仲良くなるには!?

第19話 嫌う理由

 四季神さんがUTube活動を学校にやっていた事がバレてから翌日の放課後、私達は部活の終了と共に、学校の近くにあるバーガー店へと来ていた。


「ねぇ、古都ちゃん!! 何度もお願いをしているのに、どうしてダメなのよ!!」


「昨日から言っている様に、私はアイツが嫌いだからだよ。それ以外には理由はない」


 昨日から秋風さんは四季神さんを映像制作部に入部させる件を、部長である春浦さんに何度も頼み込んでいるが、未だに断られ続けている。


 昨日から疑問に思うのだが、なぜ秋風さんはここまで必死になって四季神さんを映像制作部に入部させようとしているのかなんてよく分からない。ただ言えるのは、今の秋風さんにとって、四季神さんはそれだけ凄く大事な存在であるという事だけは確かである。


 そんな秋風さんは、部活が終わった後にやって来たバーガー店の中でも、四季神さんを入部出来る様に春浦さんに何度も何度も頼み込んでいた。


「今はすっごく嫌っていても、話をやっていくうちにいつかは仲良くなれるよ」


「ならないね。私とアイツとでは水と油の関係だよ。要は交じり合えない関係なんだよ!!」


「そんな事言わずに!! 香里奈ちゃんと一度まともに話し合ってみてよ!! きっと今までとは違う答えが見えて来るよ」


「だから、何度も言う様に、私はアイツとは話をやる気もないし、アイツとは仲良くやる気もないんだよ!!」


 昨日の部活中から続いている秋風さんの頼みも、春浦さんは全く聞こうとはしない。それどころか、秋風さんの頼みをまるで聞きたくないかの様に、ただただ否定を続けているだけでしかない様にも感じる。


「なんでだよ~ こんなにおもちゃを買ってあげたのに、どうして香里奈ちゃんを入部させる事に反対をするのよ!!」


「こんなおもちゃ如きで、なんでアイツを入部させないとダメなんだよ!!」


「おもちゃをあげれば、きっと古都ちゃんは凄く喜ぶと思って、買ってあげたのに」


 秋風さんは四季神さんの映像制作部の入部を認めてもらう作戦の1つとして、春浦さんにこのバーガー店で売られている子供向けのおもちゃの全セットをプレゼントをしたが、さすがに高校生である春浦さんにはこの作戦は通用しそうにはなかった。


「別に私は、こんなおもちゃが欲しいなんて言っていないよ!!」


「そんな事言わずに、ホラッ、この車のおもちゃなんて、すっごく面白そうなおもちゃだと思わない?」


 そう言いながら、秋風さんはテーブルの上に置かれているおもちゃの車を後ろへ引いた後で走らせた。


「なんだよ、このおもちゃ。もっと面白いおもちゃでないと私は喜ばないよ」


「そんなぁ!! このレベルではダメだったの?」


「ダメだね」


 秋風さんが買ったおもちゃを見ながら、春浦さんはジュースを飲んでいた。


「でも、私にくれると言うのなら、このおもちゃは貰っておくよ。そして、今後の動画の参考にでもさせてもらうよ」


「おもちゃをあげるんだから、香里奈ちゃんの件を少しでも考えてよ!!」


 ジュースを飲み終えた後、春浦さんは秋風さんからのプレゼントであるおもちゃの数々を、無駄にする事はなく、全部自分のカバンの中に入れてしまった。


 おもちゃをカバンの中に入れた後、春浦さんはポテトを摘まむ様に食べ始めた。


 そんな春浦さん達の様子を見ながら、私はジュースを飲んでいた。





 それからしばらくした時、夏川さんが春浦さんの方を見ながら話しかけた。


「そう言えば、どうしてそんなに香里奈の事を嫌ってるんだよ? 相当嫌っているからには、それなりの理由があるんだろ」


 夏川さんが言った言葉は、どうして春浦さんが四季神さんの事を嫌っているのかという疑問であった。


 そう言えば、以前から春浦さんが四季神さんの事を嫌っているのは知ってはいたけど、どうして嫌っているのか、その理由は未だに知らなかった。


「別に、大した理由はないよ。喋ったって下らない理由しかないよ」


「だから、その下らない理由を喋ってくれないと、理由が分からないだろ?」


 しかし、春浦さんは下らない理由だというだけで、四季神さんの事を嫌う理由を喋ろうとはしなかった。真相が凄く気になる私は、夏川さんと同じ様に、春浦さんに真相を言う様に問いかける事にした。


「嫌っている理由を喋ったらどうかしら? いつまでも秘密にしていたって仕方がないでしょ? 嫌う理由が分かれば、四季神さんの入部の件だって考えは変わるわ」


「そうだよ!! どうして香里奈ちゃんの事を嫌っているのか、理由を言ってよ!!」


 私が春浦さんに問いかけたのと同時に、秋風さんも同じ様に春浦さんに真相を言う様に問いかけた。


 さすがに夏川さんだけでなく、私と秋風さんまでもが問いかけると、春浦さんも黙ったままではいられないと思ったような顔を始めた。


「そこまで言われると、さすがに理由は言った方が良いかも知れないな……」


 そう言った後、春浦さんは四季神さんの事を嫌う理由を喋る決意を決めた。





 そして、ジュースを一通り飲んだ後で、春浦さんは四季神さんの事を嫌っている理由を喋り始めた。


「私が香里奈の事を嫌っているのは、数年前に私が作ったRPGゲームが原因なんだよ」


「えっ!? 古都ちゃんって、ゲームを作ったりする事が出来るの?」


「作るって言ったって、専用のソフトのおかげだよ。それがあれば、誰だって自分で好きなRPGゲームを作る事が出来るんだよ」


「それでも凄いよ!!」


 春浦さんが四季神さんを嫌っていた理由は、手作りのRPGゲームが原因である事が分かった。


 春浦さんがRPGゲームを作った事があるという事実を知った秋風さんは凄く驚いているが、春浦さんの言う通り専用のソフトがあれば、誰でも作ろうと思えば作れる。


 最も春浦さんの場合は、現在でも自分で考えた遊びを動画内で披露したりしている事だし、別に専用のソフトを使ってのオリジナルのRPGゲームの制作に関しては、特に驚くほどではない。


「今から数年前に私がその自作RPGゲームを作った時、そのゲームを多くの人にプレイをしてもらおうと思って、ネット上にアップしていたのだけど、始めのうちは誰もプレイをしてくれなかった。ところがある日を境に、私が作ったRPGゲームは多くの人にプレイをされるようになった」


「一体、何が原因だよ?」


「その原因を調べていって分かった事は、世間でも話題になりつつあったアイドル系UTuber達が一斉に私の作ったRPGゲームのゲーム実況をやり始めていた事が原因だって事が分かったんだよ」


 まさか、春浦さんが作った自作のRPGゲームが、そんな凄い事に!! 普段からいろんな遊びやゲームを速攻で考えたりしているのは知っているけど、私の知らないところでも、凄い才能を発揮していたのね。


「そんな凄い事に!! ところでそのゲームって、名前はなんだよ?」


「名前は『ロスト・ヒストリー』かつて、アイドル系UTuber創世記において一大ブームとなったフリーRPGゲーム。それがロスト・ヒストリー。通称ロスヒス。私がそのロスト・ヒストリーの制作者なんだよ」


「ロスヒス? 名前だけは聞いた事はあったけど、まさかあのゲームの制作者が古都だったなんて!!」


 ロスヒスは名前だけなら噂には聞いた事があるフリーゲームだけど、まさかあのゲームを春浦さんが作っていたとは。この真実ばかりは、さすがに驚くわね。


「ロスヒス? 何なのそれ?」


「オイッ!! あのロスヒスバブルを知らないのかよ!?」


「ロスヒスと言ったら、ネットやSNSで一時期話題を呼んだフリーゲームよ」


 ロスヒスという言葉を聞いても驚く様子を見せるどころか、逆にキョトンとした表情を見せた秋風さんを見た夏川さんと私は、その無知さに驚いた。


 その為、私は秋風さんにロスヒスがどの様なゲームであるのかを、簡単に説明をする事にした。


「ロスヒスは普通の自作RPGゲームとは違って、数多くの選択肢があった事で、話題を呼んだ自作RPGゲームだったのよ」


「どんな感じに選択肢があったの?」


「例えば、ゲーム内に登場する仲間に出来るキャラは全員を仲間にする事は出来ず、また、選択をした仲間キャラによって物語の内容に変化があると言ってSNS上でも話題を呼んだのよ」


「そうなんだ」 


 ロスヒスを知らない秋風さんに説明をするも、噂程度でしか聞いた事のなかった私は、言葉通り本当に簡単な説明で終わらせてしまった。


「春浦さんが作ったというゲームは、大体こんな感じの設定で合っているかしら?」


 本当にその設定で合っているのか、私は春浦さんの方を振り向き、確認を取ってみた。


「うん、大まかに言ってしまえば、設定はそんな感じだよ」


 どうやら、私が言った設定は間違ってはいなかったようね。


 私がロスヒスの大まかな説明を終えると、春浦さんは先程の話の続きを始めた。


「話は戻るけど、私が作ったロスヒスを、多くのアイドル系UTuberと呼ばれていた人達と同じ様にロスヒスのプレイ実況動画を上げて有名になったヤツがいたんだよ。そいつこそが通称チョコチップ。皆の知っている四季神香里奈だよ」


 ここに来て、ようやく四季神さんの登場ね。


「香里奈は、基本的にゲームが下手なアイドル系UTuber達とは異なり、実況しながらのプレイでも充分に見ていられるレベルには上手かったおかげもあって、SNSで広まって少しずつ有名になったんだよ」


「昔は今と違ってアイドル系UTuberを名乗る人も少なかったし、そんなアイドル系UTuber達にたまたまゲームが上手い人がいなかったお陰で、香里奈が運よく目立ってワケか」


「それは間違っていないかもしれないな。そんな香里奈は、ロスヒスバブルで得た人気をゲームのおかげだとは思わずに、自分に人気があったおかげだと思い込んだ矢先に、あんな今みたいなアイドル系UTuberになったんだよ」


「そうなんだ。だとすると、香里奈がアイドル系Utuberを名乗り出したのは、ロスヒスで人気を得た後だったってワケ?」


「そうだよ。それ以前は、アイツは無名のゲーム実況者だったよ」


 春浦さんが喋る四季神さんの昔話を聞いていると、四季神さんはロスヒスバブルで得た人気からアイドル系UTuberになったって事でいいのかしら? 


 そうすると、春浦さんが四季神さんを嫌うのは、ロスヒスというゲームを使って、自分よりも人気が出た為なのかしら?


「今までの話を聞いていて思っただけど、春浦さんが四季神さんを嫌うのって、もしかして人気に嫉妬しているだけなのかしら?」


「そんな単純な問題ではないよ。本当に私がアイツを嫌う理由はほかのところにあるのだよ」


「その他のところって何よ?」


「ロスヒスのおかげで知名度が上がり、その影響から香里奈がアイドル系UTuberになったのは別にどうでも良いと思ってるが、問題はここから。私が作ったロスヒスを、まるで自分が作った作品であるかの様に、ロスヒスの二次創作の小説なんかをネット上にアップし始めたんだよ!!」


 春浦さんが四季神さんを嫌っていた本当の理由は、人気に嫉妬していたのではなく、単に自分の作品の二次創作が作られてしまったからであった。


 でも、人気作となると、同人とはいえ二次創作が作られるというのはごく自然的な事なのでは?


「もしかして、それが四季神さんの事を嫌っている本当の理由なの?」


「そうだよ。それ以外に何の理由があるというんだよ? 私が作ったロスヒスを自分の作品の様に扱っては、私からロスヒスを奪い取ろうとしたんだよ。だから私は香里奈に抗議のメールをしたら、アイツはなんて返事を返したと思う? 『二次創作なんて人の勝手でしょ?』なんて、ふざけたメールを返して来たんだよ!!」


 春浦さんは、当時の事を思い出しながら、店内に響き渡るぐらいの怒った口調で喋っていた。


「その為、私は言い返すかの様に『お前の作る動画は全く面白くない!!』と送り返したんだよ。そしたら『ほらね。そう言うなら、自分がやってみなさいよ!!』と言われたんだよ」


「もしかして、春浦さんは言われるがまま、そのままUTuberを目指したってワケなの?」


「そうだよ!! 今度はUTubeの世界でアイツよりも有名になって、本当に私は凄いのだと教え込ませてやりたいんだよ。そして、改めて私の方が天才だと思い知らせてやりたいんだよ」


 全く…… まるで子供のケンカの様な理由ね。


 それにしても、完全に悪いとは言えないけど、四季神さんも充分に嫌われる原因を作っていた事には変わりはないわね。初めて見た時から、春浦さんにケンカを売っている要素は充分にあったわけだし、これは嫌われても仕方がないわね……


「以上で、私がアイツを嫌っている理由の話は終わり!!」


 そして、少しばかり長かった四季神さんの事を嫌っている理由を言い終えた後、春浦さんは少し休息を取るかのように、再びジュースを飲み始めた。





 その後、ジュースを飲み終えた春浦さんは、秋風さんの方を見ながら話し始めた。


「昨日から、アイツを入部させるとか、仲直りさせるとか言っていたけど、嫌っている本当の理由を知った今も、その考えは変わらないの?」


「その程度では変わらないよ。それに、私は香里奈ちゃんと話をしていて思っていた事があったけど、さっきの古都ちゃんの話を聞いて確信がついたよ!!」


 春浦さんの質問に答えた秋風さんは、四季神さんの勧誘に対して諦めている様子は見えなかった。


「確信付いたって何が?」


「やっぱり、香里奈ちゃんは古都ちゃんの事が凄く羨ましく思っていたという事に!!」


「そんなバカな!! アイツが私の事をそんな風に思ったりするものか!?」


「絶対に思っているよ!! だからこそ、仲良くなるべきだよ!!」


「嫌だよ!! それにお前はどっちの味方だよ!?」


「私は、2人の味方だよぉ!!」


 話を聞いていて思ったのは、秋風さんによる四季神さんを入部させようという話は、まだまだ当分続きそうだという事であった。

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