黄金のワニ

良大郎

第1話

第1話 『夢から覚めて』


布団の中にあった彼の体は、突然冷気にさらされた。足元からズルズルと布団の奥へ奥へと落ちて行く。重力が背中から足の裏へ移ったようだった。

「おい!なんなんだよ!」

目が覚めた彼は起き上がろうと、もがき始めた。あるはずもない布団のトンネルを下へ下へと派手に滑って行く。冷気が服の間を抜けて素肌を凍らせているようだった。

ズボッと突然、チューブの様に引き伸ばされた布団のトンネルを抜け出ると、薄暗い空間に飛び出て宙に浮いて静止してしまった。彼は両腕をさすりながら眠そうな目で周囲を見回した。足の下には丸い床が見えるが、周辺は全て星空に覆われていた。天井には伸びきって原形をとどめない布団のトンネル。さらに上には、布団トンネルがとび出ている巨大な丸石が見えた。天井?というべきか。とにかくそこは、プラネタリウムではないようだった。立体的で、不気味だった。

「星空じゃないわ」と、どこからともなく女性の声が響いて聞こえてきた。

「焦らないで。ほら、右を見てよ」

声に言われるがまま振り向くと、メロンくらいに見える青い惑星が見えた。

「あれ、地球よ」

どこから発せられているのか分からない声にこう言われて、焦らないわけがなかった。夜空なんてもんじゃなくて、確かに宇宙にいるのだ。

彼は焦って頭上に少し離れた布団のトンネルに戻ろうとしたが、無重力状態で自慢の平泳ぎは意味がない。伸ばした指は布団トンネルの口に届きそうで届かないのだ。

下からは深い音が響いてきた。丸床が開いたのだ。

「焦らないでよ」

見おろすと、ピチピチのツナギの上に柔道の帯の様な白い物を巻いて垂らす少女が、ゆっくりと飛んで彼に近づいてくる。

「誰だ?ここは何んだ!」

「まず、これは夢じゃない。私は敵じゃなくて、あなたと同じ人間。リリって呼んで」

彼女が2メートル離れたところまで来ると、体に巻きついている数本の帯らしき物がそっと動いて彼の体に触れた。

「うわ、なんだ!?」

「リコッポよ。大丈夫。食べたりはしないから」

そのヘンテコな名前の帯達は彼の背中まで回ると体を抱え、彼女のところまで引っ張った。彼女はそっと両腕で彼を受け止めると、顔を覗き込むように見た。叩き起こされたという感覚が強まった彼も、負けじと彼女の顔を眺めた。

すらっとした鼻。キリッとした眉の下にはどこか寂しげなグリーンの両目があって、白い肌に浮かぶ桃色の唇が微笑んだのが見える。彼女のフワフワと揺れるポニーテールの髪からは、甘いレモンの香りがほのかにする。東洋にも西洋にもいそうな顔だが、どこか幼さを感じさせた。

「ようこそ。名前は?」

「さあね」

「名前を忘れた?まさか思い出せない?」

不安げな顔で問う彼女に、彼はゆっくり首を振った。

「夢か現実かよく分からないけど、知らないところに来て知らない美女に出会ったら、まず怪しいと思うものだろ」

リリは一瞬ハッとした表情を見せると、小さく笑い始めた。

「キザね」

「よく言われるよ」と彼は冗談抜きに体を震わせて答えた。

「じゃあ、あなたのことキザって呼ぶわ」

「ご自由にどうぞ」

キザは突然胸が引き攣るような感覚に襲われた。心臓までが寒さに震え始めていたようだ。するとリコッポ達が二人を優しく包み込んだ。

「突然の事で驚いているでしょ?実はあなたに助けて欲しい事がるの」と小声で囁くリリ。キザは震えながら顔をしかめた。寒さのあまり周囲に気を使うのがやっとだ。

「まずは暖かいところに行こう」とリリは彼を連れて宙を舞い、登場した丸い穴を通って狭いトンネル通路に出て行った。


薄暗い通路は鉄の壁に囲まれていた。奥の方には鮮やかなネオンの光が見えてきた。

「あそこ」

リリが指差した先は通路の突き当たりで、2本の分かれ道があった。壁にはしる一本の太いパイプの表面からは湯気が上がり、無造作に壁に設置されたネオンの光に反射して見えた。

「ここなら暖かいでしょ?」

ああ、と声を震わせて答えるキザ。リコッポ達がリリの体から解けていくと、完全にキザを繭のように包んだ。

「ここはどこだ?本当の本当に夢じゃないのか?」

「夢じゃないってば」と彼女はキザの両目を見つめながら、少し震えた指で彼のほっぺをつねった。

「いでっ!」

「でしょう!?ここは月世界都市よ」

「……そりゃたまげた」

彼は両目を見開くと戸惑うように瞬きした。リリは何かを期待する眼差しで彼の顔色をうかがっているようだった。

「月に人がいるだなんて」

「…え!?ずっと前から人は住んでいるのよ。地球ほど鮮やかじゃないけど。知らなかったの?」

「知るわけないだろう!?さっきまで御国が作った教科書をリスペクトして育った青年は、ベッドの中で気持ち良く寝てたんだぞ!」

彼女は少し気まずそうに口を紡ぐと、パイプの裏に隠しておいた革の鞄を取り出した。

「何がどうなってるのやら。一体何者なんだ君は?」

彼女は鞄を開けると革ジャンやらコートやらを取り出した。

「ここは月世界都市のはずれにある区域なの」

「でもさっきここは月世界都市だって--」

「そう。都市自体はこのずっと下の地下にある。今いるここは、むかし月面に不時着した廃船の一部よ。あなたと会った部屋はテレポートルーム。人や物をテレポートさせるところ」

「俺はテレポートされてきたってことか?寝ている間に?」

「ええ、そういうこと。それで、この私はね--」と言いかけた時、片方の通路の真っ暗な奥から男たちの声が聞こえてきた。

「おい、こっちに光が見えるぞ!」

ザワザワと騒がしい無線の会話が近づいて来る。リリは急いで鞄に服を詰め戻した。

「逃げなきゃ!」

突然、リコッポ達が二人を向かい合わせの束にした。

「ああ気味が悪いなこいつら!どうして逃げるんだよ!」

「お巡りさんだからよ!」

キザが驚くのも束の間、リコッポ達がそれぞれ壁を蹴って、二人は反対側の通路を勢いよく突き進んでいった。冷気が二人の顔を撫でていく。薄暗い通路は壁に設置された照明によって、余計に冷感をもたらした。

「どうするんだ!?」

「まずはここから出る!」

突き進む先、通路の分かれ道が増えてきた。錆びたハッチも目立ち始め、そこらには植物のツルや花、苔が豊かに生息していた。

二人の束は何本も分かれ道が現れた広場で方向転回。耳をすませると至る所、通路の奥から声が聞こえ、壁を照らすライトの光がいくつも見えてきた。

と、行く手にもそのライトの光が大きく見え、二人を照らした。

「おい、いたぞ!止まれ!」

笛がなる。二人を包んでいたリコッポ達が突然解けると、彼らの目の前に飛び出し、壁の至る所に体の端々を巻きつけて張り重なり合った。直後、小さな注射針にような銃弾が何発も突き刺さった。

「うわっ!」と二人は揃って解き放たれた勢いで後ろに飛ばされた。キザはすかさず長い足の指を壁のツルにかけた。そしてリリの片腕を掴むと、引き寄せて壁を蹴った。二人は手を繋いでボロボロになったハッチの中へと潜り込んだ。そこは相変わらず薄暗い通路。まるでこの中は迷路だ。

「どこに行けばいい?」

「このまま直進!」

二人は手を繋ぎながら壁を蹴って進んだ。声があちこちから響いて聞こえてくる。

「ちょっと待って。ここ」とリリが大きなトンネル状の空間がこっそり見えるハッチの隙間を指差した。

「ここから下に行かれるかも!早く!」と彼女は迷いなくハッチを開けてキザを引っ張っていった。


二人はトンネル状、というよりただの筒状のだだっ広い空間に出た。壁の至る所には独特なツルや植物が生えていた。

「おい待て!」背後から警察官達が入ってきた。よく見ると、太い襟は青と赤の点滅ランプになっており、シュモクザメの頭に似た大きなヘルメットを被っていた。全体が黒く、まるで影のようだ。

「おい!止まらんか!」

警察の一人が腕や肩につけたマシンから何やら気体を吹き出し、飛んできた。

「こっちにきたぞ!」

驚いたキザが彼女を見ると、彼女は壁から突き出ているただの長方形の棒を見つけた。その先端には赤いスイッチがある。リリはひらめいた顔をすると「走るよ!」と、鞄を振ってスイッチを叩いた。すると奥から照明の光が空間を照らし始めた。大きな機械音が響き渡ると、塵や葉や花が宙に舞った。

「こら!やめんか!」

警察官達が焦る。キザは彼女に腕を引っ張られた。

「何が起きるんだ!」

「グラヴィティレースよ。壁が床になったらこの先のゴールまで走るの!ついてきて!」

気づくと壁が時計回りに回転し始めていた。宙に浮いているものが次々と壁に落ちていく。二人の足が近くの壁に着地すると、もはやそれは壁では無くなった。

「走って!」と彼女は走り始めたが、足を床のツルに引っ張られたキザは離してしまった。

一人の警察官もまた、リリのように必死に走っていた。まるでハムスターのように位置を保って。

「おいレム巡査!赤いスイッチを押すんだ!」と、無重力圏である入口から見えてる警察官達が応援した。

「その前にあの間抜けな小僧は引っ捕らえるぞ!」

そのレム巡査とやらはヘルメットを投げ捨て、時計回りの壁の向きに合わせてグルグルと走ってきた。

「キザ!早く走って!」

リリはキザの様子を見ながら、突き当たりのゴールである出口に向かうべきか助けるべきか、迷っていた。キザはバランスが取れず、ツルに潜り込んだ片足を抜けずにいた。

「諦めろ!」

レム巡査が猛スピードで正面から近づいてくると、キザはまんまと足を抜いた。今度はレム巡査がそこに片足を入れて転け、キザはまるでリレーをしているかのように時計回りに走り始めた。グルグルと壁を走りながら出口に近づいていく。

警察官達は一斉に唸るとゾロゾロと中に入って同じく走り始めた。鞄を抱きかかえて走るリリは、近づいてきたキザと目が合うと笑った。そして出口の淵に力一杯体を持ち上げてくぐり抜けると、キザも後を追うように出口を抜けた。

二人はあっという間に無重力空間に出た。そこはだだっ広い更衣室のようだった。

「まさか、まだ運動場が起動するだなんて」

リリが息を切らしながら言った。キザはもっと息を切らしていた。ただ頷き返すと、彼女の手を自然と掴んだ。

「きっとこのまま直進よ。ここは一度だけ来たことがあるの」

二人は賑やかに走る警察官達をあとに、先へ進んだ。


更衣室を出ると、またもや薄暗い通路に出た。子供が描いたと思われる幼い絵が、沢山宙を浮いていた。その中には積み木やロケットのオモチャが混じっている。通路を少し進むと、二人は大きな黒板のある教室に来た。長〜い黒板にはイタズラ書きがいくつか残っていた。至る所にはモヤシの様な形をした赤い物が設置されており、キザの前を行くリリはそれらを蹴って進んだ。キザもまた、ロッククライミングするように彼女の真似をして、その赤いモヤシもどきを蹴っていった。

「船の底はもう近いはずよ。そこの通路を抜けましょ」

リリが先導して、二人は突き進んだ。背後から警察官達の無線の音が微かに聞こえてくる。

「あった。あの通気口よ」

リリが指差したのは、ヒト一人分が通れる通気口の穴がいくつも空いた壁。そのうちの一つに彼女はスルスルと入っていった。

「待てってば!」とキザは小声で囁いたが、彼女はどんどん先へ進んで行った。キザは慌ててついて行った。


中は狭くて暗い。リリは鞄を前にやりながら壁を這って進んだ。キザは彼女の尻を眺めながらただついて行くことしかできなかった。未だ心の整理がついていない上に、眠気が覚めたわけでも無い。不安だけがずっとあった。

「ついた」

リリが突然止まると、キザは彼女のかかとをつかんで静止した。すると彼女は狭い中で回転して、頭を彼の方へ向けた。

「ここから先は重力が発生するの。だから徐々に体重を感じると思うわ。腕と背中を使ってゆっくり降りていくよ」

「おい待て。君に呼ばれた理由をまだ聞いてないぞ」

「それは、とりあえず下についたら説明するから。ついて来て」

リリは壁に手を当てながら下がって行った。キザも恐る恐る体を回転させ、彼女のように下がっていく。

少し進むと、腰に重みを感じ始め、髪が額に当たるのを感じた。重力だ。

遂に背中や脚までを使って降り始めると、下から光が見えて来た。そして何やら反響音が聞こえる。ゆっくり降りてくるキザは、つま先が通気口から出ると鳥肌を立てて下を覗いた。そこは眩しく、リリの頭と蓋をされた便座が見えた。

「さあ、ゆっくり降りて来て」

キザは便器の上に降りると、そこはどこかのトイレの個室だった。とっさにしゃがみこむと、リリが青い靴下を差し出した。

「女物だけど、履いて」

「ここは?」

「都市の最上階。ずっと下まで行って、ピラミッドステーションへ行くわ。でも--」彼女は周囲を気にして小声で続けた。

「でも、女装して」

「はぁ?」

「警察官に見つかったら、また追われるでしょ。駅に着いたら落としてあげるから」

「そこまでする理由はなんだ!?どうなってんだよ!」

「まずはここを出るの。近くの喫茶店で説明するから」

リリはカバンからハサミを取り出すと、突然、髪をバッサリ切ってしまった。


二人は揃ってトイレを出て来た。先とは全く違う格好で。

リリは胸にボックスが埋め込まれた、洒落た革ジャン姿で。キザは女物のコートを来て、化粧を施し、ミット帽をかぶっていた。

「あなた、中々美人よ」

「お前も女でいるよりその方がいいんじゃないか?」

「こら、話し方も気をつけてよ。オカマじゃなくて本当に女になって。さて、ここが都市の最上階。どこかに寂れた喫茶店があったはず…」

都市といっても、店や住居のそれぞれの屋根が大きな階段になって、いくつも複雑に重なったり混じり合っていた。それも大理石でできていた。

二人の目の前にある広場と思われる場所も、4つの大きな階段が囲う、踊り場を広くした見た目で、遊ぶ子供や老人達の憩いの場のようだった。

最上階は最上階ということもあって、ステンドグラスの絵が描かれた大きなドーム型の天井に覆われており、レンガで積み上げた円形の壁には大きな柵で閉じられた暗いトンネルがあった。

「ここからずっと下へ行くよ。その前に食事だね。…あ!」

リリの視線に誘われてキザは二人の間に置かれた鞄を見た。閉じた鞄から1匹のリコッポがはみ出ていたのだ。

リリが鞄を少し開けると、その50センチ程のリコッポがニョロニョロと外に出て来た。

「このリコッポとやらは何なんだ?」

「これは人口で作られた生き物。沢山いるのよ。この子だけは鞄を守るために入れておいたの」

「君の言うことをよく聞くんだな」

リリは微笑みながらそのリコッポを鞄の取っ手に巻いた。すると本当にただの帯の様になってしまった。

「さあ、行きましょ」


キザはリリについて行った。ふと階段で彼女の隣に並ぶと、横顔を見た。彼女は18歳の女の子にしては身長が大きく見えた。周囲にいる人たちも少しだけ大きく見えた。スタイルや言語には違和感がないのだが。

「あった。あの店で休みましょ」

二人は広場を少し降りた狭い階段の踊り場にある、地味な喫茶店に入った。コーヒーのいい香りが二人を包み込む。

カウンターには数名の客が飲み食いしており、店長と思われる中年男の店員が食器を洗っていた。

「コーヒー飲める?」

「大好きだよ!ブラックで」

リリが慌てて口に指を当てて顔をしかめた。キザはハッとして顔を赤めた。


彼女がサンドイッチとコーヒーを二つずつ注文すると、二人は奥の薄暗いテーブル席に座った。壁には立体的に奥行きがある写真が並べて飾られていた。

「それで」と席に着いたキザが切り出した。

「どうして?」

「ええ、説明するわ。まずどこから話そう……。そうだ!」

彼女は小声で話し始めた。

「最近、この月に黄金のワニが現れたと噂が流れているの。実際に目撃した人もいる。でも危険だし、ワニとやらは地球にしかいないから実態が何なのかあまり知られてない。でも、ある貴族が本気で賞金をかけたの」

「そのワニに?」

「そう。銃や光線銃で殺すと金貨3つ。素手で捕まえれば金庫まるまる1つよ!」

「……俺は?罠にでも使うのか?」

「まさか!」

店の人が注文したものを持ってくると、彼女は身を引いて黙った。二人の目の前にコーヒーと美味そうな丸いパンに挟まれたサンドイッチが置かれた。

「いただきます」とリリが呟くと店員は微笑んだ。

「こんな早くからお嬢さん二人でどうしたんだい?」

「ちょっとした旅行です。学校のテストも終わったし」

「そりゃいいね。どこへ行くんだい?」

「それはー……」

「いやいや、余計なことを聞いたね。実は今、『陽当たり祭り』をする太陽駅が、特殊警察でいっぱいらしいんだよ。よく分からんが物騒だから、気をつけてね」

リリの両目はキラキラと大きくなっていた。

「あ、ありがとうございます……」

店員が去って行く。彼女は少し落ち着かない様子だった。

キザは少しの間黙り込むリリを見つめた。

「これ食べてもいい?」

「あ!ええ、食べましょ…」

「今の話で元気が無くなったのか?」

と小声で聞くと、リリは首を振った。

「…生まれたものは皆、母星の重力とつながっているの。でも離れてしまう時もある……。話の続きになるだけど、黄金のワニだって一様地球の生き物だわ。でも、月で生まれ育った私じゃ太刀打ちできない。尻尾で叩かれたら骨が折れちゃうわ」

彼女が小声で答えると、キザは食べようとしていたサンドイッチを皿に戻した。

「何となく読めたぞ。ワニを素手で捕まえるには、最低でもワニに体重をかけられる奴が必要だね」

「そうそう!」

「待てよ!確かに俺は同じ地球出身だけど、ワニは動物園と図鑑でしか見たことないぞ。ましてや触ったことなんてないし。そもそも、ロケットに乗って宇宙を出るのが必死な人間が、月に住居を構えて住んでるだなんてあり得ないことだ。今は信じてるけど。でも…、でもワニを捕まえる道具くらいはあるだろう!?」

「無いわよ!ワニの形を知っている人すら少ないのよ。私は地球に興味があって、最近研究し始めたばかりだけど、ある程度のことは知っているつもり。でも研究費もなくなってきた」

「だから賞金を狙うのか?」

「そうよ!」

キザは彼女の顔を見つめた。

「親はどうした?俺をさらったことは黙っていたとしても、どこまで知ってる?」

彼女は一息、息を飲んで気まずそうに答える。

「お母さんもお父さんも……、お姉ちゃんも、ずっと留守なの。長い間おじいちゃんに育ててもらってたから」

「家はどこだい?」

「……さっきの廃船」

リリは耳と鼻を赤くして俯いた。目は今にも泣きそうなくらい落ち込んでしまった。キザは小さくため息をついて彼女を見た。

「俺はつい最近20歳になったばかりだ。威張るわけじゃないけど、地球じゃ君は未成年だし、その上俺は……。年齢制限や成人地やらは地球というか日本に限ったことかもしれないけどさ。そもそもどうして俺を?どうやって布団から引きずり出した。おふくろでも困難な事だぞ?」

「職業適性テスト用の選別マシンを改造して、テレポートルームと無理やり同期させたの。マシンに条件を書き込んで、長い事地球を観察してた。結果、マシンと私はあなたを選んだの……」

キザはなんとなく頷くと黙った。二人の間に沈黙が顔を覗かせようとした時、キザは小さく笑った。

「詳しい条件までは聞かないけど、『イケメン』は条件に入ってた?」

彼女は表情一つ変えずに小さく頷いた。

冗談が通用しない。キザはコーヒーを飲むと、そこに映った自分の顔を見た。化粧した顔は、どこかで見たことがある顔だった。

「……なぁ。丁度明日の授業はサボろうと思っていたし、俺の家族も旅行に出かけたばかりで留守なんだ」

リリは顔を上げて彼の顔を見た。

「いつまでここにいられるか分からないけど、少し冒険してみよう」

リリは微笑むと頷いた。

「本当に!」

「……でも、そもそも帰れるのか?」

「うん!……多分方法があるはず」


第1話 終

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黄金のワニ 良大郎 @jackal777

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