわかるだろう。


 ふう、納得したらなんか眠くなってきたな。まー赤子だから仕方ないか。明日から頑張ろう。なんか年甲斐もなくわくわくしてきたな。

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