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「危なかったな。なんとか、木の枝を使って、飛行機をとめることが出来たよ」

 五郎のあきらかな安堵の声が響く。

 かれの言うとおり、飛行機は森の樹上に停まっていたのである。木々の枝が、クッションとなって飛行機を受け止めてくれたのだ。

「じょ……冗談じゃねえ……!」

 勝がつぶやいた。

「こんな着陸って、あるもんか!」

 かれの言葉に五郎は肩をすくめた。

「ほかに方法はなかったものでね。着陸できるような広い場所が見当たらなかったし、あとはどうこの飛行機を停止させるか、だけだったからな。さてと、ひとまずこれで高倉邸には到着したわけだ。これからどうする?」

「まず、ケン太さんに会うべきです! わたくし、色々聞きたいことがありますの」

 美和子はすでに平常に戻り、背筋をのばし口を開いた。太郎にすがりついたことなど、まったく忘れているようだ。

 彼女の言葉に五郎はうなずいた。

「それならすぐに行動しなくては。こう、派手な着陸をしたからには、高倉コンツェルンの武装召し使いたちがすでに動き出しているはずだ」

「なんなの、それ?」

「あれだよ」

 茜の質問に、五郎は窓の外を指差した。

 木の間ごしに、はるか高倉邸の方向から数人の男らしき人影があたふたとこちらへ向けて走ってくる。服装はごくあたりまえのタキシードだが、そのプロポーションがひどくごつごつしている。肩や肘が突き出し、タキシードの下になにか、プロテクターを入れているようだ。

 かれらは武装していた。その手に握るのは、番長島でも目にした麻酔銃である。

「行くぞ……」

 五郎はつぶやくと操縦席のドアを開け、外へ足を踏み出した。

 あっ、と茜と美和子が悲鳴にちかい叫びをあげる。墜落した、と見えた五郎は、身体を伸ばして突き出した枝を掴み、くるりと体操選手のように回転すると、まるでましらのように枝から枝へ飛び移っていく。それを見て太郎もドアを開けた。

「待って!」

 美和子が太郎を止めた。

「あたし、子供のころから木登りは得意だったのよ!」

 にっこりとほほ笑むと、彼女は目の前の枝を掴んで宙に飛び出した。くるりと身を翻し、手と足を使ってするすると降りていく。そんな彼女を、太郎は呆れて見ていた。美和子の後を続こうと足を踏み出した。

「おい太郎!」

 勝が泣きそうな声をあげた。

「おれ……だ、だめだ……こんな高いところ、動けねえ!」

 太郎は同情したような表情になった。

「わかった。ロープかなにか探してくるから、待っててくれ。茜さん、お兄さんを見てあげてくれないか」

 茜はうなずいた。正直、兄がこれほどの高所恐怖症だとは知らなかったのである。

 太郎は美和子を追って外へ踏み出した。しなやかな枝を選び、体重をかける。ぐいっ、と枝はしなって、その反動を使って太郎は宙に飛び出した。かれもまた五郎と同じように、枝から枝へ飛び移って地面を目指す。

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