吸血鬼にもいろんな奴がおりまして。
タルト生地
第1話
キィキィキィキィキィ…!
コウモリの群れ。
明るい満月の夜、彼らの姿は影そのものが翔んでいるようにも見えた。
その中に1つだけ、一際大きな影がある。
街の闇の中を影達は舞い、集まり、散り、鳴き、そして教会の屋根に止まった。
「さぁお前達。もう好きな所へ行っていいぞ。ありがとう。」
大きな影がそう言うと、小さな影達は散り散りに消えて行った。
「さて…あの家から美しい女の匂いがするな…」
左の口角が不気味にニヤリとあがり、影は飛び立つ。
白いカーテンが揺れる窓に向けて滑空し、加速する。
その歪な翼は人間の目には捉えられなどしない。
美女の香りめがけて翔け、
月の光と共に窓へ、
まっすぐに、
あれ、
あ、これまずい。
また失敗する!
速い速い速い!
誰か!ちょっと!怖い怖い!
お前達!コウモリ達!助けて!
きゃあああああ助けてよぉ!
ドタァン!!!!
ガタッ!ガシャァァン!
「イヤァァァ!!なに⁉︎」
美女の悲鳴、響く。
「フ…フフフ…わ、私は吸血鬼…あなたの血を…」
「いやああああ、怖い怖い怖い。待ってよ。あまりにもツッコミが多すぎるよ。あなた今輸血レベルで血が必要な気がするわよ。」
改めて紹介しよう。
彼は吸血鬼ルーフ。もう一人前に吸血鬼をやっていてもおかしくないはずだが、失敗続きの情けない吸血鬼である。
飛行の失敗はもう今月6回目、窓に入れたのは初めてである。
他にも彼には様々な問題がある。
「あ…うぅ…なんか…意識が……あらっ……ららっ…?」
ドタッ
「えええええ⁉︎ちょっと待ってよ!えーっと!と、とりあえず救急箱⁉︎」
血を飲む魔物、血を止めてもらう。
20分後…
「…………うっ……ううん……俺は…何を…?」
ルーフは目を開け、ぼんやりと霞んだ視界に目を凝らす。鈍い痛みが頭にゴンゴンと響いた。
少しずつ、意識がはっきりしていく。
徐々にピントが合い、澄んできた視界。
その目の前には、美しい顔があった。
「わ、わあああああ!!」
「わっ。びっくりした。気がついた?」
「あっ、いや、あの、はい!大丈夫です!あの、俺!その!な、何もしてませんから!」
吸血鬼にあるまじき発言である。
「と、とりあえず大丈夫みたいね…」
「ほんと!大丈夫です!噛んだりとかしてないんで!切ったりとかも!」
女性の家に侵入できた(?)事自体が初めての彼には、美女と接近しただけでもパニックには十分の事だった。
「ああっ、えっと、もしかして…手当てを…?」
「ええ、まぁ…」
「あぁ…ありがとうございます。えっと…」
「あ、私沙織っていいます。」
「あ…ルーフです。その、すいません丁寧に…」
「まぁ、死にそうだったし…ところであなた、どうやって入ってきたの?」
「え?ああ、俺吸血鬼で、半分コウモリに変身できるから翔んでそれで…」
ルーフ語る。
テーマ〜吸血鬼の自分について〜
ちなみに彼は少々アホである。
「えっと…つまり美女の血を吸って吸血鬼としてかっこよくなりたいけど、うまくいかず…」
「ええ…はい…」
「とりあえず定期的に動物の血を吸って頑張ってて…」
「はい…」
「今日も血のために飛んでたら失敗して私の家に不時着したと…」
「そういうことです…」
情けない、という言葉はこの瞬間のために生まれたのだ。と、ルーフは考えていた。
「ふーん。なんか吸血鬼ってのも大変なんだねー。」
そう言う彼女の目に、未知の魔物に対する恐怖はすでになかった。
「うん…ありがとう。部屋、散らかしてごめんね。」
「いや、まぁ、そこは仕方ないから。さ、もう大丈夫なら次こそ美女のとこ行きな。」
「え、あの…」
「ん?」
「さっきの美女って沙織さんのことです。」
彼が恥ずかしい事を言ったと気づくまで残り3秒。
「えっええええ?そんな…美女だなんてー。ありがとう。」
照れる沙織。
口元が緩む沙織。
微笑む沙織。
その間3秒。
ルーフは頭の中で恥ずかしい事を言ったなと思うと同時に、
これが恋か
とも思っていた。
少々アホな吸血鬼、初めての恋。
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