北海道旭川市
終夜 大翔
きらきらの名前
オレが幼い頃、ばあちゃんがよく雪かきをしていたのをよく覚えている。両親は共働きだったので、ばあちゃんがオレを育ててくれた。家の管理もばあちゃんがしていた。
ばあちゃんは、「こわいこわい」と言いながらも雪かきをしていた。「こわい」とは、方言で疲れたとかしんどいとかそういう意味だ。
オレの育った旭川という街は、不思議な街である。北海道の真ん中少し上に存在する盆地の中心に栄えていた。だから、天気が周りとはちょっと異なる。盆地特有の夏の暑さと冬の寒さの厳しさを持っている反面、山が雨や雪の侵入を防いでくれたりするときがある。それも、お山の気まぐれみたいなところはあったりするのだが。
今は、旭山動物園が全国区になって名を上げている。でも、オレが小さい頃はなにもなかったといっても過言ではなかった。
「ばあちゃんは、どうして旭川に住んでいるの」
「そうねえ、この街が好きだからかしらねえ」
「でも、毎日雪かきをして『こわい』っていってるじゃん」
ばあちゃんは、少し困ったような顔をした。
「ばあちゃんはね、旭川の生まれじゃないの。ばあちゃんのお父さんが第七師団の一員で、東北から移り住んできたんだよ」
「オレ、知ってる! 帰りたいと思わないの?」
「暑くて寒くて、たまに雪がどかっと降ったり、あずましくないことも多いけど、不思議と戻りたいと思ったことはないねぇ」
「なんでなんで?」
「ここには、いろんな思い出があるからねぇ」
そういって、ばあちゃんは遠い空を見ながら言った。
「坊は、ここが嫌いかい?」
「嫌いじゃないよ。学校楽しいし」
そんなことを言っていたオレだけど、中学校を卒業して、札幌の高校、大学へと進学。十年旭川を離れた。
そして、今十年ぶりに旭川市民としてこの雪積もる地に帰ってきたのである。
「うーわ、やっぱり寒い。手袋忘れたから手がかじかんじゃうな」
故郷の厳しさを受け、帰ってきたという実感に包まれた。
ばあちゃんが歳をとったので、今度はオレが家の雪かきをする。雪は、どか雪もたまに降るけど豪雪地帯というわけではない。
この街は遊ぶところも年々減り、若者には住みにくいんじゃないかという感想を持っていた。動物園も雪の博物館もあるけど、若いオレには一回行けば当分は行かなくてもいいところだ。
それよりオレは、この街の特徴に惹かれ始めていた。
それは、この街は盆地であることと橋と河の街であるという点だ。
天気がよければ三六〇度山に囲まれているのを観ることができる。
これは壮大だ。
いろんな山があるのだけれど、イチオシは大雪山系の山々である。
万年雪のところもあって、冠雪した山を一年中楽しめたりする。
もう一つの特徴は、橋と川の街と言うことだ。
日本三大河川の
その数なんと一六七本。調べたオレも驚いたものだ。
ちなみに、「別」の字はアイヌ語の「ペツ」=「川」という意味から来ている。そのため、よく使われているイメージがある。
海もいいけどオレは川が好きなことに離れてみて気がついた。
移動のために必要な橋もたくさん架かっている。
今は、七六〇を越える橋が架かっているそうだ。
代表的な橋として旭橋という橋がある。
実家がその近くにあるので、昔はあまりありがたみのない橋だった。
日本で早くに出来た鉄製の吊り橋で、第七師団の出動の際、戦車が通れるくらいには丈夫だそうだ。
北海道において東京を越える日もある夏の暑さも特徴的ではあるが、やはり楽しみは冬にある。
中坊だったオレは気温が下がると空気中にきらきらしたものが舞うのを知っていたが、名前も知らずきれいだなで終わっていた。
これが、噂に名高いダイヤモンドダストというのを知ったのは札幌に行ってからだ。
他にも、木の枝に氷がまとわりついてみられる樹氷や、川に咲く氷の華。
どれも気温がマイナス二〇℃、三〇℃まで下がらないとお目にかかれないものたちだ。最低気温マイナス四一℃を記録したこの街ではあるが、それでもなかなかそこまではいかない。
確かに、動物園もいいけれど、地元民としてはそういった住んでないとわからない現象の方がはるかにオレを惹きつける。
「ばあちゃんが、旭川から離れられない理由がわかったような気がするよ」
「そうかい? 坊も大人になったんだねえ」
「そういうことかも。じゃあ、雪かきしてくる」
そういって、ダイヤモンドダストが舞い散る外へと出ていくのであった。
北海道旭川市 終夜 大翔 @Hiroto5121
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