第36話 eスポーツの秋

 10月のある日、キョウは映像制作部の部長である古都と一緒に、部室内でゲームをしていた。


 古都と一緒にやっているゲームは、某有名なゲーム会社が出しているインクをかけて陣地を広げる大人気ゲームであった。そんなゲームを古都と2人で、ゲームとは直接関係のない話をやりながらプレイしていた。


「次の動画のテーマである体力測定の動画を作る為に事前の練習として先日、皆で河原で運動をしていた時に、ちょっとやらかしてしまった事があったんだよ」


「一体、何があったんだよ?」


 古都が次の動画の内容を変更しようかと考えていたみたいなので、その理由を聞いてみた。


「運動の一種で香里奈と走りの対決をしたのだけど、つい本気になり過ぎて服を脱いで下着姿で走ってしまったんだよ」


「一体、何やってるんだよ……」


「ただ香里奈に勝つ為に脱いだだけだよ。一応、下着姿で走った事で香里名とのレースには勝てたけど、その後で下着姿で河原に立っている事を冷静に考えてみたら、凄く恥ずかしくなった」


「そりゃあ、野外で下着姿でなんていたら恥ずかしいのは当たり前だよ。しかしなんで、本気で走る為に服を脱いだの?」


「いゃっ、それは…… 陸上選手の格好って、下着姿みたいじゃない? だから似たような格好になれば少しでも早く走れるかと思って、つい着ていたジャージを抜いてしまったんだよ」


「なるほどね。言われてみれば確かに陸上選手のユニフォームは下着姿に似ているね」


「そう思うだろ? 最初はそう思って下着姿になったけど、やっぱり下着は陸上ユニフォームではないと分かったよ」


「知らない事が分かって良かったじゃない」


「確かに。『下着は陸上ユニフォームの代わりになるか?』というテーマの動画も考えてみたけど、実際に野外で下着姿になるのは凄く恥ずかしいから、もう一度やろうとは思わないよ」


 こんな感じで、古都と一緒に話をやりながら、2人でゲームをしていた。





 初めは編集作業の息抜きに古都と一緒にゲームを始めてみたものの、いざ実際にやってみると意外とそのゲームにハマる。その為、今は編集作業の事など忘れて、古都と雑談を交えながら一緒にゲームを楽しんでいた。


「せっかくだしさ、次のスポーツの秋企画に投稿する動画は、体を動かす方のスポーツではなく、ゲームの方のスポーツをしない?」


「なんでまた急に?」


「ほら、だってゲームもeスポーツと言って、スポーツの一種じゃん。だったらスポーツの秋としてゲーム大会をやっても、なんら問題はないはずだよ!!」


 すると突然、古都がスポーツの秋企画で投稿する動画のテーマの変更を提案してきた。


「まぁ確かに、eスポーツのスポーツにも、体を動かす方のスポーツと同様に、勝敗を競うという意味があるから、あながち間違いではないし良いんじゃないかな?」


「だろ? そう思うだろ!!」


「まぁ、UTube内でもゲーム実況と言って、ゲームのプレイ動画を上げているUTuberもいる事だし、やる分には問題ないんじゃないかな? でっ、どんなゲームをやるつもりなの?」


 古都が体を動かす方のスポーツよりも、ゲーム、いわゆるeスポーツの方を動画内でやろうと言って来た為、どんなゲームを動画でやりたいのかを聞いてみた。


「さっき、直行で思いついて言ってみただけだから、まだよく思いついていないんだけど、どんなゲームがいいかな?」


「やっぱり、皆でワイワイと盛り上がれる系のゲームなんていいんじゃないかな? フェイカーズはちょうど4人だし、あと部員繋がりで香里名も入れると5人になって、賑やかなゲーム実況動画が作れると思うよ」


「皆でワイワイとなると…… 双六の様なパーティー系のゲームかな?」


「それ以外だったら、今やっている様なゲームを更に多い人数でやってみるってのもありだよ」


「それもいいね。当日はよりリアルになったガンアクション系のゲームをやってみるのも悪くはなさそうだし」


「それ系のゲームって、香里名が昔よくやっていたゲームだね」


「そうそう、それ。でも、そんなゲームをアイツと一緒にやったら、アイツだけが一方的に勝つばかりでつまらなくなりそうだから、やっぱり別のゲームがいいかな」


「そうなんだ」


 次の動画のテーマの変更案やどんなゲームをプレイしようかという話で盛り上がりながら、古都とのゲームでの対戦も夢中になった。





 そんな感じで古都と話をやりながらゲームに夢中になっていると突然、部室のドアが開いた。


「古都ちゃ~ん、お待たせ!!」


 そう言いながら、元気よく部室の中に入って来たのは優であった。


「今日は四季神さんの動画撮影の手伝いもあって、来るのが遅くなってしまったわ」


「優と美沙に手伝ってもらったおかげで、次の動画は絶対に良い動画になるわよ!!」


 その後、美沙と香里奈の2人が優に続くように、話をやりながら部室の中へと入って来た。


「あっ、やっと来たのかよ。遅かったな」


「そりゃあ、動画の撮影は時間がかかるから仕方がないでしょ」


「時間がかかる撮影なんて、1人でやれよ」


「そんな事言うけどね。先日、休日の中、体力測定の練習に付き合ってあげたのはどこの誰かしら?」


「うるさいな、も~う!! あの体力測定はあまり思い出したくないんだよ!!」


 古都はゲームをやりながら、器用に香里奈との言い合いも行っていた。


「ちょっと!! ゲームばっかりやってないで、次の動画に向けて少しは体を動かしたらどうなの? そんな感じでダラダラとしていたら、本番で恥をかくわよ!!」


 突然、美沙が怒鳴る声が聞こえた為、ゲームのプレイ中に一緒ビクッと驚いてしまった。


「あぁ、その件に関しては、さっきキョウとの話で体を動かす方のスポーツではなくて、eスポーツというゲームの方のスポーツに変えようかと考えていたところなんだよ」


 美沙の怒鳴る声を聞いた古都は、ゲームをやりながら、当初の予定で行おうとしていたスポーツの内容を丸々変えようかという案を美沙に伝えた。


「eスポーツねぇ…… ゲーム実況としてのゲーム動画を上げるのは別にいいとして、その前に、自分で決めた企画は最後までやり通しなさい!!」


「なっ、なんでだよ!?」


「スポーツの秋企画と言って、体力測定の動画を撮る為に先日、河原で体を動かしたりしたでしょ。もし、このままその企画を没にしてしまったら、先日の行いは完全に無駄という事になってしまうのよ」


「たっ、確かに、そう言われると、下着姿で走った行為も完全に無駄という事になってしまうような……」


「あの行為に元々意味があるかなんて知らないけど、無駄にはしたくないでしょ?」


「そうよ、私なんて休日にわざわざあんたに呼ばれて練習に付き合わされたんだからね。それを無駄にするなんて事だけはやらないでね」


「わっ、わかったよ……」


 美沙と香里奈に言われるがまま、古都は渋々とした様子で、元々考えていたスポーツの秋企画である体力測定の動画を没にするのを取りやめた。


 その為、当初の予定通り、スポーツの秋企画の体力測定の動画の撮影はやらなければダメになった事に関し、楽が出来ると思っていた分、少し残念な気分になった。


 古都が知力測定の動画の没を取りやめた直後、優が古都のやっているゲームに興味を持ったのか、ジッと見始めた。


「ねぇ、なんのゲームをしていたの?」


「あぁ、これね。インクをかけあって陣地を広げる対戦ゲームだよ!!」


「面白そう!! 私もやって良い?」


「今は私がやっているからダメ」


「も~う、そんな事言わないで!!」


 優は古都がやっていたゲームに興味を持ち、古都にやらせてもらう様に頼んだが、断られてしまった。


 古都にゲームをやらせてもらえなかったせいで、不満そうな表情になった優を見て、せっかくだし一度ぐらいやらせてもいいだろうと思い、優にゲームのコントローラーを貸すことを決めた。


「ボクので良ければ、別にやってもいいよ」


「ホント!? キョウちゃん」


「あぁ、いつかゲーム実況をやる様になった時の為に、今からでも少しくらいゲームの操作慣れはしておいた方が良いかなって思って?」


 優にゲームのコントローラーを貸す事を伝えると、優の先程までの不安そうな表情は一瞬で消え、ニコッとした表情を見せた。





 その後、ニコニコとした様子で楽しそうにコントローラーを操作する優は、古都との対戦に夢中になっていた。


「あぁ、また負けちゃった!! もう一回!!」


「はははっ、何度でも引き受けてあげるよ!! 私が勝てるうちは」


 優に何度も勝利をしている古都は機嫌よく、優の再選を申し入れた。


「他人がやっているゲームを見ていると、なんだかやりたくなって来るわね」


「そうね。変わってもらえばすぐに出来そうね……」


 優と古都がプレイしているゲームの様子を見ていた美沙と香里奈もまた、ゲームをやりたそうな目で2人の様子を見始めた。


「「だから、私達に代わって!!」」


 他人がプレイしているゲームを見ていると自分もやりたくなったのか、美沙と香里奈は同時に声をそろえてゲームに夢中になっている古都と優に対し、ゲームを変わるように伝えた。


「ん? 香里奈ちゃんもやりたいの? だったらやってみる?」


「そろそろ休憩を取りたいと思っていたところだし、誰かに代わってもいいかな?」


 そう言うと、優と古都はすんなりと香里奈と美沙にゲームのコントローラーを渡した。


「ゲームで果たして、私に勝てるかしら?」


「凄く自信があるようね。そんな自信を今すぐにでも打ち砕いてあげるわ!!」


 そして、優と古都からコントローラーを受け取った香里奈と美沙は、お互い自信満々な様子で対戦を始めた。


「2人共頑張って!!」


「果たして、どちらが勝つかな? 美沙ならきっと香里奈をコテンパンにしてくれるはずだ」


 美沙と香里奈の対戦を見守る様に、優と古都はゲーム対戦の観戦を楽しんでいた。


 eスポーツという名のゲームは実際にプレイする方も盛り上がるし、見る側も盛り上がる事が出来る。そう思いつつ、この日の部活はeスポーツという、ゲームでの対戦や観戦に大いに盛り上がった。

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