海の少女と魚の少年

狂音 みゆう

1.水鏡の街より

 つまらない。何もかもが退屈だ。全ての物事がそうだとは言わないけれど、楽しい人生かと問われれば、それも違う。

 例えるなら、敷かれたレールの上を、前の車両に引かれ、後ろの車両に押される。そんな人生。

 少女は、キラキラと輝く水鏡すいきょうを見上げた。地上に浮かぶ世界のそのまた上で、絶対的な勝利を象徴する様な、太陽と言う星が笑っている。

 地上の人間が、水鏡を揺らし、美しい水紋すいもんを作り出している。

 別に見蕩みとれている訳では無い。つまらない人生の中で、毎日変化する物がこれしか無い。ただそれだけだ。

 何か、面白い事は無いかな。久々ながら、そんな感情が湧いた。

「そろそろ帰ってらっしゃい。」

 母の声だ。柔らかい、優しい声。

「…はぁい。」

 不機嫌気味な声。蒼銀の髪を揺らし、母の元へ駆け寄る。紐で結ってもなお、腰程までに伸びた髪が日に当てられ、きらり、きらり、と輝く。

 少女が1歩、1歩を踏みしめる度に白い砂が舞い、潜った甲殻類こうかくるいの生物が動き回り、小さな足跡を水流すいりゅうと共に流し、掻き消す。

 母の元に駆け寄った少女は、笑顔も浮かべずに、手を引かれて歩みを進めている。娘の蒼銀の髪を見て、母は物憂げな表情を見せた。己の不純な色が混ざった茶髪とは違う、青みの掛かった銀髪。虹彩こうさいの色も、周りの人間が黒い瞳を持つのに、この子は身体を流れる情熱的な血液の赤がそのまま映った様な瞳の色をしている。

 この子は美しい。いつも見ているし、いつも思っていたが、改めて見るとその美しさがよく際立って見えた。ぞわり、と背筋を氷で撫でる様な悪寒おかんが走った。


 __恐ろしい。こんな子が私の腹に居たなんて。


 少女の母は、自分の愚かな考えに悪寒を感じたのだと悟った。少し下の目線に居る少女は、何も気づかずに歩いている様だった。

 もうよそう。こんな事、考えたってしょうがない。少女の母はそう結論付けると、温かな日の差す家に足を進めた。

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