第9話 最新動画をチェック

 この日の放課後、私、春浦古都は部室のソファーに寝転がりながら、スマホで昨日にアップをされた最新動画を観ていた。


 その最新動画と言うのが、キョウと優の2人しか出ていない最新のレモンティーとポテトチップスの宣伝を兼ねたショートドラマ風の動画である。


 動画の始まりは、キョウと優が部室を目指しながら歩いている場面から始まる。


『いゃぁ~ 今日の授業は難しかったね』


『そうだね』


『そう言えば、この近所に美味しいアイスクリーム屋が出来たらしいですよ』


『ホント!! そのアイスを食べてみたい!!』


『じゃあ、部活が終わったら行こうよ』


『そうだね。すっごく楽しみ!!』


 この場面は、ごく自然の演技でない演技をやる様に言ったが、改めて見ていると、そこそこは演技と思えない演技は出来ているかと思う……


 この次の場面は、廊下を歩いていたキョウと優が映像制作部の部室に着いたという場面である。


『入って、どうぞ』


『ありがとぉ~』


 この場面の撮影中は、優の部室に入る際の可愛いと言い切るジャンプの仕草に反対をしていたが、いざ投稿された後の動画としてみてみると、撮影時に思っていたほど悪いとは思わなかった。寧ろ、これはこれでありではないかと思ってしまうくらいだった。


 この次の場面はいよいよ部室に入り、キョウと優が部室内でレモンティーとポテトチップスを飲食する場面だ。


『ねぇ、何か飲み物はない?』


『今冷蔵庫を見るから待ってて』


『レモンティーしかないけど、飲む?』


『なんでもいいよぉ~』


『そう。じゃあ、レモンティーを飲もうか。今持っていくね』


『レモンティーはこれ1本しかないから、一緒に飲もうか?』


『そうなの。じゃあ、半分こだね』


『ただレモンティーを飲むだけだと寂しいので、このお菓子を一緒に食べよ』


『いいねぇ。一緒に食べよっか』


『そうだね。この夏ポテト対馬の塩味は、夏限定のポテトチップスだから、今しか食べられないよ』


 この場面の撮影中は、優が対馬つしまという読み方を対馬たいまと読み間違えていたっけな。最終的には、対馬つしまちう読み方を覚えたみたいだけど、どう読んだら対馬つしま対馬たいまと読むんだよ、全く。


 それはそうと、この動画の脚本を考えた私が言うのもなんだが、見ていて思うのは、ホント、この動画は脚本の元作られたドラマには見えない。寧ろ、ごく普通の日常場面にカメラを回して撮影をやっただけの様に見える。それだけ、キョウの演技力は演技とは思えないレベルに出来ていた。


 キョウの女装力は、そんな演技力から来ているのかも知れないな? 逆に優の演技力に関しては、まだまだだった。これもキョウのレベルが高すぎるせいで、そう見えてしまうのだろうか?


 そんなキョウと優の2人だけのショートドラマ風の動画は、いよいよポテトチップスを食べる場面へと入った。


『ただポテトチップスを食べるだけだと面白くないからさ、せっかくだし、この普通のポテトチップスと一緒に食べてみようと思うの』


『一緒に食べるって、2袋も!?』


『うん。でも、ただ2袋を一緒に食べるのではなくて、この対馬の塩味夏ポテトチップスと普通のポテトチップスを重ねて食べてみるんだよ!!』


『なんで、そんな事をするんだよ。それになんの意味があるんだよ!?』


『この対馬の塩味夏ポテトチップスにかかっている対馬の塩が、普通のポテトチップスの塩味と違って本当に味の違う美味しい塩なのかを確かめる為だよ!!』


 この動画の脚本を書いた私が言うのもなんだが、動画となった完成品を改めて見てみると、ホント、この場面は必要だったのかと思ってしまう。


 動画内のキョウの言う通り、種類の違う同じ味のポテトチップスの重ね食いになんの意味があるんだよって今更だが思う。


 そんな感じで、ポテトチップスの2枚重ねの場面は本当に必要だったのかと思いながら動画を観ていると、動画はいよいよ同じ味の種類の違うポテトチップスを重ねて食べる場面に入った。


『こうやって、ポテトチップスを2枚重ねて食べるんだよ』


『なるほどね。これで、本当に対馬の塩の美味しさなんて分かるのかな……』


 動画内のキョウは、動画内の優の言っている事を信じようとはせず、疑いをかける様な表情をやりながら、優に言われるがまま、2枚重ねのポテトチップスを口の中へと入れた。


『2枚重ねで食べてみたけど、同じ塩味なので、どっちがどっちかなんて、違いがよく分からんわ』


『そうかなぁ!? こうやって普通のポテトチップスと対馬の塩味のポテトチップスを一緒に食べてみると、対馬の塩味の美味しさの方が強いから、いかに対馬の塩夏ポテトチップスが美味しのかが分かるよ』


『そう言われてみると、確かに対馬の塩味の方は、普通の塩味よりも美味しさが増している気がする…… そうか、これが対馬の塩の美味しさなんだ!!』


『きっとそうだよ!!』 


 この場面に関しては、動画の撮影中キョウは何度もポテトチップスを2枚重ねにして対馬の塩味の方が本当に強いのか確かめる様に食べていたけど、結局は食べ始めた時のセリフの様に味に関してはどっちがどっちかなんてよく分からないと言っていたな……


 実際、この動画の脚本を書いた私も、脚本を書く前に2枚のポテトチップスを重ねて食べてみたけど、味に関してはハッキリ言ってよく分からなかった。


 動画内では対馬の塩味の夏ポテトチップスを持ち上げる為に対馬の塩味の味は別の塩味のポテトチップスと一緒に食べても対馬の塩味の方が美味しさが強くて美味しいという風に作ってはいるけど、実際は余程の味覚に鋭い舌を持っている人でないと、その美味しさってのは分からないのだろな。それが、実際に試してみた感想である。


 しかし、動画で改めて優がポテトチップスを2枚重ねで食べている時の表情を見てみると、これがまた演技とは思えない様な表情をしていた。それはまるで、本当に2種類のポテトチップスの味の違いが分かっているかのような表情だった。


 まさか、さすがにこればかりは私の考え過ぎでしょうね。


 動画の方は、2枚重ねのポテトチップスを食べ終え、その後のレモンティーを飲み終えた後の場面へと移った。


『さてと、お菓子も食べ終えた事だし、そろそろ、動画の編集でも始めようかな?』


『そうだね。お腹もいっぱいになった事だし、そろそろ部活を始めないとね』


『じゃあ、次に投稿をする動画の編集でもやりましょうか!!』


『うんっ!!』


 その後の場面は、ただ単に部活のメインであるUTubeに投稿をする動画の編集作業に入るキョウと優を描いた場面である。


 今回の動画のメインは、最新のレモンティーとポテトチップスの宣伝である為に既にその目的は終わっているけど、今回の動画はショートドラマ風の動画の為、形だけでも一応の日常ドラマの様に作っておく必要はある。


 フェイカーズというUTuberは女子高生UTuberである為、今回の動画の様な女子2人が楽しくお喋りをやりながら部室内でお菓子を食べたりしている場面は凄く大事だと考え、いつも通りの日常風景の様な部活ライフ風に動画を作ってみた。


 動画内の出来事は全て脚本がある作り物だが、よくよく考えてみると、普段の部活ライフもそう変わらない気がするな。


 まぁ、厳しい部活よりも気楽に羽を伸ばせるような自由な部活ライフの方が、私としても楽しいし。


 そして、動画の方はいよいよラストの場面へと入った。


『あっ、もうこんな時間だよ。そろそろ帰ろうよ』


『もうこんな時間なのね。編集作業に没頭していたら時間が忘れてしまったよ』


『今日もたくさん動画を編集したからね』


『まぁ、この続きは明日にでもするとしよう!!』


『そうだね。それじゃあ、帰りは例のアイスクリーム屋に寄って行こう!!』


『そう言えば、そんな約束をしていたね。せっかくだし、今日の部活の疲れをとるついでにアイスでも食べよっか!!』


 ラストは、動画内のキョウと優がアイスクリーム屋に行くという話をやりながら部活を出て行くという場面である。この場面が終わると、いよいよ今回の動画は終了する。


 一般人の場合は、ここで動画のページを閉じてしまうが、私はここから更にチェックをしなければならない事がある。それは、今回の動画に対するコメントである。


 以前はチャンネル数も少なかった為に、大したコメントが書かれていなかったけど、チャンネル数が2500以上にもなった今は、すぐにコメントが書かれるようになった。そんなコメントの数々を、私は動画を見終えた後に、すぐにチェックをやる様にしている。


「フムフム…… 今回の動画の評価は、まぁまぁの様だな……」


 コメント欄には、以外にも優の部室の入り方に関するコメントが何件か書かれていた。


 そのコメントでは、優の部室への入り方に関し、凄く可愛いというコメントを残していた。どこの誰が書いたコメントかは知らないけど、少なくともこれらのリスナー達は優の部室への入り方に関しては可愛いと思ったのだろう…… それは同時に、撮影時のキョウの言っていた事は間違ってはいなかったという事にもなる。


 まぁ、リスナーの好みってのは、ハッキリ言って簡単には掴めない。


 それと、別のリスナーのコメントにはキョウの事を凄く可愛いと書いているリスナーが何人もいた。


 これらのコメントを読んでいると、キョウの事を本当に女子だと思っているリスナーはたくさんいる様に思える。最も、フェイカーズの動画を観ている全員の人が、キョウを男だとは思っていないのかも知れない。


 本当の女子である私が認めるぐらいなのだから、リスナー全員をダマせるぐらいに、キョウの女装力は凄いって事なんだろう。


 それもこれも全て、私が凄いからなのだ!! この調子で、次も面白い動画を作ってやる!!


「よぉーし!! この調子で次は前よりも面白い動画を作ってやるぞ!!」


 その勢いのまま、私は寝転がっていたソファーの上に立ち、顔を上げスマホを持ったまま両腕を天井に大きく伸ばした。





 その時、ちょうどタイミング良く、キョウと優と美沙が遅れて部室に入って来た。


「おいっ、古都。面白い動画を作るよりも、先にやるべき事があるだろ?」


「入る時はノックぐらいしろよ!!」


 突然、部室に入って来たキョウに、私がソファーの上に立ちながら叫んでいた場面を見られてしまった様だ。


「それは、ゴメン」


「全く。それよりやるべき事ってなんだよ」


「もうすぐテストが始まるだろ? だから、そろそろテスト勉強をやらないとマズイと思うのだけど」


 キョウの言った先にやるべき事と言うのは、テスト勉強の事であった。


「テスト勉強なんて、一夜漬けで済むだろ?」


「でも、テスト中は部活動は禁止されているわ」


「それに、みんなでテスト勉強をやろうよ思って、こんなにジュースを買って来たんだよ」


 そう言いながら、優はビニール袋に大量に入っている紙パックのジュースを見せつけに来た。


「テストなんて一夜漬けで出来るんだから、テスト勉強なんて止めて、動画作りでもやろうよ」


「知らないのかしら、春浦さん。もし、テストで1科目でも赤点をとると、追試だけでなくてしばらくは部活動にも参加を出来なくなるのよ」


「それがどうしたんだよ!! 私は天才だから勉強なんて一日もあれば充分だよ」


 脅しをかける様に美沙は言って来たが、私はこの程度ではビビらないぞ。


「あらっ、そうなの。春浦さんはどうやらテスト勉強はやらないみたいなので、私達3人でジュースを飲みながらテスト勉強をやりましょ」


「そうだな」


「うん。せっかくだし、美沙ちゃんにテストの出そうなところをたっくさん教えてもらおっと!!」


 そう言いながら、美沙とキョウと優の3人は、部室に置いているソファーへと座り始めた。


「あと、言い忘れていたけど、テスト勉強をやらない春浦さんは、このジュースを飲まないでね」


「なんでだよ?」


「このジュースは、テスト勉強をやりながら飲む様に買ってきたジュースなのよ。飲みたかったら、テスト勉強をやる事ね」


「ぐぬぬ……」


 別にジュースに釣られた訳ではないけど、1人だけジュースが飲めないっていうのは虚しい気もするので、今日はとりあえず動画作りは休みにして、皆と一緒にテスト勉強をやる事にした。

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