第六夜【バケツ】


 こんな夢を見た。


 色とりどりのバケツを前に、重ねる順番を考えている。


 正しい順番があるらしい。

 自分は何度かそれに挑戦し、失敗したことを覚えている。しかしその失敗した時に重ねた順番はからきし記憶にない。


 周りには大勢の人々が自分を取り囲むようにして立っている。


「それは合っている」

「それは違っている」

「それは違っている」

「それは分からない」

「それは、」


 という周りの意見を取り入れながら、自分は何度も試し、その度に落胆をする。 何故誰も手伝ってくれないのかと憤懣やるかたなく思い、それを声に出してみても、やはり誰も手伝ってくれる様子はない。

 

 このバケツは、旅行に出ていた先からの土産物らしい。

 自分はそれを思い出すが、何故土産物がバケツなのか? と心の底から疑問に思っている。選択したのは自分ではない、という、誰かに罪を擦り付けようとする気持ちが沸き上がる。

 

 やがて、ようやく正しく積み上げられたバケツは、一列ではなく二列に積み上げるのが正解だった。

 これは盲点だったな、と思いつつ、それまでそう試さなかった自分に対して溜息を吐いた。

 もっと早くに出来ていれば――

 

 もっと早くに出来ていれば、間に合っていたかもしれない。

 玄関の鍵を閉めてしまう前に。知恵の輪のようになっている玄関鍵は、自分の苦手分野である。


 あまりのことにげんなりしていると、隣に居た友人がそれを解くことを言いだしてくれた。友人はこうした手合いのパズルが得意なのだったと、過去を振り返り思い出す。


 友人の手により難なく鍵が開きそうになったところで、初めて気付く。


 そういえば、今は、友人と挑んだ脱出ゲームの最中だったではないか。


 これまでの問題はどういったものがあっただろう。

 あと何問でゴールだろう。


 友人の得意げな笑みと共に、玄関の鍵はがちゃんと開いた。

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