雑談は高尚に

「ねぇ、妻って呼ばれたい? 奥って呼ばれたい?」


私の夫は脈絡のない質問を突然する。そう、例えば今、 私たちは名古屋名物らしい小倉トーストは許せるかどうかという高尚な議論を交わしていたところではなかっただろうか。


「妻」


すっかり夫の調子に慣れてしまっているため、うっかり即答してしまう。あぁ、小倉トーストの話は今日中にはもう戻って来まい。 小倉トーストを更に揚げたものまであるという夫の情報に思いっきりぎょっとした顔をしてやろうと思っていたところだったのに。

実に残念だ。消えた私の野望。次の機会まで覚えているだろうか。


「つまらないな。奥の方が良くないかい? 大奥だよ?」

「それで何、あんたに大奥を支えられるだけの収入があるの」


相変わらず理屈の通らない夫の理屈。私の反論に夫はたじろいだ。こういう戯言議論で私に勝つもりか、ちゃんちゃらおかしいわ。


「いや、それはあれだよ、奥が稼いでくれればさ」

「そんなけ稼ぎがあったら、あんたと結婚してないわさ」

「冷たいな」


きょとんとした顔で言う台詞なのだろうか。しょげるなり怒るなりしてみせろ夫。

仕方がないのだけれどね。こういう、 どこか飄々としているようにも見えるズレた反応をする人だから一緒に生活出来るって思っちゃったわけだし。


「やっぱ私、あんたが好き」

「唐突な告白だな。プロポーズのときもそうだった」


ふわり笑う夫の顔見ながら思い出す。そういえばそうだった。プロポーズは私から。 もんじゃ焼きはお好み焼きを薄くしたものだよねと話していたとき、私は言ったんだ、『あんたと暮らしたい』。


「あんたの答えはこうだったよね」


『じゃぁ、婚姻届を取りに行こうか。それとも家を探す方が先かな』


気が変わらない内にって届出を先にしたんだったけか、家を決めてしまったんだったけか。もう忘れたな。また唐突に思い出すのだろう、 高尚な雑談のあいまにも。



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そんな夫婦もいるさと

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