彼女とカノジョとかのじょとカノ女と彼ジョとかのジョとかノじョとカのじょとカノjyoとkaのjoとカnoジョtoK∀nOj。、と彼女。
柳人人人(やなぎ・ひとみ)
前編
「おはよう、お兄ちゃんっ」
目の前に
「『おはよう』と言うには、朝食が冷めちゃった時間だけどな。幼馴染み相手だからって甘えすぎだぞ。私の彼氏ちゃんは、まったく……」
横を見ると、見下ろす
「そんなこと言わないであげてよぉ。僕くんはぁ、昨日遅くまで勉強してたんだから。それにまぁ仕方ないよぉ。だってお姉ちゃんの膝枕は夢心地のぽよぽよなんだからぁ」
上を見ると、枕が
「そうだよねー、こーしてゴロゴロしてたいよねー。一限の授業がない日はこうやってゆったーりっ……。なんなら抱き枕にしてあげるから一緒にねんねしよー」
傍には
「おはよう……………………のキス、です。……先輩」
口内に
「おはよう、みんな」
「「「「「おはようっ」」」」」
起きあがって挨拶すると、僕の
……あれ?
違和感を覚えて、指を折って数える。
「ん? どうしたの?」
「いや、今日はなんか数が少ないなって」
一、二、三、四、五……六。
やっぱり六人しかいない。
「あー、まーた一人消えちゃったんだねー。しかたないねー」
「七人を
「私たちはお兄ちゃんの精神力……つまりMPによって
「んー、なになにー? ゲームの話ー?」
そのままカノジョたちは談笑を始めてしまう。
すこし離れた位置で、壁の寄りかかりながら眺めている『
「どうしたの?」と
「いや、人数が多いとさすがに姦しくて、……可笑しいなと思っただけさ」
「だって、こんなに
興味深そうに
「おや? もしかして、また
「うん。
…
『
ネェ…...
アナタ
』
…
ことの始まりから話すとすこし長くなる。
幼稚園の年長組のころ、
そいつは目も鼻も口もなくて、真っ黒なのっぺらぼうのような変なやつだった。けど、幼かった
夜になると母親が向かいに来て、ふと振りかえると、真っ黒な友達は忽然といなくなってしまう、そんな不思議なやつだった。けど、何度も楽しく遊んだ記憶がある。なんとなくだけど、これからもずっと隣にいる存在なんだろう、とぼんやりと思っていた。
しかし、卒園するときのことだ。
一度も口を開かなかった真っ黒な友達が喋ったのだった。
「さよなら。今日で一度お別れだ。けど、大丈夫。キミが望めばボクらはまた会えるから……」
「どうして?」と言い終わるころにはもう姿は見えなくなっていた。それからというものの、真っ黒な友達と会うことができなくなった。
だけど、中学に上がるころ、真っ黒な友達のことをほとんど忘れていたはずの時期に、なぜか不意に会いたくなった。それまで何事もなく普通に生活していたのに、自分でも不思議で、まるでナニカに
あの夕暮れの砂場にも行ったが、もちろんどこにもいなかった。
幼稚園や母親、ほかのだれに話してもそんな園児はいなかったと言われた。そもそも
それでも
『イマジナリーフレンド』
心理学、精神医学における現象名であり、平たく言うと「空想の友人」のことである。
『一人っ子の家庭』
『幼少の頃』
症状が出やすい特徴は見事に一致していた。真っ黒の友達はイマジナリーフレンドだったのではないのかと思った。
友人は存在しなかったのだと、自分の中だけの存在なのだと、理解した。
この話はそれで終わり………とはいかなかった。逆に
無から霊体を生みだすというチベット密教の秘術で、日本語で『化作』……つまり『魔術的顕現』を意味する。
もっと簡単に言えば、イマジナリーフレンドの創り方そのものだった。
背丈などの姿形や目、鼻、口、耳などの造形をひとつひとつ細かく創りこむ。見た目だけではなく声質や趣味、経歴なども一緒に。頭のなかで想像するのではなく、現実世界に重ねること。それがタルパのコツだった。
友人は特徴的な姿をしていたので、創造すること自体は正直難しくなかった。
目を開けると、目前に『真っ黒な友人』がいた。
「やぁ、久しぶり」
「久しぶり、か。こっちは卒園からずっと一緒にいたんだけどね」
「そうだったんだ。ごめん。
「いいさ。こうしてお喋りできるんだ。また遊んでくれるんだろう?」
「もちろん! なにがしたい?」
「砂場で遊ぶ年でもないからな。チェスやババ抜きなんかはどうだい?」
「二人でババ抜きって……」
「……じょ、冗談だよ冗談。まさか本気で言ったと思ってないだろうね? ちょっと失礼が過ぎるぞ?」
一度は別れてしまったが、これからは二度と別れのない永遠の友人。それがたまらなく嬉しかった。これ以上に嬉しい邂逅なんてなかった。
まえはお喋りできなかったからだろうか、友人は思ったより気さくで意外にお茶目な一面も知れた。
この日から、
いつも一緒。自室のときはもちろん、登校するときも、風呂に入るときも、トイレのときも、寝るときも、起きるときも。本当にずっと一緒にいた。
ボードゲームに興じながら夜中までお喋りすることもよくあった。
「ねぇ魂ってどこにあると思う?」
会話の内容は学校生活のことから死生観まで、いろいろ。
「精神と肉体は別物のようで同じものなんだ。コインの裏表のようなもの。肉体の中に精神があって、精神の中に肉体があるのさ」
難しい言い回しで煙に巻かれることもしばしばだったけど、友人の言葉はいつもどこか哲学的で、思春期の心をくすぐった。
あれはある朝、突然のことだった。
目を覚ますと、部屋に学生服を着たうら若き女性がいたのだ。
「やぁおはよう」
さも当然のように挨拶するそれが、友人であるとすぐに気付いた。しかし、なにが起こっているのか理解が及ばなかった。
「おっいいね。アナタの驚いたその顔が見たかったんだ。まずは第一目標達成♪」
「どうしたの、その格好」
「これかい? アナタが毎日学校に通うものだからね。私も着てみたくなってね、形から入ってみたんだ」
「学校は、そんな楽しいものでもないけどね」
「そうかい? まぁそれはいいんだけど。それよりこの『私』の姿はどうだい? もしイヤなら元の姿に戻るけれど……」
友人は、セーラー服を基調とした女生徒の制服に初めて袖を通したようで、気恥ずかしそうにしていた。その姿はどこから見ても入学したての少女そのものだった。
「似合ってる……って言い方はちょっと変かな。とってもかわいいよ」
「そう、か? ……うん、そうか。気に入ってくれたなら私も嬉しいよ。じゃあ、……はいっ」
友人はこちらに向かって腕を開いて…………抱きしめられた。
突然のことに、
「え、ええっと?」
「ん、どうした? なにを今さら恥ずかしがる必要がある? いつもこうやって慰めていただろう?」
たしかに、落ちこんだり悩んだりしたときは時々こうやって慰めてもらっていた。
けど、このときの感触はいつもよりもリアルだった。布の感触や肉付きはもちろん、柑橘系のシャンプーの香りが鼻をくすぐって、鼓動が耳を撫でたほどだ。
「……あ、もしかして。昨日、テストの点数が目標より下回ったことをこっぴどく親に叱られたから。それでこんな格好を?」
「それは違うよ。いや、この格好なのは、その通りの理由なんだけど……。私が言及したかったのは叱られた原因のほう」
「原因?」
「そう、怒りの正体と言ったほうがいいかな。アレの正体はただの理不尽さ。だってあなたの親はもしテストの点数が満点だったとしても他の理由を見つけて確実に怒鳴りちらしていた。ただのストレス発散の口実さ」
「そう、なのかな」
「……無理に信じなくていい。この世には受け入れがたいこともたくさんあるから。けどね。あなたがあんなに勤勉に努力して頑張っていたことを私は知っているから。ううん、私しか知らないから。だれも認めてくれないから。だから、こうするのは私の役目」
そう言って、やさしく何度も頭を撫でてくれた。友人の指先はほんのりと人肌で、とてもあたたかった。
「……あ、そうそう。話はまだ終わってない。というより、これからが本題だ」
「ぅん?」
「私は言うまでもなくイマジナリーフレンドだ。だから、ソレをやめたい。あ、勘違いしてほしくないんだが、イマジナリーフレンドを止めるのは、あなたと次の関係に進みたいからだ」
「次の、関係?」
「つまりな、私はあなたの本当の
「本当の友人になるって、なにをするつもりなの?」
「ふふっ。まぁ見ててよ。そう、見せてあげるさ。私があなたの本当の友人である証明を。次のテストでね」
友人はなにをするつもりだろう。そもそも空想の存在になにができるのだろう。
そう思いながら、一ヶ月後のテストの日がやってきた。
テストが始まると、友人は隣に立って「私の言う通りに解答欄を埋めて」と言った。そして、テストの答えを順に言っていった。驚くことに
もっと驚くべきは、テスト返却日。
僕のテスト用紙は全教科百点を高々と飾った。
周りからはカンニングを疑われたが証拠は出てこなかった。だって、
「ふふっ。見たか、あいつらの顔? なかなか乙なものだったな。………それで忘れていないだろうな?」
「んと、なにが?」
「なにが、ではない。テスト前に約束したではないか。もし本当の友人であることを証明できたら、と!」
イマジナリーフレンドの宿主の能力に依存する。宿主の能力を越えることができない。でも、もしそれを越えられたら、
そして、友人はテスト前にこう付け足していたのだった。
『もし私があなたの本当の友人だと証明できたら、ひとつ我儘を聞いてほしい』と、そう言っていた。
「うん。ちゃんと覚えてるよ。
本当はこんな回りくどいことせずとも、友人の頼みなら断らない。もちろん
「空想の友人から本当の関係になったのだから……えっと、その」
友人は口ごもる。いつもの自信ありげに難解なことを言う友人とは違った。
「つまり、友人ではなく、あなたの
しかも、赤面する友人がかわいらしくて、思わず笑ってしまった。友人は
答えは最初から決まっていたから。
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