第37話 ヘル・パンプキン
10月後半のある日の放課後、部室内でキョウは香里奈と優の2人から、ある頼み事をされた。
「今月末はハロウィンがあるでしょ。その為に私の動画では、優と一緒にハロウィンにちなんだオリジナル料理を作ってみたという動画を出す事になったの」
「でも、動画に出そうと思っているオリジナル料理を、たっくさん考え過ぎて全部を動画に出すには多すぎるから厳選をしようと思って、キョウちゃんに審査員をお願いしたいの」
どうやら優と香里奈は、近々公開されるハロウィン動画で出すオリジナル料理の案が多い為に、より良いと思った案だけを動画で出す為に、料理の審査員としてキョウに頼んでいるみたいだ。
「なるほどね。味見の審査員ぐらいだったら引き受けてあげるよ」
「やったー!! これでこそキョウちゃんだよ!!」
「キョウ様に手作り料理を審査してもらうのだから、気合を入れて料理を作らないといけないわね!!」
料理の審査員をいとも簡単に引き受けると、優と香里奈は飛び跳ねる様に喜んだ。
まぁ、審査員と言っても味見だけだし、美味しいと思った料理を素直に美味しいと言うだけだったら、十分に楽な仕事だろ? それに、ここ最近は普段の投稿用の動画編集以外にも、文化祭企画や学校紹介等の動画編集もやらなければならない為、凄く忙しかったので、美味しい料理を食べながらほんのひと時の休憩でも取ろうと言う気分でいた。
そして、料理の審査員をやる事になった為、学校内にある家庭科室へと移動をした。
家庭科室に入ると、優と香里奈はすぐに持って来ていた材料を冷蔵庫から取り出し、早速調理にとりかかった。冷蔵庫から取り出された材料の数々を見る限り、けっこうな数の料理が作られるみたい。全部食べれるのかな?
そんな事を考えているだけでは料理が完成するまでの待ち時間が凄く退屈なので、室内の椅子に座りながら、目の前で料理を作っている香里奈に話しかけてみる事にした。
「そう言えば、チョコチップの方ではハロウィンでは料理動画だけしか上げないの?」
「ん~ 料理以外にもハロウィン用のオリジナルソングの動画も出すわよ」
「そうなんだ」
「当ったり前でしょ!! だって私はアイドル系UTuberなんだから」
「そうでしたね」
どうやら、香里奈は料理動画以外にも、ハロウィン用のオリジナルソングの動画も出すつもりでいた。オリジナル料理かオリジナルソング、どちらかにすればいいのに、両方を出すとは、香里奈も結構頑張るね。
そんな事を思っていると、香里奈はキョウに背中を向け料理を作っている状態で話しかけてきた。
「ところで、フェイカーズの方では、ハロウィン用の動画とかはやらないのかしら?」
「今のところは、動画の脚本を書いている古都からは何も聞いていないから、何とも言えないね」
「そう」
そう言えば、ハロウィンは今月末だと言うのに、未だに古都からはハロウィンに関する話は聞いていない。単にここ最近は、文化祭関連や学校紹介関連の動画の脚本作りもあったせいで、ハロウィンにまで手が回っていない状態なのかも知れないな。
「まぁ、あんた達フェイカーズがハロウィン関連の動画を上げるのなら、王道の仮装パーティー系なんてやってみたらどうかしら? 仮装パーティーなら私がやる動画よりも簡単に作れると思うわよ」
「どんな動画を作るかは、最終的には古都が決める事だから、香里奈の意見は古都と話をする際の参考程度には考えておくよ」
「絶対にハロウィン系はやっておいた方が良いわよ。UTuberの先輩がアドバイスをやるのだから」
古都が香里奈のアドバイスを素直に受け入れるとは思えないし、もし、次の企画会議が行われた時には、香里奈の案としてではなく、ごく自然に思いついた案として発表をした方が良いな。
そう思いながら、香里奈の料理を作る姿を後ろから見ていると、先程の話に優が反応を見せる様に、料理をやりながら香里奈の方を振り向いた。
「ハロウィンで仮装パーティーなんて、すっごく面白そうじゃない!! 私は絶対にやりたいよ!!」
「そう思うなら、なんとかして古都を説得させる事ね」
「私には秘策があるんだもの。絶対に古都ちゃんが仮装パーティー動画を作る気になる様に、私が古都ちゃんにすっごく似合う衣装をプレゼントしちゃうんだから!!」
「プレゼントでその気にさせるとは…… 優もなかなかやるわね」
「えへへ、私なりに凄いアイデアでしょ」
確かに優の考えは悪くはないかも知れない。実際にプレゼントを渡してその気にさせるというアイデアなら、成功する確率も決して低くはないだろう。
そして、しばらく時間が経過した頃、ようやく優と香里奈がハロウィ動画に出す候補の数々の料理が完成した。
料理が完成に近づくにつれ、美味しそうな匂いに誘われるかのように、空腹感が増してきていたので、どの料理も美味しいと言ってしまいそう。果たして、まともに審査が出来るだろうか?
「まずは、私が作った料理『ジャック・オー・ランタンのパンプキンスープ』よ」
そう言いながら、香里奈が作った料理は、ジャック・オー・ランタンの顔が書かれた黄色いかぼちゃであった。
「このヘタの部分を持ち上げると、中が開き、その中にはスープが入っているの」
香里奈がかぼちゃのヘタを持ち上げると、その中から、湯気が立ち凄く暖かそうなパンプキンスープが見えた。かぼちゃのヘタの周りを切り取り、それをフタに改良して、更にかぼちゃの中にくり抜いた中身をスープとして入れる。凄く面白いアイデアだとは思う。
「面白いアイデアだね。そんな事よりも肝心の味の方は……」
アイデアだけではない。肝心の味を確かめる為、スープの入っているかぼちゃの中にスプーンを入れ、スープをすくい出し、一口飲んでみた。
その味は、まろやかでクリーミーな味わいであった。その上、本物のかぼちゃが容器代わりになっている為、ただ単に美味しいと言うだけでなく、遊び心もあって十分に面白いパンプキンスープだと思う。
「どうかしら?」
「遊び心もあって、凄くいいよ。味の方もまろやかさがあって、そしてクリーミーな味わい。動画に出すのなら、決して悪くないと思うよ!!」
「そっ、そうなの!? そう言ってくれると作り甲斐があるわ!!」
高評価な感想を言うと、香里奈は凄く喜んだ。もしかしたら、この料理は採用決定かな?
そう思っている間にも、休む間もなく新しい料理が目の前に置かれた。次に出てきた料理は、優が作った料理である。その料理はケーキなのだが、見た目が完全にジャック・オー・ランタンを意識して作られているケーキであった。
「これは、もしかして、パンプキンケーキかな?」
「ほぼ正解だけど、惜しい!! 正しくは『ジャック・オー・ランタンケーキ』でした!!」
ジャック・オー・ランタンという事は、もしかして、またかぼちゃ料理? 名前だけかも知れないけど、とにかく食べてみない事には評価は出来ない。そう思い、フォークでケーキの一部を切り取り、口の中に入れた。
かぼちゃ本来の味と、ケーキの美味しさ…… これが見事にマッチして意外と美味しいかも?
「ねぇ、味の方はどう?」
「まぁ、悪くはないと思うよ。ところで、この中の赤いのは何かな?」
「あぁ、これね。これは、ジャック・オー・ランタンの明かりをイメージして入れたイチゴジャムだよ」
「そうなんだ。イチゴジャムは別になくてもいいかな?」
「えぇ!! なんでだよ!?」
「なんと言うか、かぼちゃとイチゴジャムは合わない様な気がするんだよね。個人的な感想かも知れないけど」
「せっかく、いいアイデアだと思ったのに!!」
「確かにいいアイデアだったとは思うよ。イチゴジャムを入れる代わりに、カラメルソースをかけてみたらどうかな?」
「う~ん、とりあえず料理はまだまだあるから、キョウちゃんの案も考えておくよ」
2回連続のかぼちゃ料理であった為、先程よりも少し厳しめの評価を行うのと同時に改善点のアドバイスも行った為、そんなに落ち込んだ様子は見せなかった。
その後も連続でかぼちゃ料理が出てきた為に、流石に先程はおなかが空いていてどれも美味しそうに感じたものの、今となっては既に満腹状態になり、早くかぼちゃ料理から解放されたいという気分であった。
そして、休む間もなく連続で料理が出され、ついに6品目の料理が目の前に置かれた。この料理を見た瞬間、青ざめる様に顔色が悪くなった。今度の料理は、優が作ったスイーツであったが、そのスイーツは、黄土色のドロドロのスライムの様なゼリーが皿の上に盛られ、その端は赤いジャム状の液体がかかり、液体の上には2つの目玉の様な模様が施された白玉が乗っている、見るからにグロいスイーツであった。
「次は私が作った『モンスターゼリー』を食べてもらうよ!!」
「この黄土色のゼリーは何かな?」
「このゼリーはかぼちゃゼリーだよ!! 今回は私の1番の自信作なんだから」
またかぼちゃ…… 流石に6回連続でかぼちゃ料理は食べられない!!
「ねぇ、やっぱり食べないとダメかな? 見た目だけの評価なら、凄いインパクトだよ。これなら絶対にリスナーに受ける事間違いなしだよ……」
既に満腹であったのと、あと、白玉の目玉が地味にリアルだった為、とても食欲がわかなかった。それ以上に、黄土色のドロドロのかぼちゃゼリーが、かぼちゃばかりを食べて満腹になった今では全く食欲をそそらなかった。
「実際に食べてみないとダメだよ!! その為の審査員なんだから」
「そうよ。審査員は最後まで勤めてもらうわよ。私の秘蔵の料理だってまだまだあるんだから、キョウ様にはまだ頑張ってもらうわよ!!」
優と香里奈の考えは凄く厳しかった。きちんと食べてその味の評価を求めていた為、見た目だけの評価では通用しなかった。
「まだあるの!? ちょっと休憩を入れてもいいかな?」
「ダメよ!! 少しでも早い評価が欲しいからね!!」
香里奈の動画に対する意欲は使わるが、今はとにかく休憩を入れないとヤバい!!
「そうだよ。だから早く私の料理を食べて!!」
優から強引に食べる様進められたが、既に満腹の状態のお腹に料理は入りそうにない。
「食べるから、そんな進めないで!!」
初めは、ただ食べるだけなので凄く楽だと思っていた審査員であったが、まさか、ここまで同じ様な料理ばかりを出されると、誰だって飽きて食べる気がなくなるよ……
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