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ステージではトミー滝が踊るような仕草でマイクに向かっている。
「みなさあーん! 今の見ましたですか? いや~おっそろしいほどの迫力でござんしたですなあ! さすが、最終日に残るほどの実力者同士の戦い! あたしゃ、興奮いたしましたです! それでは次の闘いにまいるといたしましょう!」
にやりと笑い、ふたたび撥をふりあげ、銅鑼をならす。
今度は勝の番だ。
うおお~っ、とときの声をあげ、勝はずかずかとコロシアムの真ん中へ進み出た。
その顔は期待に輝いている。
しんから闘いが好きなのだろう。
勝はステージの上のケン太を見上げ、叫んだ。
「おい、おれはちまちま勝ちあがることはしねえぜ! 面倒くせえ、どうせならここにいる全員と勝負してやる! どうだ、それなら美和子とすぐ勝負できらあ!」
勝の提案を聞いたケン太は、からからと笑い声を上げた。
「面白い! ほかの全員、だれでもきみを倒したなら、最終勝負に望むことが出来る、それならどうだね?」
へっ、と勝は鼻の先をぬぐった。
「あたぼうよ! さあ、全員、おれにかかってきやがれ!」
じろり……と、その場にいた全員を睨んだ。
美和子を除いたその場にいた参加者たちは素早くおたがいの顔を見合った。
ひとりひとりでは勝に勝てるわけない、しかし全員でかかれば……。
かれらの間にそういった合意がなされたようだ。うなずきあうと、そろそろと勝に向け包囲の輪を作る。じれたのか、勝は吠えた。
「はやくかかってきやがれ! 臆病者! 弱虫!」
勝の罵倒にかれらの顔が赤らんだ。
うおっ、と全員の足並みがそろい、中心に立っている勝に襲いかかる。
一瞬、勝の全身がかれらの輪に呑みこまれた。
と、まるで爆発がおきたように輪を作っていた参加者が投げ出された。
うう……、と何人かは苦痛のため地面でのたうちまわっている。
言葉にならない声で喚き、勝は滅茶苦茶に手足をふりまわした。
ごき! ぼくっ! といった鈍い打撃音が響く。そのたびにうめき声があがり、地面に倒れこむ参加者たち。
ついに悲鳴を上げ、残った挑戦者は勝の手を逃れるため走り出した。
勝の下駄の足音ががらがらと響き、追いかけ、髪の毛をつかみ、あるいは襟首を掴んで引き倒す。ちぎっては投げ、ちぎっては投げといった形容がぴったり来る戦いだ。
もう、それは勝負ではなかった。一方的な苛めといっていい。たったひとりが、逃げ惑う参加者たちを一方的に叩きのめしているのだ。
とうとう全員が戦意をなくし、ギブ・アップしていた。
「だれだ、まだいるのか!」
勝の目が、がたがたと震えているひとりのガクランの男に止まった。ひょろ長い身体つきに、手には木刀を握っている。馬のような長い顔に、ふさふさとしたもみ上げを蓄えて、それだけ見ると歴戦の勇士に見えるが、勝を見る男はすっかり戦意を無くしているようで、その顔は青ざめていた。
男はきょときょとと落ち着かなく周囲を見回している。なんとか逃げ出す隙はないかとさぐっているようだ。
勝はずい、とコロシアムの中央から男の側へに足を踏み入れた。
「こいよ! 勝負だ!」
男はいやいやをするように顔をふった。
「い……いやだあ……!」
からん、と音を立て木刀を放り出し、あとじさる。まるっきり怖気ずいている。
勝はいらいらしたように叫んだ。
「なんだとう……」
ひいっ、と男はぴょんと跳ねるように飛び上がると、脱兎のごとく走り出した。
勝はぽかん、と口を開けたが、むっと口を一文字に引き結ぶと後を追いかける。
「待て、卑怯者!」
コロシアムの中でふたりの追いかけっこがはじまった。
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