異世界で恋に落ちるとかありえないから
兒玉 蒼
プロローグ
突然だが私の名前は田中赤実。赤実と書いて「トマト」と呼ぶ。この名前をつけた親を今でも呪っている。
ああ、そんなことは置いておいて本題に入ろう。
私は自らの身に起こった出来事をここに記そうと思う。
今では死という概念も私の中には存在しないので書き記さなくても口頭で伝えられるし、この思い出は100年経っても色褪せることは無いだろう。
しかし私は形の残る物が好きなのだ。
ここに記すのは、ただそれだけの理由でそれ以下でも以上でもない。
何から書こうか…そうだ、まずは私のことを語ろうか。
私は元々この世界の住人ではない。
忘れもしないあの日は目が痛いほどの晴天だった。
◆◆◆
今日もいつもと変わらない日常が始まる。
朝4:00に起きて身支度をして、亡き両親に手を合わせて、まだ日も登っていない時間に駅まで歩く。1月のこの時間は凍え死にそうなほど寒く、防寒具が欠かせない。あとカイロ。
電車が来ればいささか低いドアに頭をぶつけないように腰をかがめて車内に入る。ああ、1つ言い忘れていたが私は193cmと少々身長が高く何かと私生活に影響が出てしょうがない。
そして会社の最寄駅に着き、会社まで歩く。会社に着けば知った顔に声をかけながら自らに割り当てられたブースに座りパソコンを起動させる。
少しミスをして部長にいびられている時、ふと今日は自分の誕生日だと気付いたが、特に祝ってくれる人もいないのでそこまで気にしなかった。
だが今日は自分の誕生日を祝いたくなり仮病を使い会社を早退してやった。
空を見上げるといつもは会社の中に籠っているせいか、久方ぶりに見る太陽が燦々と私を照らしていた。その周りには雲はなくまるで天が自らの誕生日を祝ってくれているようで少し気分が良くなった。
家に帰る前にケーキを買っていこう。ショートケーキがいい。
地元のケーキ屋に行くとケーキが半額で売られていた。閉店セールのようだ。私が小さい頃から商っていたので少し寂しい。
しかしなぜか今日は運がいい。電車も混んでいなかったし、仮病を使った時もすんなり退社することができた。そして安くケーキを買うこともできた。
最近いいことが無いからその揺り返しだろうと、浮かれていた。
それ故に気づかなかった。
マンホールの蓋が開いていることに。
一瞬で視界が変わり、落ちていた。
マンホールに落ちて死ぬなど恥ずかしいにも程がある。それだけは回避しなくては。
まだ落ち続けている。
そろそろ昨日の雨のせいで水かさの増したマンホールの水に入るだろう。
が、水に入る感覚はない。まだ落ち続ける。
何が起きている!?
と心の中で叫んだ瞬間、また視界が変わる。
目の前を銀の翼を持つ怪鳥が通り過ぎる。
「な、なんだ!?」
思わず大声が出てしまう。
それも仕方のないことだ。どこか知らない広大な空に身1つとケーキが投げ出されているのだから。
ぐんぐんと地面が近づいてくる。
ああ、私はここで死ぬ様だな。
空から落ちて生きている方が気持ち悪い。
地面に着く、瞬間時が止まる。
「今、死ぬかと思ったでしょ?フフ、あなたは死ぬと思うと面白い顔をするのね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます