みちびかれた男女

第1話

夏も終わりに近づいた頃、男は宮城県気仙沼市から船に乗り気仙沼大島という島に渡った。男は観光協会に行き受付のアライに声をかけ、自転車を借りた。気持ちの良い青空で海からの涼しい風が吹き、サイクリング日和だった。向日葵が植えられた道を走りながらどこに行こうか考えてしばらく走っているとお地蔵様が並んでいるのを見つけた。近くに自転車を止め、歩いてみるとそのお地蔵様は赤い毛糸の帽子をかぶっていた。お賽銭を入れて拝み、立て看板を見た。『みちびき地蔵』とあった。この島に古くから伝わる言い伝えを読んだ後、男は周りを見渡しその舞台になった亀山に行ってみることにした。自転車に戻ろうとした時、足元に青いハンカチが落ちているのに気が付いた。交番に届けようと思った男は見つけた青いハンカチを拾い上げリュックに入れた。そして男は自転車で亀山に向かった。アライの話では亀山に自転車で行くのは大変との事だった。体力には自信あった男は何とか亀山の麓まで辿り着いた。駐車場にはすでに先客がいた。そこからは歩いて上ることにした。途中カモシカに睨まれ立ち往生するもなんとか頂上まで登り、景色やの写真を撮った。亀山からは島全体が見渡せた。頂上にあるベンチで休んでいると一人の女性が下を向きウロウロしていた。

「何か探し物ですか?」

男が尋ねると女は顔を上げて手で汗をぬぐいながら

「この辺に青いハンカチ落ちていませんでしたか?」

まさか絵に描いたような偶然なんてあるわけないと思いながら、リュックの中の青いハンカチを取り出した。

「これですか?」

「そうです。どこにありました?」

「みちびき地蔵のところに。」

「そうでしたか。ありがとうございます。」

そう言うと女性は山を降りていった。

不思議な青いハンカチの女と別れた後、長旅で疲れた男は旅館に向かった。着いて休憩している頃、女将さんが「夕食がそろそろ出来ます!」と声をかけてくれた。

その日の夕食はその日に獲れた食材で作られていた。今まで食べたことのないホヤやウニ、ヒラメ、夏マツタケのご飯と多くの美しい料理が並んだ。同じ食堂にあの青いハンカチの女の姿を見かけた気がした。さすがにそんな偶然はないだろうと思った男は特に声をかけることもなく食事を済ませ部屋に戻った。男は汗を流したくなり風呂へ行き、その帰りに旅館の外にある自動販売機でペットボトルのお茶を買った。空を見上げると東京では見られない程たくさんの星を見ることが出来た。思わず男は頭にかけたタオルを落としそうになりながらずっと上を見ていた。

次の日、男は太陽の光と小鳥のさえずりで目が覚めた。カーテンをうっかり閉め忘れていた男は「こんな暮らしも悪くないな」と思いながら布団を出た。朝食の時に「観光協会で貰った地図に書かれている『十八鳴浜』という地に行きたい。」と女将に言った。女将の話では『くぐなりはま』と呼び、浜の砂を踏むと「キュッキュッ」と音が鳴るそうだ。しかしその砂が乾いていないと鳴らないという事を聞いて一層興味が湧いた男は自転車で向かうことにした。旅館から十八鳴浜まではかなり距離があった。しかし、入り口がよく分からない。自転車で入れるような場所ではなさそうだったので、自転車を降り歩くことにした。林の中を歩き、足元も不安定な中やっとの思いで浜へ出ると、一人の女がいた。その女は流木に腰をかけ海を眺めていた。男は女のことは気にも留めず、浜の砂を鳴らしていた。浜の砂を鳴らしてしばらくして浜にいる女の事を考えると、男は変な予感がした。行く先々で出会うはずがないと思いながらその場を去ろうとした時、女が声をかけた。

「あの、ハンカチを届けてくれた方ですか?」

「はい。」

「偶然ですね。」

偶然が二度も重なるのにもビックリした。もしかしたらあの時の女もこの人かもしれない。そう思った男は思い切って泊まっている場所を聞いてみることにした。

「私は昨日、観光協会さんが紹介してくれたこの旅館に泊まっています。どちらに宿泊していますか?」

そう言って地図で泊まっている旅館の場所を指差すと、女もビックリした表情を見せた。

「私もここに昨日泊まりました。私は自分で見つけて。」

二人はそれから一緒に島を回ることにした。二人は大島神社に向かった。二人でお参りをした後、神社の階段に腰をかけた。色々な話をする中で帰りの日程の話になった。

「そういえば、帰るのは何時頃ですか?」

「明日かな。」

「あっ。」

「え?まさか。」

「うん。」

「まさか出身まで一緒じゃないよね。」

「それは違う。」

「本当にそう?私は東北の方だけど。」

「私は東京。」

「良かった。これで一緒だったらどうしようって思っちゃった。」

男はそれが良かったのか悪かったのか分からなかった。男が女と別れ部屋に戻り、夕食の時間になった。男が食堂に下りると自分の席の向かい側にもう一つ席が用意されていた。しばらくすると女が降りてきて男の向かい側に座った。男が驚いた表情で見ていると女が少し照れ臭そうに言った。

「頼んじゃいました。」

「頼んじゃいましたって何で?」

「ご縁ですから。」

「ご縁ではありますが。」

「食べましょう。」

その日の夕食は会話も盛り上がった。その日の夕食にはウニが追加で出てきた。

「頼んでいないですよ。」

「ウニが最近増えすぎているから少し多く獲ったのよ。」

そう言ってウニを三匹、皿に置いていった。二匹を女が一匹を男が食べることにした。

次の日、二人はチェックアウトを済ませてみちびき地蔵に行くことにした。みちびき地蔵の前に着くと女が頬を紅くしながら男に言った。

「あの、また来年の夏にこのみちびき地蔵の前で会いませんか。」

「えっ。」

「じゃあこれ。」

そう言って青いハンカチを渡し女は走って船着場へ向かった。そのハンカチには小さな紙が折りたたまれて挟まっていた。

それは女からの手紙だった。

『初恋の相手様 来年までお元気で』

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みちびかれた男女 @ono-jin

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