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「降ろしてくれ! 頼む、助けてくれえ!」

 飛行機の座席で勝は絶叫していた。全身をふんばり、顔からはたらたらと脂汗が噴き出している。

「お兄ちゃん、暴れないでよ!」

「いやだあ! 死ぬ、死んでしまう! おれは高いところが嫌いなんだあ!」

「騒ぐな、もうすぐ着陸だ!」

 操縦席で五郎が叫んだ。

 その時、エンジンの音がとだえた。

 ぎくり、と茜と勝は身体を硬直させた。

 ぱたぱた……と、回転していたプロペラが停止した。あとはひゅうひゅうという風の音だけである。

「ど、どうしたの?」

 茜の質問に五郎は首をふった。

「燃料切れだ……やはり航続距離が足りなかったようだな」

「そ、そんなあ……」

 茜はいやいやをするように頭をふった。勝はまっ白な顔になり、すでに喚く気力もなさそうである。

「着陸するぞ……」

 操縦桿を握り、五郎は宣言した。翼の揚力だけで飛行機を操る覚悟をきめたらしい。

 ぐいーん、と飛行機はおおきく旋回の飛行経路をとる。すこしでも揚力をかせぎ、接地速度を遅くしたいのだ。

 

 太郎は窓ガラスに顔を押し付けるようにして高倉邸の全景を見ていた。もしかしたら、高倉邸の全景の様子を記憶しておけば、あとあと役立つと考えてのことである。

 しかしこれが邸宅といえるのか?

 美的ではなかった。すくなくとも、太郎の知識に照らし合わせても、このようなかたちの邸宅は見当たらない。

 なにしろ建物……というより、建物群といったほうが正しい。どの建物が母屋なのか、離れなのかさっぱりわからない。手当たりしだい増築を繰り返し、その間を無数の通路が繋いでいる。通路は地上をうねうねと伸び、そして空中へと続いてまるで絡み合ったスパゲッティのような有様だ。あきらかに思いつきで建物をつけくわえ、それを新たな通路で接続しているらしい。

 建物の壁には無数の窓ガラスが不規則についていて、それらがちかちかと朝日を反射している。

 高倉邸からすこし離れた空き地に飛行船の巨体が横たわっているのが見える。飛行船の前にはこんもりとした森があり、木々の緑が盛り上がっている。飛行機はそこを目指しているようだ。

 窓から飛行機の翼を見ると、ぱたぱたとフラップが動いていた。

 着陸態勢をとったのだ……。

 しかし高倉邸にこの飛行機が着陸する場所はない。唯一の空き地は、飛行船が占有している。

 太郎は父親の五郎がどう着陸させるつもりなのだろうと思った。

 

「あの飛行機はなんだ……」

 上空を見上げ、木戸はつぶやいた。高度を下げる飛行機を見て、かれは走り出した。

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