第57話 お粗末な仕事
「これがアイーナ様がこの世界の人間達に与えた魔法の武器だ」
ラズルはテーブルの上に先日の戦いで手に入れたウィザードを置く。
「……あれ?」
最初に違和感に気付いたのはジルだった。
「気付いたか。さすがは魔法戦闘専門だな」
「へへへ、それ程でもあるけどね」
「ジル」
イリアがジルに説明を求める。
「あのね、これには何の魔法効果も掛かっていないんだよ」
「それはどういう意味ですか?」
ライナとリリルが首をかしげる。
「つまり、この銃は見た目だけソレっぽくした只の鉄砲って事。そうでしょ旦那?」
ジルの回答に満足そうにうなずくラズル。
「そうだ、この銃自体は只の鉄砲だ、一切の魔法的な仕掛けは無い。重要だったのは、傍にいたアーナ様の方だったんだ」
「アイーナ様……っ! そう言うことですか」
からくりを理解したライナが納得がいったと表情を硬くする。
「「ん~?」」
しかし未だ理解できていないリリルとイリアが首をかしげたままだ。
「つまり、彼らの武器は魔法の武器などではなく、アイーナ様が補助魔法をかけて魔法の武器に見せかけていたという事だ」
「「ええー!? 何それー!」」
二人の言葉がハモる。
「おそらくは、後々人間達と袂を分かった時に装備の技術を人間達に残さない為だろうな。そして自分がメンテナンスしなければ正常に扱えないと誤認させる為だ」
「そうする事で自分の存在を必要とさせる事が目的ですか」
「ああ、技術だけ取られて、はいさよならなんてさせないためだな。いくらこの世界の人間がマジックアイテムを研究したといっても、実際に使い物になるには何年も掛かる筈だ。だから政府関係者はアイーナ様からなんとしても技術を教わりたいと考える訳だ」
「でも何でそんな手間の掛かる事を?」
効率第一主義のライナはアイーナの奇行に首をかしげるばかりである。
「あー、そうだなぁ」
「そりゃ旦那を独占したいからでしょ」
ジルが笑いながらライナの疑問に答える。
「独占?」
「そう、あのネーチャンは旦那を自分のものにしたい。だから旦那を力づくでねじ伏せて、ほら見た事か、アタシの行った通りにしなかったからこうなったんだ。アンタに必要なのはアタシなんだよ! って言いたいのさ」
「「……はぁ」」
ラズルとライナがため息を漏らす。
そんな子供のような理屈で攻めてきたと考えゲンナリしているのだ。
しかし、ジルにはその気持ちが理解できた。
(そのほうが手っ取り早いモンね。アタシなら旦那に嫌われないようにもっと上手く立ち回れるけどさ)
などと心の中で考えながらも余計な事は口にしないジルであった。
「ともかく、向こうのやり口は理解できた。ならば対策は簡単だ。次にアイーナ様達が攻めてきた時は、魔封じの部屋へおびき寄せる!」
「っ!? 正気ですかラズル様!」
ラズルの言葉にライナが血相を変える。
「ああ、俺は本気だ。このままではアイーナ様の暴走を許すばかり。ならば多少の出費を覚悟してでもアレを使うしかない」
「損切りですね。仕方ありません。請求書は大魔王城に請求させてもらいます」
「いや、それは色々と世間体がだな……」
かくして、ラズルは決死の覚悟でアイーナを迎え入れる事を決意するのだった。
◆
「今回は今まで以上に魔物の攻撃がキツイな」
後日、再びダンジョンに進入した村田達は、いつも以上に多い魔物達と戦闘を繰り返していた。
「モンスターにゴーレム系が多いですね。たぶん無駄弾を撃たせるつもりでしょう」
志野原は遭遇するモンスターの傾向から、ラズルが弾切れを狙っていると予測する。
「弾丸はいつもより多めに用意してあるし、今回は新型のショットガンも持ち込んでいる。こちらも戦力面では負けていない筈だ」
事実、村田達の戦力は増強していた。
前回の戦いで単発でしか発射できないウィザードでは速度に勝る敵に対応できない事が問題点となったからだ。
その為、ウィザードの弱点を補う為に、新型のショットガンを導入する事にした。
ショットガンの弾丸は散弾、つまり点ではなく面の攻撃になる。
そしてイリアの鱗甲を貫けるようにアイーナの手でマジックアイテムとして改造されていた(と彼らは信じている)
点の攻撃を避けるのなら、面の攻撃で逃げ場をなくせば良い、単純ではあるが、正しい戦略だった。
そして銃を魔法で強化するのは大魔王の娘であるアイーナ。魔力量、そして威力共に並みとは比ぶるべくもない存在だ。
(前回の戦いでウィザードを奪われる事は阻止した。けれどあまりにもウィザードに執着すればいずれはアレが張りぼてである事がバレてしまうわね。なら、そうなる前にダンジョンの最下層へと突撃して彼を捕獲するわ。そうしたらこの人間達は用済み。強化魔法を解除して一網打尽よ)
アイーナもまた、決戦の為の準備に手抜かりはなかった。
(私の魔力なら数人分の武器や防具に数日間補助魔法をかけ続けてもなんら問題はない。ここは一気に攻めさせてもらうわ)
火を噴いたショットガンの一撃でゴーレムが真っ二つに砕け散る。
だが命なきゴーレムは半分になった体で村田達の下へと這いずっていく。
「まともに相手をするな。足を奪ったら奥へ進め!」
村田の指示で破壊したゴーレムをそのままに志野原達が駆け出す。
「いつもならここに姫が居る筈だが……」
未探索地域へと続く通路の前に立った村田達だったが、そこに居る筈のジル達の姿がなかった。
(なんだ? 嫌な予感がする。まさか罠か!?)
背筋を走る冷たい感覚に撤退を考える村田だったが、状況は彼にその選択を許さなかった。
彼らの背後で爆発音が響く。
驚いて後ろを見れば、そこには横の通路から吹き飛ばされた一般の探索者が黒こげで倒れていた。
明らかに即死だ、
直後、探索者が光に包まれて消える。
復活アイテムの輝きだ。
そして、その死体のを見送るようにジルが姿を現す。
「どうやら別の敵と戦ってたみたいですね」
志野原が村田に指示を仰ぐ視線を送ってくる。
「隊長、これはチャンスです! 今なら奥へ行けます!」
大田の言うとおりだった。
確かにこの位置関係なら前人未踏の未探索エリアに入る事が出来る。
だが、それは逆に追い込まれたとも言えた。
(逃げ道をふさがれたか?)
ジルが村田達に気付き魔銃を構える。
「総員未探索エリアに退避ぃぃぃ!!!」
村田の命令に従い全員が通路を全力で駆けぬける。
後ろから追ってくるジルの魔法弾。
「やば! 追いつかれるぞ!」
「隊長! 階段です! 階段があります!」
「飛び込めー!!」
ダンジョンの床にぽっかりと開いた階段に村田達が飛び込んでいく。
直後、ジルの放った魔法弾がその上を飛び越え、壁にぶつかって大爆発を起こした。
「アタシの役目はこれで終わりだ。後は頑張りなよイリア」
ゆっくりと歩いてやってきたジルが、階段の上で不適に微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます