第2話 ギフト ①
一面に咲き誇る豊かな色彩。
麗らかな4月の野原を見下ろす少年の双眸には、赤や緑や青、黄色や桃色や麗白の花々が暖かな陽光を受けて鮮やかに輝いていた。
香りの満ちる楽園にのびのびと戯れる蜂や蝶々。頭花にふわりと留まって蜜を楽しみ、花粉と共に飛び立つときには小さく花びらを揺らす。
まるで春を喜ぶようにゆらゆらと踊る世界を少年は眺め続けた。その表情にあるのは慈しみのようでもあり、憧憬のようでもあり、そしてまた……哀しみのようにも。
「そろそろ行くぞ」
少年の後ろに浮かぶ男が、ひとときの安寧に終わりを告げる。低く、少し割れた声。だがそこに冷たさは不思議と感じられなかった。
「……はい」
短い返事と一緒に振り向いた少年の顔には太陽のような微笑みだけがあった。それを見て男は一つ頷く。
千切れ雲の流れる蒼穹のなかを、二人は遠く東へと翔けだした。
燕より速く
そこに在るのはあの野原と同じ地上とは思い難い景色。
天へと競うように屹立するビル群。
その足元を所狭しと埋め尽くす様々な建物。
それらを蛇のように横断、あるいは縦断する高架鉄道。
そして僅かな隙間すら許さないとばかりに多種多様の車が蠢いていた。
だが、この光景を築き上げた主であるはずの人間達は、街という巨大な生き物の胃袋に呑み込まれてしまったかのように見え隠れして頼りない。
少年は足の下からゆっくりと視線を伸ばし、全てがただ鼠色に潰されていく地平線まで瞳を届かせた。覆い被さるように立ち込める淀んだ空気が、春先の都会を砂漠の蜃気楼に錯覚させてしまう。
「こんな場所に……その人が?」
彼の質問に男は顎を引き、「こっちだ」と言って高度を下げながら導いた。
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