零れ話

vivi

第1話







最近、死とは何か考えることが多くなった。

単純に僕が病んでいるのだろうか。

まあ、病むのに無理もないさ。

僕はいじめられているんだ。

いじめられているって言ったって別に、漫画によくあるみたいに水をぶっかけられたり、放課後体育館に呼び出されて殴られたりするんじゃない。

ただ、単に無視をされているんだ。

僕を無視しているのはクラスメイトだけじゃない。

僕は近所の人にも、親戚にも、そして家族にも無視されているんだ。

どれだけ呼びかけても聞こえないフリをするんだ。本当に聞こえていない?そんなわけないだろう。もう1週間と口を聞いてくれていないんだよ。

しまいには母親はなんだか眠れていないようで目の下を真っ黒くしてご飯もまともに作らないんだ。

こっちまで辛くなるよ。お母さん。

なあに、こんな話をして情をかおうとしてるわけじゃないさ。

でも、これは僕の生きた証としてみんなに話しておきたくてね。


僕は今、15階建てのマンションの屋上にいるんだ。

5、6階の建物じゃ、変に怪我して生き残るかもしれないだろう?

でも、ここから飛び降りて生きてる人間なんてそうそう簡単にいやしないよ。

やめときなって?やめないよ。

死んでも何もならないって言うけど、あんなに無視されているんじゃ生きながら死んでいるようなものだ。

僕は靴を脱いで柵を跨ぐと躊躇せずに飛び降りた。

風が気持ちよかったよ。すべてが儚く見えて、そうだなあ、走馬灯だって見えた気がするよ。


やがてドンと大きな衝撃が体に走って頭がかち割れそうに痛かった。

僕は数秒その場にうずくまっていた。

痛くて痛くて もう死ぬと思った。

でも、死ななかったんだよ。

おかしいよねえ。傷も一つもないし血だって出てない

骨も折れた感じはしないし、ただ頭が痛いだけ。

僕はなんだかすごく怖くなって立ち上がると足早にその場を離れた。


そこから家までの道で1匹の、黒猫と目が合った。

僕は猫は苦手でね。すぐに目を離したんだ。でもその黒猫はじいっと僕を見ていて目を離さなかった。

次に、お母さんと手をつないだ子供が歩いてきてね。

僕は子供は嫌いだ。うるさくて落ち着かないからね。

でもその子供はなにも言わず、僕を見ると悲しそうに横を通っていったんだよ。

どうしてそんなに悲しそうな顔をするんだと

その時に聞いておけばよかったのかもしれないね


家に帰ると「ただいま」と言う。

でも母親はテレビをひたすら眺めているだけだった。

「どうして無視するんだよ」。

なにかのドッキリならそろそろプラカードを持って出てきてくれよ。

無視されていると生きた心地がしないんだ。

だれとも話してもらえない。

しまいにはご飯も出してもらえない。

なんだか僕が死んだみたいだ。

いや、みんなに殺された、みたいだ。

まあ、ここまでみんなに聞いてもらったわけだけど、僕が伝えたいことはここからなんだよ。


そうして相変わらず無視を続ける母親がぼうっと眺めていたテレビには僕が映っていた。

これには驚いたよ。連続無差別殺人の被害者としてね。

死んだことになってたよ。正しくは死んでいたのかなあ。

僕は初めて今までのいじめの理由がわかって、なんだか笑いがこみ上げてきたよ。

なんだ、僕、死んでたのかって。

これで病む必要も無いし、次に死ぬ必要も無いだろう?


黒猫、なあお前はわかっていたんだろう。

子供、お前もわかっていたんだろう。

お前達が教えてくれたなら

ぼくはこんなに酷い涙を流すこともなかったのだろうかなあ。

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