第2話 喰鬼




○大学内廊下 正午

(斗々はバイトで居ない)

詩緒「ちょっ、絢どうしたの!?」

肘や膝に絆創膏。掌にも擦り剥けた跡が覗いている。

絢「おはよー、昨日の帰りに躓いて転んだ。めっちゃ痛いし恥ずかしかった...。」

晃晶「気をつけろよお前...❪呆れ❫。」

絢「あはは...。」

瀬戸「その歳で転ぶとか。見たかったわー。」

絢「...おいー、心配してるんじゃないのっ!」

詩緒「あ、病院行った?どうだった?」

絢「ああ、うん。一応薬貰って来た。」

詩緒「そっかー。」

ホッとする詩緒。


○大学敷地内 屋外 午後

課外授業で大学の外へ出てくる絢と詩緒。

詩緒「あ、そう言えばさー。明後日、高校の同じクラスの人たち集まって同窓会もどきするんだけど、絢行く?瀬戸と晃晶は行ってもいいって。」

絢「え、何。唐突だね。良いけど。」

詩緒「そう、私も今朝メール来ててさー。あ、そうそう!その時、美沙居るじゃん?体育会めっちゃ盛り上げてた!」

絢「あー、懐い!」

詩緒「でね、美沙が結婚して子供産まれたみたいでさ!早くない?」

絢「...へ...ぇ......❪耳をさり気なく押さえる❫。」

詩緒「少しだけどその子と顔見せるって言ってたんだ。楽しみだね!」

絢「うん...!(子供...)」

ふと、ノイズのようなメロディが耳鳴りと一緒に流れてきた


......... ......... ...........................


絢「...?(何...?)」


この日から、不可解(おかし)な事故と唄が聞こえることが多くなっていった。


○大学内 “日向旱和の部屋” 同時刻

屋外に居る絢の様子を、椅子に腰掛け、窓越しに見つめる日向。

付けっぱなしにしたテレビからは、ニュースが流れていた。

NC『 ......で、再び体中に怪我をした、若い女性が犠牲となる、軽自動車との衝突事故が...』

事故に遭った女性の知り合い『 ...耳鳴りもそうだったけど...何か、変な事言ってたな......』

日向「......❪テレビは見ず❫。」

その時

カタンッ

と、扉の外で音がした。出てみるも誰の姿も無く、扉に掛けておいたはずのプレートだけが落ちていた。


○同窓会会場 夕方

同窓会もどきに向かう途中で、三度転びそうになり、二度走行車とぶつかりそうになった絢。

晃晶「❪溜め息❫首輪付けるか、もう。」

絢「ごめん...❪苦笑❫。」

四人の後から美沙が現れる。

美沙「遅れてごめん、みんなっ!」

詩緒「わ、美沙久し振り〜!!」

美沙「あ、詩緒じゃん。大学どう?」

詩緒「楽しいよ〜。四人一緒だし!」

美沙「へぇー...騒がしいね。」

瀬戸「おい、お前今誰を見た。」

詩緒「ってやばい、美沙の子可愛いっ。いくつ?」

美沙「今一歳二ヶ月くらいかな!」

詩緒「へぇ〜!」

頬を啄く晃晶。手を触る詩緒。頭を撫でる瀬戸。耳を押さえる絢。

詩緒「絢見て、可愛い!」

絢「うん...かわいい❪笑う❫」

手を伸ばしてくる子供。

絢「......っ❪冷や汗❫。」

晃晶「......。」

美沙「あ、ちょっと委員長!?やっばい、めっちゃ印象変わった!!」

寸での所で美沙が会場の中へと入って行った。

絢「......(ホッ...)。」

ドクドクと心臓が鳴る。

絢「......っはぁ......(ダメ。...忘れなきゃ)。」


(FB)

幸せそうに笑い合う、絢と真嵜。

とある事故で亡くなる真嵜。

泣き崩れる絢。


......め ......... か......なか... ......は


詩緒「あれっ、斗々?」

詩緒の声にハッと我に返る絢。

斗々「あれ...どうしたのみんな一緒で。」

瀬戸「高校の集まり!斗々はバイト?」

斗々「そう❪頷く❫。同窓会...か、いいね。」

絢「......はぁ。」

少し上がった呼吸を整えるように胸を撫で下ろす。

斗々「小豆沢。」

絢「えっ」

驚き、声が裏返る。

斗々「あんまり遅くならないようにね❪笑う❫。」

絢「あ...うん。ありがとう。」

ほんのり頬を紅潮させ、笑う。

晃晶「......。」

そんな絢を見つめる晃晶。


○大学内 “日向旱和の部屋” 夜(同日)

日向「...ふー。」

自室に着くと電気を付けながら、テレビのリモコンを取り、眼鏡を外す。

NC『 ...⭕∆市内で火事が...』

NC『 ......少し離れた∆∆市では、雨で川が氾濫し...』

幾度かチャンネルを変えると、生中継のインタビューをしていた。

NC『 〇〇町で三日前から行方不明だった、二〇代の女性が先程、∆◻川付近の廃屋のビル内で発見されました。』

日向「...❪食い入るように見る❫。」

女性『 すみません...少し耳がおかしくて...。』

現地アナ『 犯人を見ましたか?』

その質問に何故か異常な程動揺した女性。

女性『 見てません!何も!!...く、暗くて、声からは若いような感じはしましたけど、何も見てません!!本当です!!』

現地アナ『 そ、そうですか...』

女性『 あ...すみません...暗くて...怖くて......すみません.........』

日向「......(これは...)。」

眉間に皺を寄せながらテレビで怯える女性の体を凝視する。傷だらけ。

その時、ふと、白い霧のようなモノが、日向の視界を遮った。

喰鬼〔見ているな、奴を〕

日向「...いきなり出てくるの止めろ。誰か居たらどうする。」

喰鬼〔ずっと気配を消すのも疲れるんだ。それにもう、今日は誰も居ない〕

日向「......❪目だけ動かし、閉じる❫はぁ...。」

椅子に凭れ掛け、首に下げていた小瓶を取り出す。

日向「...お前の案に乗って一〇年。一度も姿を現さない奴は、本当に居るのか?お前の出任せじゃないのか。」

喰鬼〔...そこに映っている女は奴に会っている。そして、何かを見た。それだけは確かだ〕

日向「❪小瓶を遊びながら❫...お前を信じてもいいのか。」

喰鬼〔...勿論〕

日向が椅子から立ち上がった。

日向「いつか首を取られるやも知れんお前を、ここまで信用してきた俺も堕ちたもんだな。」

喰鬼〔一〇年、一緒に居て未だ言うか〕

日向「言うさ。」

珈琲の入ったカップを片手に、再び椅子に座る。

日向「お前はこの間も若い女性を殺した、奇っ怪事件の犯人と同じ、喰鬼だからな。」

喰鬼〔同じじゃなくて、同種って言って貰いたいね。アレは全く別の喰鬼なんだからさ〕

日向「言われなくても。❪珈琲を啜る❫で?見てるって、何で分かったんだ?」

喰鬼〔目〕

日向「目?❪テレビの女性を見る❫」

喰鬼〔喰鬼や奴を目の当たりにすると、その力にアテられて、一定時間、目がうっすら赤くなる。人間は気付いていないみたいだけど〕

日向「...言われて見れば」

喰鬼〔奴がそれを知らない訳が無い。意図的な行動だろうね。敢えて助け、俺たちにソレ(目が赤いこと)を見せる。...既に俺たちの事を知っているな〕

日向「......傷だらけの女性か...。奇っ怪事件とそっくりじゃねぇか。」

喰鬼〔それ〕

日向「......はっ、成程な。挑発的な野郎が❪睨む❫。」

喰鬼〔...やっぱりそれがあんたらしいな。人間に対するあんたの振る舞いは、はっきり言って気持ち悪い〕

日向「...おい。」

喰鬼〔どうしてそこまでして素を隠す〕

日向「......喰鬼にゃ分かんねーよ。人間関係なんて、偽りばっかなんだからな。」

喰鬼〔...あっそ。喰鬼喰鬼って言うけどさ、俺だって元々人間なんだからな〕

日向「はいはい、うるせーうるせー引っ込め寝てろ。」

カメラが日向の身に付けるネックレスの先の指輪と、腕のブレスレットに焦点を合わせた。






...つづく

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