-9話 私は入部なんてしない!!

 姉である先生と部活作りの約束をした翌日の放課後、この日の京の主な活動は古都のUTube活動を一緒にやってくれる部員探しであった。


 姉の頼みである為、弟である僕は一緒に手伝ってはいるが、僕は古都が作ろうとしている部活には入るつもりはない。今は古都にUTubeの動画作り等を教えているが、見事部活が出来れば僕は古都とおさらばするつもりだ。


 その為、僕もまた、古都の部活作りがなるべく成功する為に少しばかり頑張っているのであった。


「う~ん、部員を探せって言われても、誰を誘えばいいんだ?」


 部員探しをしている古都は、校内の廊下を歩きながら誰に声をかけようかと考えていた。


「誰って、一緒に部活をしたいと思った人に声をかけたらいいんじゃないかな?」


「そう言われても、これだけ人がいたら、誰に声をかけようか迷うじゃない」


「ん~ まぁ確かに、人が多いと迷うよね」


 僕と古都が歩いている廊下はそこそこの数の生徒がいた。


 それもそのはず、僕達が通っている学校はこの周辺でもかなりのマンモス校なんだから、生徒の数が多くて当然。とは言っても、この学校の生徒の8割以上は女子生徒である。


 つい数年前までは女子高だった為なのか、この学校の生徒数は未だに女子の方が多い。その為、廊下を歩いていても、女子生徒ばかりが目に入ってくる状態である。


「もうこうなったら、手当たり次第に声をかけてみた方がいいかな?」


「そんな適当でいいのか?」


「確かに適当過ぎるのもアレだな。適当に声をかけた人が上級生とかだったら後々気まずいし。何よりも、その人が既に別の部活に入っていたら、普通に断られそうだし」


「まぁ、確かに断られる確率が高くなりそうだね……」


 僕もまた古都と一緒に誰に声をかけるべきなのかを考えていた。


 そんな中、僕は脳裏に一つの案が閃いた。


「いっその事、手当たり次第に声をかけるのではなくて、一緒にUTubeの動画を作る上で必要な人材を探してみてはどうかな? 例えば動画作りに必要な編集技術が上手い人とか、カメラの技術が上手い人を探し出すと言う風に」


「なるほどね。そんな探し方もあるのか!!」


 僕は脳裏に閃いた案を言うと、それを聞いた古都は納得をしながら頷いた。


「もう少し詳しく言うと、ただ単に編集作業が出来る人ではなくて、音楽のセンスのある人やイラストが上手い人をメンバーに入れてみるのはどうかな?」


「どうしてなんだよ?」


「音楽のセンスがあれば、動画内の場面に合うBGMを見つけ出してくれるし、イラストが上手い人がいれば、動画の雰囲気に合うフォントを見つける事だって出来るし、更にチャンネルのイメージに合う素晴らしいアイコンとヘッダー画像だって作れるからだよ」


「確かにそう考えるといいかもね」


 更に僕は、動画制作をやる上で役に立つ特技を持った人を部活に入れてみる事を、古都にオススメした。


「あとさ、せっかく部活を作るんだし、入部をしてくれた人達と一緒にUTubeをやってみるのはどうかな?」


「どうしてだよ?」


「1人でUTube活動をやるのって今から言うのもアレだけどさ、凄く難しいよ」


「難しいと言っても、京が全て教えてくれるんだから大丈夫だよ!!」


「大丈夫と言ってもね…… 今の状態だといつまでかかるか分からないし、何よりも、1人で動画投稿をやるとなったら、動画の企画を考えたり、撮影をした動画の編集作業等、全てを1人でやらないといけなんだよ。それがどれだけ大変か分かる?」


「そう言われると、1人で全てをやると言うのは面倒くさそうだな」


「でしょ? 馴れないうちは1人でやるよりもグループを作ってやってみるのも作戦の1つだよ。みんなで作れば、時間のかかる動画だって予定よりも早く終わるし、その方が学業とも両立が出来て良いと思うよ」


 あと、僕は古都に部員集めのアドバイスとして、これから作る予定の部活に入部をしてくれた人と一緒にUTube活動をやる事を古都に提案をした。


 理由に関しては、確かに1人でやるよりも複数の人数でやる方がそれぞれの苦手を補うことが出来るという利点がるというのもあるし、何よりも、僕以外に動画作りのノウハウのある人がここで入部をしてくれれば、その時点で僕の役割は終わり、晴れて自由の身となる。


 そう思った為、僕は古都に部員集めのついでにグループでの活動を進めた。


「なるほどね。そう考えるとグループでやるのも悪くはなさそうだね。私は物語を考えるのが好きだから、動画の企画作りは自分で出来るとして、今回の部員勧誘で必要なのは、音楽のセンスがあって絵を描くのが上手くて尚且つ動画編集が出来る人だな」


「とりあえずそれでいいんじゃないかな? カメラマンはメンバー同士で協力をやり合えば何とかなるし、やっぱり優先は動画編集が出来る人かな?」


 とりあえずどの様な部員を勧誘すればいいかの全体像がまとまった為、僕と古都はそのイメージに合う生徒を探し出す事にした。





 そして、しばらく古都と一緒に廊下を歩いていると、どこからともなくピアノの音色が聴こえてきた。


「なんかいい曲だね」


「そうだね」


 気がつけば、隣は音楽室。ピアノの音色に釣られ、古都はその場に立ち止り、隣の音楽室の方に首を向けた。


「一体誰が弾いているんだろう?」


 誰がピアノを弾いているのか気になったのか、古都はそのまま音楽室の中を覗き出した。


「1人でピアノを弾いているよ」


「そうなんだ」


「せっかくだしさ、あのピアノを弾いている人を勧誘してみようかと思う。ピアノが弾くのが上手いなら、音楽センスは間違いなく高いはずだ!!」


「そんな簡単に入部してくれるかな?」


「聞いてみない事には分からないよ!! とにかく行動あるのみ」


 そう言いながら古都は、勢いに任されるまま、そのまま音楽室の中へと入って行った。


 古都が音楽室の中へと入って行った為、僕も一緒に付いて行く事にした。


「ピアノの演奏、凄く上手いね」


 音楽室へと入って行った古都は、ピアノを弾いている人のすぐ隣まで近づき、ピアノを弾いていても気がつきそうなくらいの大きな声を出して話しかけた。


「一体、何!?」


 先程までピアノを弾いていた人は、古都の声に気づき、演奏を止めて古都の方を見始めた。


 僕が見る限り、ピアノを弾いていた人は黒髪ロングのスレンダー体系の美人な女子生徒であった。


「よかったらさ、私と一緒に部活をやろうよ!!」


「突然何よ!? それにあなた達は一体誰なの?」


「あぁ、自己紹介をやっておかないとね。私の名前は春浦古都。そして、隣にいるのが夏川京だよ。そして今、ちょうど部員を探している所なんだよ」


「そう、私の名前は冬月美紗よ」


 ピアノを弾いていた少女の名は冬月美紗という名前であった。しかし、どこかで聞き覚えがあり見た事がある様な人だな…… と思いつつ、2人の様子を見る事にした。


「そうなんだ、美紗って言うんだ。よろしくね。ところでどうして音楽室でピアノなんて弾いてたの!?」


「ピアノを弾くのは好きなんだし、別に弾くぐらいいいでしょ。それに、音楽室の使用に関しては先生からちゃんと許可を取ったうえで使っているわよ」


「ピアノを弾くのが好きなんだ。どうりでピアノを弾くのが上手いわけだ」


「だから、どうしたのよ?」


「そんなピアノを弾く特技を活かすことが出来る部活があるから、私が作る部活の部員として入ってよ!!」


 ピアノを弾くのが上手い美紗に対し、古都は部活の勧誘を始めた。


「部活に入ってて言うけど、あなたの部活は何なの?」


「ん~ まだ正式に部活は出来ていないから何部とは具体的には言えないけど、簡単にまとめると、UTubeに動画を上げるのを目的とした部活動を作ろうとしているの。ちょうど部員が4人そろわないと部活に出来ないので、お願いだから入部してよ」


「なるほどね…… UTubeに動画を上げる事を目的とした部活動ね。お誘いはありがたいけど、私は入部する気はないわ」


「えぇ!? なんでだよ!!」


「なんでって、私、UTuberと呼ばれる人は正直言って好きではないのよね。バカみたいな事やっている人ばかりだし、対して才能もないのにクリエイター面しているのが気に入らないのよね。特にノリそのものがあまり好きではないのよね」


 しかし、古都の頼みは聞いてもらえず、あっさりと断られてしまった。それにしても、UTubeに対して酷いイメージしか持っていない人だな。


「そんな事言わずに、入部してよ!!」


「さっきも言ったでしょ、私が入部をしない理由を」


「誰かが入部をしてくれないと、私がUTube活動を出来なくなっちゃうじゃないか!!」


 美紗という人から入部を断られても、古都は引く様子を見せなかった。


「別に私でなければならない理由なんて、どこにもないでしょ? それだったら、他の人を当たりなさい。探して行く内に、きっと入部をしたいという人が見つかるはずよ」


「私が作る部活にはどうしても、美紗が持っている音楽センスが必要だよ!!」


「結局、私に入部をして欲しい理由って、それなの!? こういう人がいるから、私は誰かと協力をやろうなんて思わないのよ!!」


 断られても諦めずに勧誘を行った結果、古都は美紗という人を怒らせてしまう事になった。この状態になると、もう素直に入部をしてくれるとは思えない。その為、今回は入部の勧誘は失敗したと思っておいた方がいい。


「美紗という人を怒らせてしまったし、今回は縁がなかったという事で、次を当たろう。それに、部活の勧誘なんて無理やりやるモノではないよ」


「そう言われたって、ここまでの才能の持ち主なんて、そういないよ!!」


「何事も引き際が大事だよ。無理なモノにいくらしがみついていたって駄目だよ」


「そう言ったって、私は諦めたくないよ!!」


「そんな事言わずに行くよ」


 美紗という人に入部をする気がないという事を知った後、僕は古都を連れて、音楽室を出ようとした。


「1人でピアノを弾いていたところに勝手に現れて、ホント、お騒がせしてゴメン」


 古都と一緒に音楽室を出ようとした時、僕は美紗に一言謝りの言葉を言った。


「全く、ホントいい迷惑よ!!」


 背後から聞こえる美紗という人の声は、どことなく怒っている感じの口調だった。


 とにかく、入部の勧誘は失敗した為、他を当たらなければならなくなった。ホント、部活の勧誘というのは思いのほか難しい。


 しかし、美紗という人をどこかで見た事があるんだよな? 一体どこだったかな? 動画で見たあの人に似ているけど、もしかしたら人違いなのかも? そんな事を考えながら、僕は古都と入部希望者を探す為、再び校内の廊下をさまよう様に歩き始めた。

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