第27話 錯綜する意思
『右前!』
「んっ!」
『左下から!』
緊迫した紅炎の指示に、揺れるコクピットでソノイがヘッドギアを抑えながら指先を動かす。
「ん!」
シルフィードは指先の命令正確に追従した。ファイターモードと半人型の形で胴体を捻り、拳を振りあげるカートの打突を避けきる。
三発目は腰を下げて受け流し、アームハードポイントに異常加圧の警告表示がパネルにともる。
シルフィードは体勢を整えようとふたたび跳躍した。
「エンジンが回ってない! 燃焼室内温度が異常よなんとかして!」
『ファンを回してもう一度エンジンの再起動を……って、それソノイちゃんの仕事じゃん!?』
紅炎は吼えた。
電子妖精の紅炎は、可変型人工モビオスーツ・シルフィードの頭脳としてこの機体に装備されている。
「あなたがそういっても今は非常時! 今は私が許可を出して私が動かすから、紅炎はサポートを!」
『自分で出して自分で動かすとかー!』
シルフィードのサブバーニアに火が入る。シルフィードは、背部のメインエンジン二基と背面のサブエンジン四基、脚部に埋め込まれたバーニア、サブバーニアそれぞれ二基で全身を動かしていた。
「メインが死んでも、サブがまだ生きてる!」
ソノイは画面上に表示された「制限」の文字を横にスライドして無視した。
シルフィードは何かに手を出すことがいっさい許されていない。だが事故で機体が接触することくらいなら……
『武器ごと体当たりするつもり!?』
「勝機はある!」
シルフィードはブレードを収納し、マルチガンを前に構えた。
薄紫の煙を吐き出しながらマルチガンがガトリング砲を高速回転させ、跳弾と土煙と大量の空薬莢が地面にまき散らされる。
銃弾の当たる場所はすべて地面か、空の向こうだ。
カートには一発も当たっていない。
それでも、カートは自身の身を守るためにハンマーのような拳をいったん引いて身構えた。
「どこまで無敵なのか知らないけどね! そうやって自分の守って立ち止まった時が一番の隙だってことを、教えてあげるわ!」
わき上がる黒い粉塵と白い燃焼ガスを横に退けて、シルフィードのバックパックの光に勢いが増す。
身構えるカートに、シルフィードはめいいっぱい機体を押し込んだ。
「かかって、こいやーッ!」
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