私が昔、小石だった頃

私は昔、大きな岩だった。山の上、ごろんと居座っていた。

そこは季節により鉄砲水の流れる場所だった。雪解け水が容赦なく私を打ち、そして春先だけ大きくなる川へと突き落とされた。

ごつりごつりいろんな物にぶつかった。それらは概ね私と同じような岩だった。ごつごつとした肌は固く、容赦がなかった。


山を降り、人里近くの幅の広いところまで来た頃には、すっかり私は丸くなっていた。角が取れ、すべすべとした小石になっていた。

静かな流れに洗われながら、私はとても穏やかにすごしていた。

時に人に拾われ、川中へと投げ込まれることもあった。だがどういうわけだか私は必ず川床から草がまばらに生える河原へと押し戻された。 川床にいる連中とは馬が合わないらしい。


少しずつ下流へと流れ行きながら、私はいずれもっと大きなところへと行けるのではないかと考えていた。 ところが思いもよらぬことが起こった。

私の流れ着いた河原が埋め立てられることになったのだ。

上流にいる連中がどんどんコンクリートに埋まっていった。私もいずれあの中に入って窒息することになるのだと覚悟を決め始めていた。


だが、思いも寄らぬことというのは、思いも寄らぬときに思いも寄らぬ奇跡を生み出すものらしい。

私は拾われた。埋め立てる男たちの一人に拾われたのだ。

男は私の肌を優しくなで、ほぅと溜息をついた。

こう言っては何だが、私の肌はそれはもう見事に磨かれ、 他の連中とは比べ物にならないくらいすべすべとさわり心地の良いものになっていたのだ。


こうして私は男の家に持ち帰られた。あの気持ちの良いせせらぎが私の肌をなでていくことはもうない。 乾いた棚の上、他の変わった石たちと共にある。


そんなわけで私は昔、小石だった。

今は棚の上の宝石。



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人生いろいろ

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