レイハ

「………………起きない……」

「起きないな……」

レイハを買った奴隷市場から離れた屋敷に着いて、気を失ったレイハをベッドに寝かせる事早数時間が経過した。逃げ出せない様に服は脱がせてある。

「…………何か苦しそうな顔してるね、耀翔アキト?」

「ン? 嗚呼ああ……ちょっと気になってな。レイハさ、オレ達を見た時一瞬だけど、怯えと諦めが混ざった表情カオしたんだよ……ソレが妙に頭に残ってんだ」

「…………過去に原因があるのかもね。扱いが酷いのは明白だし……」

「よく今迄死ななかったな……」

真っ白な裸体のレイハを見ながら耀翔は心配そうに頭を軽く撫でた。

「…………過去をある程度洗う必要があるかもね、彼の様子だと」

「だよなァ〜……じゃあ調べに行くか?」

「…………そうだね行こうか」

二人はそう呟くと立ち上がってそれぞれ、レイハの頭を撫でると部屋を出て行った。


ー寒いのは、嫌だ。寂しいのも、嫌いだ。そして……人が死ぬのも、殺すのも、嫌いだ。

奴隷市場で二人の青年に買われた後、レイハは倒れ夢を見ていた。思い出したくも無い過去むかしの夢を……。

レイハはあるごく普通の村に生まれた普通の子供だった。……瞳が開いて色が解るまでは。

瞳の色を見た時、父は半狂乱になって俺を殺そうとした。村人達も恐れて近付かなくなった。

父が殺そうとし、母が俺を連れて父から逃げなければ俺は彼処あそこで死んでいた。

逃避行しながらの生活はとても満足のいくモノでは無かったが、楽しくて充実していたと思う。

が、ソレは長く続かなかった。俺を殺そうと追い掛けてきた父に、母は俺を庇って殺された。母が流した血は紅くて生暖かった。血が顔にビシャアッと掛かって俺の顔を真っ赤に染め上げた。

結果から言えば俺は死ななかった。詳しい事は憶えてないけど、父は俺を殺そうとして抵抗した俺に殺された。また俺の顔を真っ赤な生暖かい鮮血が染め上げた。

ソレから俺は各地を転々と放浪しながら日雇いの仕事で、何とか食い繋いでいた。

何故かは解らないけど父から逃れてからも、他人から殺され掛けた。皆何やら叫んでいたけど、俺にはよく解らなくて必死に逃げるしか無かった。

奴隷商人に捕まったのは日雇いの仕事を終えて、帰っていた時にいきなり口を塞がれて、車に連れ込まれた。首筋にスタンガンを当てられたから気が付いたら檻の中で、手首を拘束されて逃げ出す事が出来ない状態だった。

逃げ出せない不安を感じて背筋を冷たい汗が流れた。

(怖い、暗い、嫌だ、寒い……誰か…………)

恐怖で震えそうになる身体を無理矢理抑え込んで、平常を保っていた。

着々と競りが終わり、俺の番になって檻をステージ上まで運ばれた。

其処そこで俺はお披露目という名の見世物にされた挙句、まるでモノの様に競りに掛けられた。周りは仮面を付けた上流階級の人間や、奴隷商人ばっかりで無意識に『ああ俺はどうする事も出来ないんだな』と肌で実感させられた。

諦めて成り行きを眺めていると、なんと俺如きに三億を出す奴が居て其奴ソイツに俺は買われるのかと思った。

が、乱入者が遅れて来た。約二名ほど。そして其奴らは更に驚きの行動に出た。最高額だった三億円の十倍、三十億で俺を落札したのだ。

(馬鹿だ……俺なんかに三十億、払うなんて……)

俺は呆然として三十億で落札した青年二人?(仮面で顔を隠している為よく解らない)を見た。

青年二人は俺の動揺を気にも止めず、マジマジと俺を見て嬉しそうに笑って名前を名乗った。

母親に相手が名乗ったら自分も名乗るのが礼儀だと、教わっていた俺は無意識に自分も名乗っていた。

車に乗り込んで互いに自己紹介した後、ふと視界がボヤけた。そして段々白く靄が掛かってきて、意識が深い闇の底に沈んでいくのを感じた。

「ア、レ……?」

「御休みレイハ……」

「…………have a good sleep tonight.」

二人の主人マスターの声を聴きながら俺の意識は暗闇の中に沈んでいった。

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