月収13万円男、俺の頼りは年末ジャンボ。

花咲 まこと

職業、農業。

「農業って儲かるの?」


町に数軒しかない居酒屋。中学時代の同級生が集まって杯を交わしている。

何気ない会話の中でお互いの職業の話になった。


「まあ、儲かってる農家はスゲー儲かってるよ」


なるべく明るく、ハキハキはした口調で男は答えた。

男の名前は「田宮 修」。職業、農業。

大学をでたばかりの23歳である。


近年の日本では、農業を仕事として選択する若者が減っている。

そんな状況の中で農業を選んで働いている田宮に、ともに飲んでいる皆から質問が飛ぶ。


儲かるのか、の問いの答えで田宮は少しだけウソをついた。

正確には「まあ、儲かってる農家はスゲー儲かってるよ。でも、俺はそういう農家には出会ったこともないし、そういった話も聞かないけどね。」だ。


それなりの理由があって農業人口は減っている。収入が少ないのもそのひとつだろう。

しかし、田宮は自分の仕事である農業が儲からない職業だというのを認めたくない気持ちと、農家でも金持ちになれる、という期待もあってか、つい反射的にウソをついてしまう。


田宮は農業を仕事をしてはいるが、農家ではない。

地元の大きな花農家に研修生として雇用してもらい、2年後の独立を目指して、日々精進している「農業従事者」である。

週休1.5日、朝から晩まで汗を流して、「月収13万円」で働いている。


国民健康保険料、国民年金、ガソリン代 ・・・

少ない収入から様々な名目でお金が引かれ、彼に残るのはほんのわずかである。


「田宮は給料いくらもらえてんの?」


そんな質問に、正直に答えられない。

これにもまた、なるべく明るく答えた。


「ぼちぼちだよ、全然多くはないけどね」


夢見る若者は知っている。

農業は、儲からない。

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