第44話 昔の競泳水着

 私、冬月美沙は今、自分の部屋の中にあるノートパソコンを起動させ、UTubeの動画を見ていた。


 私が今見ている動画はUTuberと呼ばれている人達が作った動画ではなく、水泳大会の映像記録である。それも今のではなく、ひと昔、ざっと20年以上も前の水泳大会の映像記録である。


 なぜ20年以上も前の水泳大会の映像記録を見ているのかはきちんと理由がある。それは、数日前の動画撮影に理由がある。


 この日のプールでの撮影中、私達映像制作部の部員4人と、顧問の先生1人との間で罰ゲームを賭けての水泳対決をやった結果、見事に私達が負けてしまい、罰ゲームを受ける事になった。


 その罰ゲームというのが、ひと昔前に主流であったハイレグタイプの競泳水着を着用しての撮影であるという事。


 その為、私は今、UTubeでひと昔前のハイレグタイプが主流だった時代の水泳大会の映像記録を見て、ハイレグタイプの競泳水着の様子を動画で直接見る事にしてみた。


「ほっ、本当に、こんなハイレグを人前で着ていたの!? いやらしい映像とかではないわよね!?」


 私が今見ている水泳大会の映像記録に映っている女子選手達は皆、骨盤部分まで鋭く切れ上がり、太ももや鼠径部が完全に丸見えのハイレグタイプの競泳水着を当り前の様に着ている事に驚きが隠せなかった。





 そして、翌日……


 この日は、罰ゲーム動画の撮影が前回と同じプール内で行われる日である。


 今回の動画内で着る事になるハイレグタイプの競泳水着は当日になり顧問の先生から渡され、今は施設内の更衣室で着替えているところである。今回着る競泳水着は、濃い青の下半身部分が鋭く切れ上がったハイレグタイプの競泳水着であった。


「実際に着てみると、前回に着たスパッツタイプの競泳水着とは違って、下半身が殆ど露出してしまうハイレグタイプの競泳水着って、本当に下半身に何も履いていない感覚になってスースーするね」


「確かに…… 一応、股間部分には布はあるものの、太ももが丸見えで露出も凄いから、人前でこんなのを堂々と着ていたら、笑いを取りに行くような変態みたいだよ」


「笑いを取って面白ければ、それだけ多くの人が私達の動画を見てくれるよ!!」


「そうかも知れないけど、ハイレグって普通にダサくない?」


 私が着替えている場所の裏側にいた秋風さんと春浦さんの2人は、先に着替え終わったのか、ハイレグタイプの競泳水着に対し、少し恥ずかしがるように戸惑う様子で喋る2人の声が聞こえてきた。


 そんな2人の会話を聞きながら、私はひと昔前に主流であったハイレグタイプの競泳水着を両手で持ち全体を見渡してみると、太ももまで覆われ下半身にも布地があるスパッツタイプの競泳水着とは異なり、下半身部分の布地がほとんどないハイレグタイプの競泳水着を見ていると、着ると裸に近い状態になってしまいそうな気がした。


 こんなのを着ると下半身の露出が絶対に多くなる為、こんな競泳水着を着て人前になんて絶対に出られない!! と本気で思ってしまった。


 そもそもなんでハイレグなのよ!! 今時ハイレグなんてあり得ない!!


 そう思っていると、すぐ隣から秋風さんの声が聞こえてきた。


「あっ、美沙ちゃん、まだ着替えていなかったんだね」


「ちっ、ちょっと!! 勝手に来ないでよ!!」


「別にいいじゃないの。ここは着替えを行う更衣室なんだし」


 突然、秋風さんに話しかけられた私は、一瞬心臓がドキッとなる様に驚いた。既にハイレグタイプの競泳水着に着替え終わった秋風さんの姿は、骨盤付近まで切れ上がったキワドいハイレグタイプの競泳水着を着ている為、完全に鼠径部や太ももが丸見えの下半身の露出が高すぎる格好をしていた。


 そんな姿を見た私は、自分もあんな凄く恥ずかしい格好にならなければならないのかと思い、その事を想像してしまい、顔に熱がたまり赤面化してしまった。





 その後、競泳水着に着替え終わりプールサイドに向かうと、そこにはビデオカメラを持った夏木田さんとジャージ姿の夏川さんと私と同じハイレグタイプの競泳水着を着ている秋風さんと春浦さんと、そして顧問の先生が話をやりながら立っていた。


「おまたせ~」


 私が話しかける様に声をかけると、皆が一斉に私の方を振り向いた。


「遅かったね…… って、なんでズボンを履いているんだよ!!」


「そうだよ、ズボンを履いたらプールの中に入れないよ!!」


 皆の元へと駆け寄る私の姿を見た春浦さんと秋風さんの2人は、見るなりツッコミを入れた。それもそのはず、恥ずかしさのあまりジャージの半ズボンを履いた状態でプールサイドに来てしまったのだから。


「だって、ズボンを履いていないと、太ももとか鼠径部とかが丸見えになって恥ずかしいじゃないの!!」


 私はワガママを言う様な感じで、ジャージの半ズボンを履いた理由を言った。


「そうは言っても…… ズボンの着用はダメよ」


「って、いきなり何するんですか!?」


 すると突然、顧問の先生が私の目の前まで近づき、ニコッとした表情でズボンを履いて来た事に対し注意をした後、その場にしゃがみ込み勢いよく私が履いていたズボンを脱がすように下した。


 顧問の先生によりジャージの半ズボンが脱がされて、股間部分以外に布地が当てられていない、太ももや鼠径部までもが完全に露出しハイレグ部分が丸出しになってしまった。


「ズボンなんて着用したら、プールで泳ぎにくくなるでしょう?」


「そうは言っても…… この格好、凄く恥ずかしいです!!」


 あまりの恥ずかしさのあまり、私は自分の股部分を両手で隠すように抑えた。


「恥ずかしいって、昔の水泳選手はみんな今着てるような露出の高いハイレグを着ていたのよ。それに冬月さんは水泳経験があるのでしょ? 冬月さんだって、ひと昔前に水泳をやっていたら、こんなハイレグを着ていたのよ」


 そう言いながら顧問の先生は、股部分を隠すように抑えていた両手を持ち、そのまま上へと上げた。


「ちょっと!? 止めてよ!!」


「そう言っても、手をどけないと泳げないでしょ? 別に裸になったわけじゃないのだから、そこまで恥ずかしがる必要なんてないわよ」


「裸でなくても、半裸です!!」


 顧問の先生に両手を抑えられ、鼠径部が見え骨盤付近まで切れ上がったハイレグ部分が丸出しになってしまい、裸の下半身が見られているみたいで凄く恥ずかしかった。





 その後、秋風さんが夏川さんの方を見て、両手に手を当て腰を曲げた状態で喋り始めた。


「ねぇ、キョウちゃんはどうしてハイレグにならないの?」


「いやっ!! 流石にボクがハイレグの競泳水着を着るのはマズいと思うよ!!」


「そんな事ないよ!! キョウちゃんが着たって大丈夫だよ!!」


 そう言えば秋風さんの言う通り、私達3人は恥ずかしいのを堪えながらハイレグの競泳水着を着ているというのに、夏川さんだけはジャージ姿のまま。流石に男とは言えども、1人だけ抜け駆けは許せない!!


「そうよ、秋風さんの言う通り、夏川さんも私達と同じ競泳水着を着なさい!!」


「美沙まで何言ってるんだよ!?」


「キョウだけ抜け駆けしようたって、そうはさせないんだから!!」


「古都までそう言う!?」


 私だけでなく、春浦さんまでもが夏川さんにハイレグの競泳水着を着る様、迫るように言った。


「そう言えば、よく考えたらおかしな話よね。今回の罰ゲームは、フェイカーズのメンバー全員が受けるものなのに」


「おかしくもなんともない話だよ!!」


「せっかくだし、京ちゃんも皆と一緒のハイレグを着なさい!!」


「いやっ、 そんな必要はないよ!!」


 顧問の先生に強引に手を引っ張られ、夏川さんはそのまま更衣室へと連れていかれた。


 しばらくすると、夏川さんと顧問の先生が更衣室から出てきた。顧問の先生に手を引っ張れらた状態で出てきた夏川さんは、私達と同じ濃い青のハイレグタイプの競泳水着を着ていた。


「おぉ、凄いじゃないか!! どこからどう見てもパッと見ただけでは男とは思えないよ!!」


「どんなトリックが隠されてるかは知らないけど、キョウちゃんなら絶対に大丈夫だとわかっていたよ!!」


 ハイレグタイプの競泳水着を着た夏川さんの様子を、春浦さんと秋風さんは興味本位で面白がって見ていた。


 恥ずかしくてあまり直視したくはないが、確かに今の夏川さんの様子は、どこからどう見ても男の人には見えない。動画を視聴している人でさえこの真実には気が付けないくらいに見事な出来だと思う。


「みっ、見るなよ~!!」


 春浦さんと秋風さんにジロジロと見られている夏川さんは、物凄く恥ずかしそうな様子で顔を真っ赤にしながら両手で股部分を抑えていた。





 その後、メンバー全員がハイレグタイプの競泳水着に着替え終わり、今回のプールでの撮影が始まった。


 今回の動画内容は、主に顧問の先生の指導の下、泳ぎ方を学ぶ内容の動画であった。


 初めは下半身の露出が激しく、裸みたいで着る事すら嫌で物凄く恥ずかしいと思っていたハイレグタイプの競泳水着だったが、いざそれを着て実際に泳いでみると、露出部分が多い為なのか、スパッツタイプの競泳水着を着ている時よりも足が動かしやすく快適に泳げた気がした。


 とはいうものの、露出の高いハイレグタイプの競泳水着だと、泳いでいるだけで水着が食い込んでしまいお尻がTバック状態になって丸見えになってしまうのは悩みもの……





 そして、練習が一通り終わる頃には、春浦さんや秋風さんはハイレグタイプの競泳水着の快適さを気に入った様子でいた。


「この水着、露出が高くて恥ずかしいけど、泳ぐには最適だね!!」


「確かに、快適さを考えると、ハイレグも悪くはないかも知れないね」


 練習が終わり、プールサイドでは秋風さんと春浦さんが楽しそうに話をしていた。


 旧時代のハイレグタイプの競泳水着を着る事は凄く恥ずかしいけど、こうして皆と一緒に恥ずかしい格好で泳いでみると、ただ練習で着る分には悪くないのでは? 


 そんな事を考えながら2人の様子を見ていると、突然背後から顧問の先生に話しかけられた。


「あの2人は意外とハイレグ水着を気に入ったようだけど、冬月さんはどうかしら?」


「まぁ…… 確かに泳ぎやすかったという利点はあったわね」


「そう。じゃあ、これからもハイレグを着た動画の撮影をやらない?」


「それは絶対に嫌です!! もう、ハイレグは着たくないです!!」


「あら残念」


 確かに泳ぎやすかった事には間違いないけど、ハイレグは露出が高すぎて恥ずかしいから、もう一度着たいとは絶対に思わない!!


 同時に、こんな恥ずかしい格好はもうゴメン。

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