楡の木奇譚 -Elm folklore-
天音メグル
第1話 デッラエルロにて
我々は一片の魚となりて救い給ひし女神に祈りを捧ぐ。
―これは人が神にならず、地の女神が人を産み落とした神話の息づく世界の物語。
神に仕える僕たちは黒の僧衣を身に纏い、豊穣の女神の前に膝を折る。
皆、並べて母と子となり、彼らは互いに兄弟となる。
母にとって息子は特別な者となり、女神は息子にとって唯一無二の存在となる。息子たちは世俗を離れ、神たる聖なる母と永遠の契りを結ぶのである。
暖炉に石炭をくべ、街の辻を馬車が行き交い、車と電話がそう普及していない頃の、ユレビスという国のお話。
遠く北にカルド山を臨み、豊かな森と呼ばれる広大な森の中を流れるフィルミ川の中流に、女神エレディスの
豊かな森を二分するように流れる大河フィルミ川の支流、イル川の畔にも、同じく女神の学び舎があった。この学び舎は教区の教会であると共に、塔での暮らしに入る前に修学する為の施設でもあった。
その、学び
彼ら二人は樹齢百年はありそうな楡の木を見上げて、途方に暮れていた。
『高い高い楡の木
緑の葉陰に金の髪
ゆらゆら揺れて綺羅綺羅と
真昼の空に星明かり』
初秋の高く晴れた青い空に乾いた風が吹き渡り、木々の葉を揺らす。揉まれた木々は深い葉の表と葉裏を交互に覗かせてその強さに耐える。素朴な歌声は、静まりかえった中庭を螺旋を描いて空に吸い込まれていった。
「何?」
「童謡だよ。子どもの頃に歌わなかった? 『あの娘はブランコに揺られ、瑠璃の鳥の歌を聴く』……」
童謡の続きを披露し、眼鏡をかけた男は傍らに立って今し方自分たちが潜ってきた門を見遣る同行者の反応を窺う。その冷やかな横顔に変化は無く、感情の揺らめきが頬に上ることはなかった。
「知らない」
「ああ、そう」
否定された男は興醒めたように呟き、傍らの男は視線を移して目の前の木をしげしげと見上げる。
「枝ぶりがしっかりしいて、登りやすそうな木だな」
幹に手を当てて、その強度を測るように押す。無造作に伸びた少し長めの髪がそよ風になびくのも構わずに、彼はコルク質になった木肌の感触を確かめていた。金の髪が木漏れ日に輝く。その下にある相貌は、美男といって良いが、普段から半眼に構えたような視線の鋭さと、その血の通っていないのではないかとさえ思わせる表情の乏しさで、他人を寄せ付けない近寄り難さを纏っている。
それを高慢と感じる者もいるだろうとは、想像に容易い。だがその高慢は決して他者を侮っているからではなく、むしろ自身を卑下することのない、対等さからくるものであるというのは、長く付き合えば理解できるのだが。
同行者の相変わらずな言葉を受けて、彼は視線を上へと投げる。
「そうだな。他にも同じ事を考える不心得者者が居るらしい。この高さに枝があれば最適なんだが、丁度、剪定されてる」
近々剪られたのか、彼らの目の高さまでの手近な枝は切り口も新しく、落とされた跡があった。節目も新たな切り口は、ここ数週間の内に出来た物だろう。
「―この木に間違いないか?」
促されて、確認しようと眼鏡をかけた方の男は手元の手帳に目を落とす。
こちらは茶色のやわらかい色の髪をしており、後ろ髪と横は刈っていたが、頭頂にはふさふさとした巻き毛が波打っている。今も下を向いただけで彼の巻き毛は前方へと垂れ、再び顔を上げた時には前髪を掻き上げねばならなかった。丸眼鏡のせいもあってか、非常に親しみやすそうな印象で、よく喋る明るい性格であろう事を物語る。
「ノラスの庭の南、左から三番目」
読み上げられる言葉に合わせて、北を向いて木を端から数える。正面にはどっしりと構えた煉瓦造りの学び舎が、森の中でぽっかりと空いた空間の中、眼前に迫る程の規模で建てられている。それに隣接するように左手に時を知らせる鐘楼があり、右手には修練生が生活する棟が続く。森との境に周囲をぐるりと囲む塀を巡らせ、東西南北に門を置く。正面は北門でフェンネルと呼ばれる庭があり、南には裏門へと続くノラスの庭がある。大きな聖堂に続く天突く鐘楼といい、正統な造りではあるがこのような山奥にはそぐわない壮麗さで、まるで城のようだと二人は思った。
「……確かにこれだな」
中庭に生えた楡の木が五本。正面にある木を隣のそれと見比べながら、ぐるりと見渡す。並んだ五本の中で、一番背の高い枝振りのしっかりした木が問題の楡らしかった。卵形の縁がギザギザした葉が風に揺られて、ざわざわと音を立てる。楡は新緑が美しいが、夏の日差しを受けて蓄えた秋の葉は、冬へ向けて一層深い緑色をしていた。枝は灰色がかった茶色で、この一帯一面に根を張っているのだろう。葉陰の範囲は大きくて暗く、所々隆起した根が出ている。根本の下生えの草の中には少し窪んだところがあって、覗くと小動物の墓なのか、低い山なりになった土の上に石が載せてあった。
楡は湿潤な地を好むという。カルド山からの豊かな水が流れる、ファレンティアナの森の中、イル川沿いにある土地に適しており、また古くから「火を得る」と言い伝えのある神聖な楡は、そういった面でも植栽としてよく植えられる木である。平たい話が、中庭に植えられる木としてはごく平凡な種類であり、珍しくはない。もっとも、この木の樹齢からすると、学び舎よりこちらの方が先客かもしれなかったが。
「この木の、どこが問題なんだ?」
見上げていた視線を戻して向き直る男に、報告書の束に目を落としていた男が目を上げて至極真面目な顔で向き直る。
「出る、らしい」
「何が」
「亡霊さ」
「亡霊?」
怪訝そうに訊き返す男に、もう一人は報告書を叩いてそう書いてあると指し示す。徐に、彼らの足下をひやりとする風が吹き抜けた。
「若い修練生が、目撃したらしい」
おどろおどろしい雰囲気を演出しようと、低い声音で反応を窺うが、それは空振りに終わったようだった。
「へえ」
「気の無い返事だな」
咎められて、傍らの男は冷ややかで厳しい目を向ける。
「それはさぞかし肝を冷やしただろうが、それでどうして我々が?」
フィルミ川中流域に立つ「塔」からは上流に位置するデッラエルロまで、徒歩で二日。彼らの教義では直接馬に乗ることは出来ず、乗り合いの馬車を頼もうにも悪路で荷台が乗り入れられない。その距離を踏破してまで部外者の彼らが首を突っ込まなければならない理由の、見当が彼にはつかなかった。
「……一人じゃ無いんだよ」
連れの言葉に、男は神経質そうに弧を描く眉を絞った。
「前々から噂はあったんだが、ここ最近でも、少なくとも五、六人が目の当たりにしているらしい」
「多いな」
霊的な存在というものは、そうそう常人に見える物では無いはずだ。それが、能力如何に関わらず複数人に見えたとなると、事情が変わってくる。
「一人で見れば目の迷い、二人ならば何かの間違い、三人ともなれば疑わしい、四人ならば、騒動だ。……何かがあるとは思わないか?」
「何か、とは」
「原因さ。火の無いところに煙は立たない。亡霊騒ぎが何に因ったにせよ、それを思わせる何かが、ここに在ると言うことだろう」
「ふうん」
超常現象そのものよりも、どうやら騒ぎが起きていることに好奇心を駆り立てられているらしい同行者に、彼は相も変わらず気のない返事を繰り返した。
「まったく興味が無さそうだな、
「君は楽しそうだな、
嬉々とした反応を見せる連れに向かって、せいぜい嫌味が伝わるようにと、灰色の瞳で冷たく見返せば、同行者の苛立ちには頓着せずに、ライエンは明るく伸びをするように言った。
「窮屈な塔を出て過ごせるだけでも、心が躍るね」
実際に軽く手足を動かしながら、開放感を心ゆくまで味わおうと、ライエンは緑の匂いのする春風を胸一杯に吸い込んだ。
「幽霊騒ぎの鎮静に駆り出されても?」
全体、元々からしてホルターはこの遠出に乗り気では無かった。塔での静謐な空間で黙々と己の修練に励み、この国随一と言われる膨大な資料を誇る蔵書を収めた部屋で思索に耽り、積み重なった過去の大いなる遺産に触れる。そのような高尚な作業を中断して貴重な時間を奪われるのは、大変に腹立たしい事態だった。こうしている間にも書物の一つも開いて有意義な時間を過ごしたいというのが本音。但し、彼の不機嫌顔がその所為ばかりではなく素であるというのも、長い付き合いのライエンにはわかっているのだが。
「塔で生まれ育ったようなお前にはあの空気の重苦しさは理解できないかもしれないが、俺みたいな人間には、歴史と伝統と、長年の念が渦巻く空気が煮詰まって澱んだ、あの建物の雰囲気は息が詰まるんだよ。第一、廊下で話をしているだけで眉を顰められるんだ。始終、見張られているようで居心地が悪い」
普段からして思った事を率直に口に出すような彼が、塔での生活を不自由だと感じていたとは、少々驚く。そんなホルターには構わず、ライエンは目下自身の興味のある話をし始めた。
「それに、此処だろ? 金の女神像が聖堂に祀られているというのは」
「そうらしいな」
「何でも、大変な美人らしいじゃないか!」
うっとりと女神の容姿を想像するライエンを、ホルターは奇妙な生き物でも見つけたかのように眺める。
「女神像の美醜がそれ程重要か?」
理解できないといった態度で首を捻る同僚に、ライエンは唾飛ばす勢いで肯定する。
「当然じゃないか! 女人から遠ざかる禁欲生活の中で、唯一と言って良い女っ気だぞ?! 有り難く拝みたいってものだろう!」
不犯の誓いを立てた聖職者としては危うい発言の連続に呆れながら、ホルターは塔で耳にした情報を教えて水を差す。
「だが残念ながら、それは盗まれたと、専らの噂だ」
「何だと! ご不在なのか?!」
見る間に萎んでしゃがみ込んだライエンに同情の目を向けるホルターには、かける言葉が無い。
「仕方がない。残念ではあるがそれも運命だろう。楽しみは一つ減ったが、それでも目的は変わってないからな」
「どういうことだ?」
目的という言葉に反応しつつ、ホルターはライエンの切り替えの速さに、目を瞠った。目まぐるしく喜怒哀楽を表に出すライエンは、これで同じ職業を目指す同僚かと、時々不思議な気持ちになる。考えてみれば、真理を追究し女神の僕として敬虔な日々を送る職種としては、もしかしたらライエンの方が特殊な部類かもしれない。
しゃがんだ時に膝についた草を払って背を伸ばし、ずれた眼鏡を直すと、ライエンは学舎へと視線を投げた。
「こんな他人の厄介事に首を突っ込むような真似、バカバカしいとは思うだろうが、これは試練だからな」
「試練?」
「将来、塔を背負って立つのにどちらが相応しいかの試練さ。人心を収めてこその『長』だろう」
塔とは、彼らが信仰している女神に一生を捧げた者たちが世界中から集まる、謂わば総本山である。その長ともなれば、世の尊敬と敬愛とを一身に集める存在であり、多くの人々を正しく教え導くという重責も担う。そして当然の如く、絶大な権力も。
「それこそ、何の益があるんだ。私は別になりたいと思わない」
特別心動かされた様子も無く言い放つホルターを、ライエンはいつもの持論で諭す。
「何を言う。オルスティアーニ司祭の秘蔵っ子が。第一、如何に抗おうとも、それは自分で決めることじゃない。指名があれば受けなければならないし、逃れようと足掻いてもなる時にはなるのが運命だからな」
人はそれぞれ何事かを為すために生まれ、それは常に人智を越える力によって定められているのだ。望むと望まざるに関わらず。
「では、君はそんなものに本気でなりたいのか?」
「長になりたいということよりも、より困難な挑戦に闘志が湧くというだけさ。名誉職だからな。認められたいと思うことは悪いことじゃないさ。女神が俺を選ぶのであれば、それも運命だ」
生来の楽天家。そのように見えて、実は運命論者でもある。何かというと、頻繁に運命という言葉を引き合いに出すライエンに食傷気味のホルターは、これ以上の多弁をさすまいと得意の論説の展開を遮る。
「君の持論は置いておくとして、それで報告書には他に何と書いてある」
話を元に戻したホルターに、ライエンは手元の資料を読み上げた。
「休業日明けの二日目、火曜日。暁鐘の後で階段を降りていた修練生が踊り場の窓から人影らしき物を目撃したのが三ヶ月前で、日付から行くとそれが一番最初のようだな」
「階段の踊り場……ということは、あの窓か?」
二人は振り返り、鐘楼を見上げる。ここから三、四十歩も歩くだろうか。古い煉瓦積みの鐘楼は、木の二倍近くの高さが合った。その漆喰で塗られた壁面に、斜めに数個、恐らく内部を伝う螺旋階段に添って刳り抜いたような穴があり、ガラスが嵌められている。その二つ目が、目撃者が居た位置らしい。
「木の枝の高さと丁度同じくらいだな」
「それから?」
「次がその一週間後。同じく火曜日。目撃者は二人。二人は同様に木の中程に人影らしき物を発見。こちらはもっと具体的に薄もやの朝日の中で金色の髪が光っていたと証言。まあ、そうだな。金髪は……目に残るな」
ライエンがニヤリと揶揄するようにホルターの髪に視線をやった。癖の無い、サラサラとした髪は無造作に切られてはいても毛流れよく収まっている。それはホルターの秀でた風貌を際立たせ、また厳格で近づきがたい印象を与えていた。当の本人にしてみれば自分の持ち物に興味は湧かないかもしれないが、容姿の秀逸さはそれだけで周囲の羨望と賛嘆を生むものだ。ただでさえ明るい色の髪は闇にも紛れにくいが、彼のような金の髪を持つ者はこの土地では多くなく、よって自然と人目を惹く。
「印象には残るだろうが、珍しいというだけで、全く居ないわけではない。修練生の中にも何人かは居るだろう。目撃証言はそれで終わりか?」
「いや、まだ続いている。三番目の目撃は、木曜日。時刻は夕方。同じく木下に佇む人影を見たと証言している者がいる。学舎の二階から見た人影は、金色に輝いていたという。それから、四番目は金曜日。暁鐘の後、階段を下りる際に木の枝に隠れた人影を見たと言っている。驚いて立ちすくんでいる所を、定刻に鐘を鳴らして後から降りてきた友人に声をかけられて我に返ったそうだ。……最後は、今から四週間前の火曜日だな。夕暮れ時、木の根元が金色とも虹色ともつかぬ色に輝いていたらしい」
「五回も?」
噂というものは小さな火種が何倍にも膨らむものだ。それには一、二回で事は足りる。五回となれば、それはただの目の迷いや気のせいではなく、現象に格上げされる。しかも数人に渡っての認識の共有ともなれば、煙のような存在も真実味を帯び始める。
「だから大騒ぎしてるんじゃないか。気味悪がってこの木に近づく者さえ居なくなったそうだ」
確かに、夏前に刈り取られた下生えの草丈は、歩く者があれば身を横たえて踏み拉かれるに任せるしかない程の高さに成長していたが、近頃彼らの他に近頃近づいたような形跡は薄かった。
「繊細なことだな」
大きく溜息を吐く同僚に、ライエンが諭す。
「幽霊に慣れてないのさ」
「慣れの問題か?」
「取り殺されるとでも思っているんだろう。誰でも得体の知れないモノには近寄りたくないものさ」
肩を竦めてみせるライエンに、八つ当たりとわかっていてホルターが食ってかかる。
「もしかして、その所為で我々が呼ばれたのか?」
「まあそういうことだろうな」
「専門家でもないのに?」
「仕方がないさ。修練生たち学び舎に属する者は、外部との接触を禁じられていて我々のように身軽に動けない。しかも入学してから三年間、この学舎から一歩も出る事は出来ない。その上、ここの連中は心底縮み上がってて使い物にならないらしい。元々が大人しい群れだからな。それに部外者とはいえ、この学び舎は塔の直轄なのだから、満更無関係とも言えないだろう」
塔とは無関係でないにしろ、それでどうして自分達に白羽の矢が立つのか、納得しかねるホルターの怒りが再燃する。
「くだらないな! そんなことで私の貴重な時間を取られるのか。塔の文書庫で歴史書を紐解いた方が余程有意義だ」
語気荒く言うホルターに、尤もらしい言い様が更に不機嫌を煽ると知っていて、ライエンは一人、物わかりの良い大人の態度を崩さない。
「そうは言ってももうここに来てしまったからな。帰るには解決させる以外に方法は無い。さっさと片付ければ直ぐに帰れる。そうして実績を作れ、ということだろう」
風は穏やかに吹き渡り、秋の芳醇な森の香りを運んできた。揺れる葉音に耳を傾ければ、自分の拘りなど些細なことだと思えてくる。確かに、上席の者に命令されれば抗えないのが組織に属する一員の性だ。但し、それを縛りと取るか務めと取るかは各々の考え次第といったところか。
「実績、ね。私は放って置いて良いと思うけどな」
「ん?」
投げやりな言葉に、ライエンが振り向く。つと顎を上げて聳え立つ楡の木を見上げるホルターは、時折射す木漏れ日に目を細めた。
「幽霊騒ぎの後、何か問題があったか?」
「問題があるから我々が派遣されたんだろう。実際、金色のオバケが歩き回っていては、ここの連中の精神衛生上良くない。目撃情報が相次いでからというもの、日課もままならない騒ぎで、時間が経った今でも修練生達は浮き足立っているそうだ。それは塔にとっても由々しき事態だ」
「では、何か実害があったのか?」
「それは報告書には書かれていないな」
「だったら、わざわざ突く事もない。騒いでいた者たちも、そのうち忘れて日常に戻るさ。我々部外者が来たということだけでも一大事なのだから、本人達だってこれ以上は大人しくしているだろうしな」
含んだ物言いを聞き咎め、ライエンが問う。
「何やら見当でもついているような口ぶりだな」
「まあな」
涼しい顔で言って退ける同僚に、ライエンが驚きの声を上げる。
「え、もう?」
余りの呆気なさに拍子抜けした同僚を余所に、実にあっさりと、ホルターは解決策を口にする。
「要は怪現象の原因を突き止めればよいのだろう」
「まあ、簡単に言えばな」
半信半疑のライエンが相槌を打つと、ホルターは同僚に向き直ってきっぱりと告げた。
「全ては原因だ。それがあって初めて結果がある。動機を探りすぎるのが、君の悪いところだ」
未だ謎が解けないと名指しで非難されて、ライエンが抗議する。
「何を言う。原因を作るのは人の心理だ。無い物を在るように見るのが、人間というものだぞ」
「常に見詰めるべきは、可能性だ」
口元に笑みを浮かべるでなく、あくまでも面倒事に巻き込まれた部外者の態度で冷徹に、ホルターが断言した。
「可能性、ねぇ」
そう言われても見当もつかないライエンは、途方に暮れた顔で高い位置に聳える楡の木の先端までも捉えようと、首を長くして見上げた。
***つづく***
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