-10話 部活を作ってみては?

 僕、夏川京は今、春浦古都と一緒に職員室にいた。


 なぜ、職員室にいるのかと言うと、それは学校内で古都と一緒に、UTubeに上げる動画作りをやっていた為である。


 まさかこんな簡単に、それもあっさりと先生に見つかってしまうとは思っていなかった。


「全く、学校内で動画撮影なんてやったらダメよ」


「はいっ、すみませんでした……」


 古都に動画作りのやり方を教えていただけで怒られるなんて、ホント、ついてないな…… 


 まぁ、それは仕方ないとして…… 今、僕達の目の前にいる先生って言うのが、僕の姉である。そう、姉が通っている学校の先生をやっているのだ。


 最も姉の紹介もあり、僕がこの学校に通う事になったのだけど……


「どうして学校内で動画撮影なんてやっていたのかしら?」


 姉である先生に謝った後、姉は僕の顔を見ながら学校内で動画撮影をやっていた理由を聞いて来た。


「まぁ、それに関しては、この隣にいる春浦さんって人のUTube活動に少し協力をしていただけだよ」


「協力を? 一体どんな事をやっていたのかしら?」


「簡単に言えば、UTubeに上げる動画の作り方を教えていただけだよ」


「そうなの」


 姉である先生から、学校内で動画撮影をやっていた理由を聞かれた為、僕は素直にそのままの理由を言った。


 姉である先生に学校内で動画撮影をやっていた理由を言った後、古都の様子をチラッと見てみると、古都は職員室に呼ばれたことに関し納得がいかないという表情をしていた。


「どうして、学校内で動画撮影をやったらダメなんだよ!?」


 学校内で動画撮影をやっていただけで怒られた事に納得のいかない古都は、先生にその理由を不満そうに聞いてみた。


「そりゃあ、無許可で勝手に施設内の撮影をするのはダメでしょ? それは学校とかに関係なく、どんな場所でも一緒よ」


 姉である先生は、学校内で動画撮影をしてはいけない理由をあっさりと言った。


「だったら、学校側に許可を取ったらいいの?」


「多分、許可を取れば撮影は出来ると思うけど、個人的な目的であるUTube活動の為に学校側が簡単に許可をくれるとは思えないわ」


「それだと、学校以外で撮影をやらないといけないって事だよね?」


「まぁ、そうなるわね。でも、学校外での活動で何かしらのトラブルになったら、学生であるあなた達の責任は、同時に学校側の責任にもなるのよ。だから、黙って活動するのもあまりお勧めする事は出来ないわ」


「そんなトラブルを起こすような事なんかやらないよ」


「やらないと言っても、実際は何があるか分からないのがUTube活動なのよ。そうなる前に、なんとしても阻止しようとするのが学校側の本当の考えよ」


「という事は、学校に通っている間はUTube活動が出来ないって事なの?」


 生徒のトラブルになりそうな問題は、どんな事であろうとも予め阻止しようというのが学校側の本音だと、姉である先生は僕と古都にあっさりと言った。


 この考えに関しては、確かに学校側の考えは間違っていないと生徒ながらに思う。実際、UTuberになると、再生数を稼ぎたいという欲望から、炎上をしてでも目立たせようとする動画を撮ろうとしてしまう事がある為、学校側の考えはあながち間違っていないと思う。


 古都の問いに答える為なのか、姉である先生は両目を瞑り静かに回答を考え始めた。


「そんな事ないわ。意外にも簡単に学校内で撮影許可を取る事が出来る方法はあるわよ」


 そんな姉である先生が考えついた答えは、まさかの発言であった。


「その方法って、なんだよ!?」


「そうねぇ…… 部活を作ってしまえばいいのよ」


 姉である先生が思いついた答えは、部活を作るという案であった。しかし、事前にトラブルを防ごうとしている学校側が、部活如きでUTube活動なんか認めたりするのか?


「ねぇ、部活だけで大丈夫なの!? 学校側は事前にトラブル事を防ぎたいからこそ、UTube活動を認めようとしないんじゃなかったの?」


 姉である先生の言っている事の真意が気になった僕は、心配をしながら聞いてみた。


「そんなにUTube活動が出来るのか心配なの?」


「いやっ、そうじゃなくてさ……」


「まぁ、部活動としてのUTube活動なら、学校側でもどんな動画を上げているのかを常に監視する事が出来るし、学校側にメリットのある活動をやってくれれば、部活動ぐらい作ろうと思えば作れるわよ」


「そんな簡単な理由でいいの?」


「そうねぇ、最終的に部活動にしたいかは、生徒であるあなた達が決める事よ!!」


 姉である先生は椅子に座りながら、僕と古都に学校内で今後もUTube活動を行う事が出来る様にする為の方法を語った。


 部活動にしてしまえば、確かに堂々と学校内でUTube活動が出来るかも知れないけど、もし本当に部活動が出来てしまうと、僕は当初の思っていた期間よりも長く古都のUTube活動に付き合わされてしまうかも知れない? 


 流石にそうなるのは面倒だと思い、このまま部活が出来なければ良いと思っていても、肝心の古都に関してはそうは思わないだろう。


「もちろん、部活を作る事でUTube活動が認められるなら、私は部活を作るよ!!」


 僕の予想通り、古都は部活を作ってまでも学校内でUTube活動をやるという道をあっさりと選んだ。


「そう。春浦さんは部活を作る事に賛成ね。ところで、京くんはどうなの?」


「どうって言われても、僕はもうUTube活動をやるつもりはないし、別に部活なんて作りたいとは思わないよ」


「そうなの? 昔はみんなと楽しそうに動画投稿をしていたのに。辞めた途端考えがあっさりと変わるのね」


「別に昔の事はいいだろ」


 姉に何を言われようとも、僕は昔の様にUTube活動をやろうとは思わなかった。


「そう、じゃあ、京くんは部活に入らないという事でいいのね?」


「なんだか作る事前提になっているけど、少なくとも今はそれでいいよ」


「そう。じゃあ、私と春浦さんで部活作りをやってしまうわよ」


 いつの間にか、古都だけでなく姉である先生までもが、UTube活動を専門とする部活作りに乗り気になっているように見えて来た。


「姉さんはどうして部活作りにそう協力的になれるんだよ?」


 学校側からしてみれば、UTube活動を止めようとする側なのに、なぜか姉である先生は古都と同様、UTube活動を専門とする部活作りに協力的に見えるのか、その理由を聞いてみた。


「あまり大きな声で言えないけどね、ここで新規の部活の顧問になっておけば、今担当になっている水泳部の顧問から外れることが出来るのよ」


「それだけの理由で!? 別に今まで通り水泳部の顧問でいいじゃない?」


「私が嫌なのよ!! だって、水泳部の顧問って言ったら、練習を見る度に競泳水着に着替えないといけないのよ。あの水着がどれだけ恥ずかしいか知ってるの!? 毛の処理だってやらなければならないし……」


「そう言うけど、姉さんが着ている水着ってスパッツ型じゃない。どこの毛かは聞かないけど処理する必要ないじゃない」


「そんなのはどうでもいいの!! とにかく変われるチャンスがあるのなら変わりたいの」


 古都が作ろうとしているUTube活動を専門とする部活作りに姉である先生が協力的だったのは、実に自分勝手な理由であった。


「そう言うけどさ、姉さんが水泳部の顧問から外れてしまったら、その部活はどうなってしまうんだよ?」


「別に私がいなくたって、顧問の代わりぐらいはいるもん」


「いやっ、それって普通に最低な理由だな……」


 姉である先生はボソッと呟く様に、最低な理由である本音を言った。


「とにかく、私が水泳部の顧問から外れても意外と大丈夫なのよ。だからこそ、私が春浦さんの作ろうとしている部活動の顧問になってあげようって言うわけ」


「顧問になってくれるって本当なの?」


「えぇ、本当よ。部活動と言ったら、顧問がいなければ活動が出来ないでしょ?」


 姉である先生が部活の顧問になると言った途端、それを聞いた古都が両目を丸くするように驚いた。


「先生はあくまでも部活作りのアドバイスをくれるだけだとばかり思っていたけど、まさか顧問になってくれるなんて!!」


「当ったり前じゃないの!! こんな洋人形の様に可愛い子は無視出来ないわよ!!」


 そう言いながら、姉である先生は椅子に座ったままの状態で近くに立っていた古都の身体を抱きに行った。


 姉である先生に抱かれている古都は、味方を確保したかのように勝ち誇った様子で僕の方を見てきた。





 その後、姉である先生は僕と古都の方を見ながら、改めて話を始めた。


「いい、これだけは言わせて。部活を作るとなると、最低でも部員は4人必要なのよ」


「4人集まらなかったら、どうなるの?」


「その時は、残念だけど部活はなかったものと思いなさい」


 古都の心配に答える姉は、部活動を作るには最低でも部員が4人必要という事を伝えた。


「それっていつまでなの?」


「今年度の新規の部活動の登録の期限は再来週の新入部員の正式入部の日よ。それまでに部員数を最低4人集めればいいのよ」


「再来週までかぁ~ 部員は集まるのかな?」


 今から2週間以内に指定の人数までの部員を集めなければいけない事を姉である先生から言われ、古都は少々不安そうに考える様子を見せた。


「きっと大丈夫よ。だって京くんが協力をしてくれるんだから」


「何で僕が協力する事になっているんだよ!?」


「そうは言っても、元々、春浦さんのUTube活動に協力をしていたのは京くんでしょ。せっかくだから、部員集めも手伝ってあげなさい。ただでさえ部員集めは難しいのよ」


「わっ、分かったよ。別に僕はこれと言って入りたい部活もないから、もう少しぐらい付き合ってもいいよ」


 部員集めぐらいは手伝ってもいいと思った僕は、姉である先生に言われるがまま古都が作ろうとしている部活の部員集めに協力すると言った。


「まだまだキョウから教えてもらいたい事はたくさんあるし、もう少し私に協力をしてもらうぞ」


「はいはい分かりましたよ」


「それじゃあ、部員が集まる様、健闘を祈るわ。春浦さんに京くん、私の為にも頑張って部員を集めてね!!」


 UTubeに上げる動画の作り方を古都に教えるだけでなく、今度は古都が作ろうとしている部活の部員集めまで手伝わされる事になり、高校生活最初の月だけでも僕がやらなければならない面倒な課題がワガママな姉のせいで一気に増えてしまった。

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