第1話 小説家アシスタント募集!

【望月かおる先生のアシスタント募集!


 以下の条件にあてはまる方! 是非ご応募下さい。


性別 女性

年齢18歳~29歳まで

身長167㎝ 体重47kg

家事が出来てピアノが弾ける方! 他の能力は問いません】


スマホの画面に映ったその広告をもう10分以上見つめている。


繊細な女心を表現する望月かおる先生は一体どんな素敵なだろうかと考えるだけで、胸の奥がキュンとしてしまう。


面接は先生がするのかな?


応募したら先生に会えるのかな?


憧れの望月先生に会えるだけでも凄いよね。


これ以上ない程、胸がどっきん、どっきん鳴ってる。


こんな素敵な事に出会えるなんて思わなかった。



どうしよう、どうしよう、どうしよう……。


ああ、どうしよう。応募条件が全部、あてはまってしまった。

 でも、広告を見ると三ヶ月の住み込みとあった。


 うーん、三ヶ月……。


 純ちゃんに相談しようか。


『いちいち僕に聞くなよ』

 頭の中に純ちゃんの冷たい声が響いて、胃がビリっと痛くなる。


 結婚してからは4歳年上の純ちゃんに何でも相談するようになった。その方が年上の純ちゃんにとっていいと思っていたけど、結果として私は純ちゃんに寄り掛かり過ぎた。そんな私に純ちゃんはうんざりしている。


 三ヶ月か……。


 純ちゃんにもらった期限と同じ時間。


 この三ヶ月で私は変われるだろうか?


 望月先生が変えてくれるだろうか?


 これはもしかしたら神様がくれた最後のチャンスかもしれない。


――よし、電話しよう。


【望月かおる先生アシスタント募集】の求人広告は集学館しゅうがくかんのホームページに出ていた物だった。


 集学館と言えば創業200年になる日本を代表する出版社で、少年少女漫画雑誌、ファッション誌などでヒット雑誌を多く出す一方で、小説にも力が入っている所だ。


 昭和元年から集学館で年に一度行われてきた集学館文芸大賞は毎回テレビのニュースになる程注目され、その賞を取った作家は必ず売れっ子の作家になった。私の敬愛する望月かおる先生も集学館文芸大賞を取った作家さんだ。


 早速、集学館にアシスタントの事で電話すると、面接日がその日の夕方5時に決まった。近所のコンビニで3枚セットの履歴書の用紙を買ったけど、全部書き損じて、修正液で直すのも失礼な気がして、またコンビニで履歴書を買い、4枚目でようやく履歴書を書き上げた。履歴書なんて書くのも久しぶり過ぎて随分と手こずってしまった。


 気づくと時間はもう午後4時。早くスーツに着がえなきゃ。お化粧もしなきゃ。洗濯物も取り込んでいかないと。


 部屋中をバタバタと走り回り、グレーのパンツスーツに着替えて、マンションを出たのはほんとうにギリギリの時間だった。

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