不動の何か。

いつかなくなるものを愛するのは切ない。


結局、自分か愛情の対象かどちらかは必ずいなくなるのはわかっているのだけれど、「無駄な努力」はどうしてもしたくなかった。


確実なもの、揺ぎ無いもの、絶対的なもの、自分というあまりに不鮮明で寄る辺ない、あてにならない存在を肯定してくれる価値を、ずっと求めていたのだと思う。


絶対か相対か、どうしても「絶対である」と言えるものが欲しくて、そうであるものにだけ価値を見つけたいと思い続けてきた。


しかし、「絶対」的なものは存在しないような気がしてきた。

あるのは、自分にとっての「絶対」であり、自己という殻に閉じこもって初めてわかる「絶対」だった。


世界の様相なんて語る術もない。


世界は広い。

世界は変わり続ける。

世界は全ての人間を抱き、全ての人間に抱かれている。

人は変わり続ける。

人は個人としての一回性を越え、存在として誕生と消滅を繰り返す。

人はいなくならない。

世界は終わらない。


何の知識も考えもない頭から取り出せるのはせいぜいそれくらいのアイデアで、どこが始まりかさえわからない。


終わりなく流れるものか、円を描きながら巡るものか、時間や世界の概念はわたしの頭には納まらない。


流転する、と言えば言いのだろうか。

全ては変化し、動き続ける。


「絶対」の指標なんてどこにもない。


あるのは、自分にとってという限定的で都合のいい「絶対」だ。

ただそれを見つけ出し、信じ続けることのできる人間は幸福だと思う。

そういう「絶対」は、自分で自分に価値を与え意味を認めることを可能にする。


認知欲求と繋がる人間の根底に流れるもの。

あるいは根底に溜まるもの。


静態を知らない世界の中で、人間の淵に溜まる不動の存在。

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