2.絶望の四季の国より

 つまらない。何もかもつまらない。楽しい事があったか、と聞かれても、すぐに考える事もなく、無かったと答える事が出来たと思います。


 だからいま、ぼくはさかなになった。


 ごぼぼぼぼぼ。ごぼっ。

 視界に僕の吐き出した空気が見えて、とても綺麗でした。きっと僕が今まで見た何よりもこれは綺麗だと、僕はそう思いました。

 僕は何のために生まれて、何がしたかったんでしょうか。僕はどうしてみんなみたいにお母さんが手をつないでくれて、いっしょに笑ってくれなかったんでしょうか。

 僕が悪い子だからでしょうか。それとも、お母さんは僕が嫌いだったのでしょうか。

 神さまがいるなら僕に教えてください。お母さんがよろこぶように、テストはいちばんになって、おうちのお手伝いもしたのに、どうして僕はみんなみたいに、すいすい泳ぐ金魚さんみたいにたのしく、自由になれないのですか。



 今日、僕はこの海にお母さんと遊びに来ました。お母さんは僕に「おさかなになっておいで」と言って、僕を置いてかえってしまいました。

 だから、僕は青い、青い海に入って、さかなになりました。

 でも、本当は自分でこっそり来るつもりだったけど、お母さんが連れて来てくれたから、ちょっと、今日はお母さんが好きでした。

 でも、おうちに怪物がかえってくるたびに怪物になるお母さんを思い出すと、お母さんは怖いです。

 怪物にあうたびにあかく、あおく、むらさき、きいろに。色がかわっていく僕のからだをさかなみたいに綺麗にするために、海に沈みました。

 お水の中は苦しいと思っていたから、目はつぶっていました。でも、苦しくなくて、足がついたから、目をあけました。さかなになれなかったのかな。ちょっと怖かったけど、目を開けました。

 するとそこには、あおに近いぎん色のかみの毛の女の子が、走って茶色いかみの女の人のところに行きました。きっと、あれがあの子のお母さんなんだな。

 女の子と、女の人がてをつないでるのを見て、僕は言いました。


「いいなぁ、お母さん。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る