I know the answer

オノマトペとぺ

第1話

ここではないどこかへ君は行くらしい

どこかと問うても、答えはなかった

遠いのかと問うたら、君はこちらを向いた


「...物理的に?」

その一言でまた君は口を閉ざしてしまった

その表情は強張っているわけでも、愉快そうでもなかった

いたって自然な表情と口調で、僕には飲み込めないことを

君は投げてよこしたんだよ


問うたのはこちらのはずなのに、問いで君は答えるから

僕は途方に暮れて視線を彷徨わせる


物理的に、と君は言った


そうだ、僕は物理的な距離が知りたいのだ

君の言うどこかは地図のどこに載っていて、

ここからはどれほどに遠くて近いのか

それを僕は知りたいのだ



否、と僕は考え直した

そうではないのだ、きっと違う

僕はただそのどこかが実在するのかを知りたいのだ


そこは僕でも頑張れば辿り着けるのか

君を探しに行けばいつか会えるのか

明確な何かを示さない君に

僕は不安を覚えているのだ


すぐに帰ってくるよね?

会えなくなるなんてないよね?

僕の知ってるどこかに行くんだよね?


親とはぐれたこどものように

思考が霞み、全てが不透明になる



君の視線が見つめる先は、僕のお気に入りの本棚

こどもの頃からなぜか手に取ってしまう作家の小説でいっぱいだ


でも、君はその数々の本の背表紙も

やっと読めるサイズのタイトルも

見てはいないんだろう?


わかっているのに、わからない

君の向かう先も、僕に残された可能性も


だから君の問いには答えず(お互い様なのだし)

僕はやっとのことで声を発した


「...一人でいくの」

疑問符はうまくつけられなかった

僕はもう答えを知っているのだから


「物理的に。」

さっきと同じ言葉を君はもらした


変わったのは、疑問符が消えたこと

確かな何かを述べた雰囲気であったこと


それだけだ


でもそれで十分なのだ

僕にとってはそれでよかった

思考を霞ませる靄は拡散して消えていった


君はどこかへ行く

物理的に一人で

物理的に遠くへ


されば僕も行けるのだ

精神的に君は一人じゃない

精神的に遠くはない


だってそういうことなんだろう?

僕の心は切り離さずに

連れて行ってくれるのだろう?


今度はうまく疑問になった

またしても僕は答えを知っていたのに

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