第34話 イントルーダー
「探索者が第32層に到達しました」
ライナがパソコンを操作しながらラズルの報告する。
探索者が新しいフロアに到達した時に報告するのはお互いの情報を定期的に共有する為だ。
「チームの種別は?」
「重課金タイプです。31層に国外の非合法タイプ、30層に国内組織の非課金組がそれぞれ居ます」
ラズル達は魔力波長とカメラの映像から、各探索者チームを種別に分けていた。
重課金は文字通り重課金の一般人チーム。非合法は日本国の法に違反する犯罪者や秘密行動中の軍人だ。非課金はその名のとおり、ガチャを回さない探索者のことである。
「非合法集団は動きが統制されていますので、海外の騎士団だと思われます。この階層の非課金集団はいつもの国内組織ですね。術者を増やしてボスの範囲魔法対策をして来ましたので31階まで降りてくるでしょう」
国内組織、つまり村田達のチームはダンジョン製のアイテムを必要最低限しか持たない。
ダンジョンに潜る為に絶対必要な、最初の無料ガチャで手に入れたアイテムだけだ。
彼等は自分達が持参した国産の装備で闘っている。
しかもその装備は正式採用されていない試作品ばかり。
物理攻撃が通用しない相手には同行する陰陽師が対処する。
彼等は徹底的にダンジョンのアイテムに頼ろうとはしなかった。
「頑張るねぇ」
「組織に属する探索者達もこちらの戦力を把握できるようになってきましたね。ダンジョンに潜る度に装備が強化されています」
(それは困るな。ウチのガチャアイテムを使ってもらえない事には意味が無い。何より探索者がダンジョンコアルームに到達される訳にはいかないからな)
ダンジョンコアルームはダンジョンの中心。この部屋のダンジョンコアがあるからこそ、ダンジョンは維持できるのだ。もしダンジョンコアが破壊されれば、ラズルは元の世界に強制送還されてしまう。
それは避けたい。
一応売上げの一部は安全な場所に保管してあるが、メインの金庫はあくまでこちらだ。
だからラズルは、非課金の探索者達を処分する事にした。
「非課金の彼等にはモンスターと罠の餌食になってもらおう。どうせ向こうだって殺されても文句は言えん非合法な連中だからな。こそこそ隠れて闘っているのが何よりの証拠だ」
ラズルの命令にライナも賛同する。
彼女にとって主の利益にならない存在は邪魔以外の何者でも無いからだ。
「33階は実験的にモンスターを大量発生させる特殊フロアにしてみようと思う」
「特殊フロアですか?」
「ああ、この世界ではモンスター部屋と呼ばれるものだ。フロア内に大量のモンスターを閉じ込めた大部屋を用意して、やって来た探索に一斉に襲い掛からせる部屋だ」
「それは同居させるモンスターの種類を調整する必要がありますね。これはリリルにやらせましょう。モンスターの育成を担当している彼女の方が適正を見極め易いでしょうし」
互いの領域には立ち入らない。ソレがライナの課したルールだった。
ライナとリリルは共に主の役に立つ為に生み出された存在だ。
故に、それぞれが専門とする分野に口を出すのは相手に対する侮辱であるとライナは考えている。
ただ一人、ラズルを除いて。
「分かった。じゃあモンスターの配置についてはリリルに任せよう」
「ラズル様、リリルにモンスターの配置が決まったら報告する様に言っておいてください。あの子はまだコストの事までは理解できないでしょうから」
モンスターの飼育にはお金が掛かる。
ブッちゃけて言えばエサ代だ。
やって来た探索者をエサにすれば良いだろうと思うだろうが、すべての探索者が下層までこれる訳ではない。上層部ならともかく、下層部のモンスターにはちゃんとしたエサが必要なのだ。
何処に何匹配置するか、フロア全体の配置に偏りが出ないかなどを見極めた後、更に他の階層のモンスターの数もチェックしないといけない。
探索者に倒されるモンスターも多いからだ。
教育を急ぐ訳ではないが、教えておけば全部ではなくともある程度は理解できる。
そしてそれは今後打ち合わせを行う際に役に立つとライナは考えていた。
「OK、分かった」
◆
「隊長! 後方からもモンスターが来ます!」
志野原が後方から来たモンスターを隊長の村田に報告する。
「落ち着け、お前は後方のモンスターが射程に入ったら迎撃。俺達が前方のモンスターを倒すまで敵を牽制しろ」
隊長である村田は冷静に目の前のモンスターと戦いながら志野原に指示を下す。
「了解!」
志野原は体を斜めに向けて、前方と後方の両方を同時にチェックできる様姿勢を変える。
後方から迫り来る敵が射程内に入るまでは無駄弾を撃つ訳には行かない。
だからそれまでは前方の戦いの様子もチェックし続ける必要があった。
後ろに気を取られて前方の敵の攻撃を受けては意味が無いからだ。
「喰らいやがれ!」
射程内に入ったモンスターを相手に志野原が機関銃で攻撃を行う。
志野原達の装備する機関銃は、ダンジョン内で使用する事を考え、射程を短くして弾数と威力を向上していた。
ダンジョン内は幾つモノ曲がり角や交差があるから、遠くを狙うより出会い頭に遭遇するモンスター退治をしたいのだ。
その為、射程を延長するメリットがなくなった。
その代わり一発のダメージ、もしくは面制圧力の高い銃が求められた。
特に弾数は重要だ。弾が切れたらガチャアイテムすらも無い彼等は無防備。
防具もだいぶ頑丈になったが、ダンジョンの踏破深度に対して、開発速度が圧倒的に足りていなかった。
つまりどれだけ最新型の防具を作っても、モンスターの攻撃力のほうが防御力を上回るのだ。
特に範囲攻撃が鬼門だった。
物理攻撃なら、機動隊が使う大型のラウンドシールドで何とか防げるが、それがエネルギー攻撃や熱を伴った範囲火炎攻撃だとどうしようもない。
こればかりは上からの命令で同行する事になった陰陽師が居なければどうしようもなかった。
「なんで僕達が闘いに参加したらいけないんだ!?」
その陰陽師が闘いへの参加を禁じられてイラつきの声を上げる。
「君達は切り札だからね。我々の攻撃が効かない敵が現れた時に全力で戦って欲しいんだ」
「青明様。村田様の言うとおりです。我々は我々にしか出来ない仕事をしましょう」
なおも納得のいかない青明を樟葉がたしなめる。
「……分かったよ」
(やれやれ、ちゃんと聞き分けてくれてよかったよ。この少年、見た目の幼さの割にはちゃんと考えてくれるよな)
村田はこういう時の青明を評価していた。
樟葉の説得があったものの、感情に任せて勝手に攻撃に参加しないだけ青明は分別が付くからだ。
(ヘタな大人よりも大人だよ。これも若いうちから苦労しているからかねぇ)
今正にモンスターに突撃している大田を見ながら村田はこっそりとため息を吐く。
村田が調べた所、青明の家系は由緒正しい陰陽師であった。
だが時代が科学によって切り開かれてきた現在、魔法と呼ばれた神秘の力は非効率で胡散臭い存在と呼ばれ、世界から否定されてしまった。
だからだろうか、現代の魔法使いの力は代替わりする度に弱まっていった。
(神秘に対する敬意が失われ、神秘を体現する血もまた時代の流れと共に失われていく。そんな滅びゆく力に頼らざるを得ないとは、全く因果だねぇ)
物理攻撃の効かないスライム形モンスターが表れると、青明と樟葉が前に出て魔法でモンスターを一掃する。
スライムを倒した青明がどうだ凄いだろうと胸を張る。
「ありがとうございます。お陰で助かりました」
村田は青明を適当に褒めてから戦いに戻る。
正面のモンスターを退治した村田達は、即座に志野原が足止めしていたモンスターの迎撃に取りかかるのだった。
◆
「この先ですが、非常に濃密な魔力と血の匂いを感じます」
戦闘が終わり、再び探索に戻った村田達が大きなドアを発見した時、樟葉がそう警告をしてきた。
「何がいるんだい?」
「分かりません。ですが間違いなく危険な者が居ます。ソレも無数に」
「無数に……か」
樟葉の警告に村田は短く熟考する。
「よし、この部屋は放置して別の通路へ向かおう」
◆
「カンが良いな」
ダンジョンコアルームで監視していたラズル達は、村田の決断を高く評価した。
「ですね。海外から来た工作員達は見事に引っ掛かりましたから」
「それに機関銃だ。あれは凄いな。物理攻撃が効くモンスターはあっという間に蜂の巣だ」
「せめて1つでも奪えれば、解析が行えるのですが」
「ああ、そうだな。だが下の階層に下りるには、どの道この部屋を通らないといけない。可能ならサンプルを奪わせよう」
「承知致しました」
ラズルは、モンスター部屋から離れていく村田達の姿を楽しそうに眺めていた。
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