第3話一回目の別れ

「 意味が分からなくても仕方ないさ 誰だってそう思ってしまうから。 」

 青年はなんでもお見通しのようにそう言った。

「 ほら、あそこを見てごらん 」

 そう言って青年は右手を出し、指を向けた。僕は青年の言われた方向に視線を移す。

そこには、喧嘩している猫が二匹いた。

 一匹は地面に立っている猫で、もう一匹はその猫にとびかかろうとしている猫がおり空中で止まったままだったのだ。

「 これで時が止まっているってことは信じてくれたかい? 」

 僕は信じられなかった。僕は10年間生きていて時が止まるなんてことは学校でも習っていないし、見たことも聞いたこともない。てっきり、空想の話だと思い込んでいた。いや、たぶん大人も知らないことだろう。もし、そういうことが起こるなら教えてくれていてもいいはずだ。

 なら、なぜ僕は動けているのだろうか?

 僕の脳裏に疑問が浮かぶ。また、なぜこの場所にいることが出来るんだろうか。普通の人ならこの場所にいることは出来ないみたいだし、みんな動けないはずなんだ。

 そうか・・・だからこの人はさっき、どうして此処にいるのかを聞いてきたんだ。

僕は頭がごちゃごちゃになってしまい、感情を抑えきれず、大きな声で焦りを見せるかのように青年に言葉を発した。

「 なら、この『時のはざま』という場所は何なんですか⁉ なんであなたはここにいて、僕はどうしてここに迷い込んだんですか⁉ 」

 僕はそのことを聞かずにいられなかった。答えが返ってくるかはわからなかったが僕の頭の中では理解できなかった。それに、今頼る人が目の前にしかいなかったのだから…頼るしかなかった。もし家に帰れなかったらどうしよう。お母さんやお父さんに会えなくなったらどうしよう。と僕はとても不安になり焦った顔をしながら青年のほうを見ている。

「 そんなにいっぺんに質問しないでおくれ。僕にわかることなら教えるから。あと大丈夫。僕が君を家にきちんと帰すから安心していいよ。 」

 青年は僕の焦りのある顔をみて、落ち着きを取り戻そうと余裕のある顔をしながら優しく答えてくれた。僕はその言葉を聞いて落ち着きを取り戻し安心した。

「 すいません。...ありがとうございます 」

 僕は青年に感情を取り乱したのが急に恥ずかしくなってしまい、顔を下に向きながら、小さい声でそうつぶやいた・・・

 そのつぶやきが聞こえたのかはわからないが、チラッと一瞬顔を覗き込むと、青年は嬉しそうに微笑んでいた。

そうして、青年は僕の質問に対してわかりやすく丁寧に答え始めた。

 「 ここ『 時のはざま 』はね、正確にいうと現在、君たち人間が住んでいる町の時空のゆがみなんだ。この時空のゆがみは、時間が動いていない場所であって、本来の人間たちには知られるはずのない場所であるんだ。そして、この場所の存在する理由の一つが、感情を持っていない者たちの音楽会場さ。道路や車、信号機などが僕たちの音楽を聴くためのね。もちろん、人にとっては感情がないように見えるけど、本来この世には、すべての物には感情があって、それを唯一感情を出せる場所でもあるんだ。それを僕達『調律師ハーメルという演奏家たちが感情を持っていない者たちに演奏するため、ぼくは夜に毎日、街に出かけ『時のはざま』という場所で演奏しながら散歩しているんだよ。」

 「 感情を持っていない者たちの音楽会場・・・・ 演奏家の調律師ハーメル・・・」

青年を追っていた時に起こったことを思い出し、あの素敵な光景や感情がいてもたってもい音色をぼくは思い浮かべた。確かにそういっても不思議ではないだろう。

 でも、僕はなぜ自分がここにいるのかわかっていない。青年が答えた回答の中に僕の質問は全て答えてくれたわけではなかった。僕はその理由を知るために聞いた。

 「でも、僕がなぜここにいるのかは理由になっていませんよね?」

青年はハットを深くかぶり、沈黙した・・・

なぜか、青年は覚悟を決めたのか、顔を上げこちらに真剣なまなざしをむけ話をしだした。だが、目の奥には動揺が走っていた。まるで、信じれないかのように。

 「 実は僕も、君がここに来れた正確な理由はわかっていないんだ。僕は、今まで10年間この町で演奏をしてきたが、人が迷い込んだのは初めてなんだ。なぜ、今日の夜、突然に君が迷い込んできたのかはわからない。でも・・もしかしたら君は・・・」

 青年は何か知っているのか、うれしいような悲しい顔をしている。僕はまだ青年の顔の意図を読み取れず、青年の顔を見つめ返していた。

 「とりあえず務、君を元の世界に帰そう。僕についてきてくれ。」

青年は、いまするべきことを思い出し、ぼくにそう言った。

青年は黙ったままで、考え事をするかのように歩いている。僕も黙って後ろをついて行くしかった。

 青年と僕は、家の近所である公園まで来た。そこまで歩くのに僕はとてつもない時間があったように感じた。だが、今いる場所は時が止まっている。どのくらい時間が経ったのかもわからない。時間感覚もわからなくなっていた。

 「務、ここからなら君は一人で帰れるかい?」

 「ここまで来たら、大丈夫です! 余裕で帰れます。」

 僕の言葉に青年は、微笑む

  「なら、ここで君のいるべき場所へ帰そう。」

そういうと、青年は首にかけていたフルートを手に取りフルートのふくポーズをとった。そして、小さい声で魔法のような言葉を発した。

 「時空じくうを超えてつながり 叶えかなでよ こんときをいま一つに」

青年はフルートを吹き始めた。あの時とは違った音色で、この音色は静かで周りに響いた。まるで誰かに包み込まれているような優しい音色だった。

そうすると、音色が実体化してぼくたちの前に集まりだし、扉を作った。その扉は銀色のような色をしており眩しく光っていたのだ。

 「もう大丈夫。この、扉をくぐったら帰れるよ。」

フルートを吹くのを終えた青年は僕に言う。僕はごくっと唾を飲み込み、扉のノブに手をかける。そうした直後、青年は僕に話しかけてきた。

 「務、君にとってここの場所は、どうだったか。聞いてもいいかい?」

僕は一瞬考える。今日のあったできごとを思い出し僕は言う。

 「僕は、この場所を嫌ってはいません。そりゃあ少し戸惑うこともあったし、不安もありましたけどやっぱり素敵なものを見ることができたし、何より楽しかったから。それにあなたとも会えましたし。」

 僕は笑った。

 「君はまたこの場所に来ることになると思う。」

 「えっ!?」

 「たぶん、明日また出会うだろう。まだ可能性の話だが、もしあしたもここに君が来れることが出来るのなら、ぼくの最高の演奏を聞いてくれないか?。いや、聞いてもらえないだろうか?」

 僕は真剣に言っている青年を見る。

 僕は聞きたかった。もう一度この人の音色を。この人の最高で素敵な演奏を...最高の演奏っていうぐらいだからとてつもなく素敵なんだろうな。僕はその言葉を聞いただけでドキドキした。

もし、その素敵な音色を聴かせてくれるのなら…

 「はい!!聞きたいです。」

僕は元気のある聞きたいと僕は聞きたいと返すような返事をした。その返事に青年はとてもうれしそうなそして、顔をくずし泣きかけていた顔をしていた。

 「僕はまたあなたに会いに行きます。また明日に会いに行きます。おやすみなさい。」

僕はそう言って、元気よく扉を開きくぐった。扉をくぐる瞬間に「おやすみ」と僕は聞いた。扉をくぐった後、振り返ってみると扉などは存在しなかった。まるで、扉など元から存在してなかったように。

本当に帰れたのかわからず、辺りを見渡していたが「ワオォォォォォォォーーーーン」と犬の遠吠えが聞こえた。

なので僕は元に戻ってきたとわかり走って家に帰っていった……

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