其の五 【ウミツケル】
いらっしゃい。
よくこの店にたどりついたね。
まあ、そこに座ってよくお聞きよ。
ここにたくさん、卵があるだろう?
いったいいくつあると思うね。
てんでバラバラに規則性もなく置いてあるから、数えても、頭がこんがらがってしまうよ。
答えは百八つ。
この卵がいつ生まれたかというのは、もう聡明なアンタにはわかるだろう。
そう、この卵は今年の元旦に産み付けられたものさ。
大晦日じゃあないのか、だって?
何故、毎年のように、除夜の鐘は鳴るのかね。
煩悩を祓い、心のけがれを洗い流し、新年を迎える。
それなのに、毎年同じように除夜の鐘は鳴らされるだろう?
それは、すでに穢れた卵がすぐに産み付けられるからさ。
除夜の鐘が鳴る頃に漆黒の闇に目をこらしてごらんよ。
うごめく蟲が空を跋扈しているからね。
そいつは祓われた穢れが好物でね。除夜の鐘と共に解き放たれた穢れを食い尽くす。
それだけなら、どんなにこの世は、綺麗になるだろうね。
しかし、食い尽くされた穢れは蟲の中で、さらに違う形で生まれてくるのさ。
人であるかぎりは、穢れというものは付いてまわる。
縁(えにし)がある限り、人と言うものは、目、耳、鼻、舌、身、意で物を感じ取る。
好き、普通、嫌い。感じ方にもいろいろあるが、意と嫌いが相まってしまうと、そこには闇がしのびより、目に見えぬ物が見えてくる。
今、アンタに、アタシが見えるようにね。
産み付けられた卵が百八つになった時に、丁度闇がしのびより、アンタをこの世界に誘ったのかもしれないね。
人だもの。
煩悩があって当たり前だろう。
さあ、一つ手にとってみないかね?
アンタの願いをかなえてあげるよ。
御代はいらないよ。
ただし、タダではないけどね?
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