ラノベ好きおじさんができるまで

@kuronekoya

邂逅編〜本籍地はSF(ちょっとだけ付け足しあり)

 小学校5年生か6年生の時だったと記憶しています。

 国語の教科書に遠藤周作の「赤い風船」という短編があって、父がこれも面白いぞ、と本棚から取り出してくれたのが遠藤周作の狐狸庵先生シリーズのエッセイでした。


 たぶんカクヨムユーザーのみなさんのほとんどは、遠藤周作の名前は知っていても(『沈黙』とか読書感想文で読まされたかもしれないね)「狐狸庵先生」ってのは聞いたことがないんじゃないかと思います。

 遠藤周作「狐狸庵先生」、北杜夫「どくとるマンボウ」、畑正憲「ムツゴロウ」…あの頃、小説家がくだけたエッセイを書くのによくそんな雅号(?)を使ったりしていたのです。


 父の思惑がどこにあったか知らなけれど、着々と自分は遠藤周作の軽妙なエッセイにハマり、どくとるマンボウシリーズにもハマり…。

 北杜夫の『船乗りクプクプの冒険』『怪盗ジバコ』、遠藤周作の『オバカさん』…そんなユーモア小説にも。


 ユーモア小説だけではなく、『沈黙』『白い人黄色い人』、『楡家の人びと』とか、なけなしの小学生のお小遣いで文庫を買って(ろくに理解もできないまま)読んだりしていた、マセたガキに育っていったのです。


 駄菓子菓子!


 北杜夫の対談で星新一を知りました。

 ここまでは父も想定内だったでしょう。

 しかし、昭和後期のあの頃、日本SF界はカオスでした。

 今の時代ならきっとラノベ作家になったであろう人材が、ミステリ界よりもSF界に集結していたのです。

 あ、ミステリも読んでいたはずですよ、翻訳ものが多かった気はするけれど。


 小松左京や筒井康隆といった大御所ですらけっこうくだけたのを書いてましたし(筒井康隆は『文学部只野教授』から作風変わりましたよね)、神林長平、平井和正、かんべむさし、山田正紀、豊田有恒、横田順彌、火浦功、高千穂遙…


 広瀬正、安部公房(SF作家と呼ぶべきではないかもしれませんが、『第四間氷期』はSFっぽかった)、光瀬龍、矢野徹…このあたりの人たちはちゃんとしたSFしか書いてませんが、ほかのメンツはメチャクチャだった。

 あと、他にも今すぐ名前が出てこない人も、けっこういろいろ読んでいたはず。


 学級委員長だった友人に「何か面白いのある?」と訊かれて筒井康隆の『農協月へ行く』が面白かったと答えたら、次の週に「親に買ってもらった」と笑顔で言われた時は、「委員長のお父さん、お母さん、ゴメンナサイ」と心の中で五体投地したのは黒歴史と言うにはぬるめでしょうか?


 とにかく彼らのライトな作品群、「ハチャハチャSF」と呼ばれていました、っていうか身内(SF作家たち)でそう呼んでいたそうです。

 21世紀の今となっては恥ずかしいネーミングですね。

 誰かが「ハチャメチャ」と言おうとして噛んで「ハチャハチャ」と言ったのが定着したらしいです。

 どこかで読んだ。


 今のライトノベルの萌芽というか卵のような作品群ですが、そこにはテンプレじゃなくてセンスオブワンダー(by水玉螢之丞)がありました。

 ホント、バカみたいにバカバカしいSFで大笑いしたり、クスクスわらったりしていたあの頃。

 同時に同じ作家の本格SFにグッときたり。


 今となっては失礼ながらオワコン化したり、本格SFでない作品でいまだ固定ファンを掴んでいらっしゃる方もいたりしますが、本格SFとハチャハチャSFを書く二面性、それが当時の若手SF作家のスタンダードだったと思います。


 うん、「センスオブワンダー」

 これが昨今のSFテイストのラノベには足りない。

 あの頃のSFには、カンブリア紀の大爆発みたいにハードSFからハチャハチャSFまで雑多な多様性があったけれど、その底流にはセンスオブワンダーがあったと思います。


 特に山田正紀さんの「かまどの火」って短篇はハードSFに分類されるのでしょうけれど、たぶん今読んでもゾクゾクしちゃいますね。

 何年か前にふと思い出して読み返した時は、やっぱりすごい! って思いましたし。

 キーワードは「饕餮」。

(タイトルも著者名も思い出せなくて、心当たりの本を片っ端から引っ張り出して開いて見つけて読んだ時の感動と言ったら!)


 ついでに、スペースコロニーに隕石がぶつかりそうなんだけれど、その情報が信用に足るものではなくて艦長(って呼んでいいのだったかな?)がコロニーを軌道から動かす決断を迫られる短篇、タイトルも思い出せないけれど、これも山田正紀さんだったかそれとも豊田有恒さんだったか? NHKFMでラジオドラマになったのは覚えてるんですけど。


 NHKFMといえば、「ふたりの部屋」って15分くらいのラジオドラマの番組があって(たぶん上記の作品もそれ)、それで椎名誠さんの「サラバ国分寺書店のオババ」をやって、それで椎名誠さんにハマって(とは言っても当時はまだ3作目のエッセイ集までしか出てなかったけれど)、中学生の分際で作文や読書感想文を昭和軽薄体(当時椎名さんの文章はそう呼ばれていた)で書いて先生に苦笑されていたのも黒歴史と言うにはぬる過ぎですか?


 そんなわけで、小学校低学年〜中学年の頃、怪人二十面相やシャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパン、ハーディ・ボーイズ、ナンシー・ドルー、あと子供向けのサイエンス系ノンフィクション(アポロ13号の話とか)が好きで(SFは学校にも市の図書館にも翻訳ものが少しだけしかなかった)、でもそろそろ学校の図書室にあるのは読み尽くしたし、っていう頃の自分の読書体験と言うか、原風景が一変するエポックメイキングな出来事が遠藤周作との出会いでした。


(たぶん)次に書く(つもりの)中二病期っていうか、小6から中学卒業までの期間、漫画も読まずに主にSF、時々ミステリ、まれにブンガクを読んでいた自分の読書遍歴を語るなら、こんな出会いは別として「本籍地はSF」と断言できると思うのです。


 きっと父の願いの斜め上。

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