第3話 銀髪ツインテールメイド その二
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2月17日日曜日、本日もアパートの自室にて絶賛引き籠り中。
あたし、武内日真理たけうち ひまりは闘っている。この世の中の法則と。
あたしの闘いは曜日を問わず行われる。物資が尽きない限りは、日曜だろうが、平日だろうがあたしはこの部屋から出る気はなかった。
ところで、実は今あたしは大きな問題を抱えていたりする。
あたしはベッドの方に視線を移す。
そこには銀髪美少女が横たわっていた。
「可愛い……」
思わず溜息が漏れる。要はそれくらい可愛いのだ。
しかし勢いに任せて無計画に連れこんでしまったのはまずかった気がする。
こんなの、唯さんに何と言えばいいのか?
ちなみに唯さんはあたしの義理の母親だ。唯さんはあたしが小さい時に死んだいんらんの母に代わって、アル中の親父の元にお嫁に来てくれたもの好きな女性だ。
あたしは眠っている少女の銀髪に触れてみる。拭いてあげたとはいえまだ少し濡れてはいたけれど、あたしのごわごわの黒髪ポニーテールとはえらい違いの触り心地だった。どんなコンディショナーを使えばこんなにサラサラになるのか是非とも聞いてみたいところだ。
髪の色もさることながら、この子の目鼻立ちはどう考えても日本人には見えない。
目の色がまだ分からないからなんとも言えないけど、恐らくハーフなのだろうとあたしは思った。
それにしても、そもそもどうしてこの子は道端で寝ていたんだろうか? しかも裸で。もしあたしが連れてこなかったら今頃大問題だったろう。
あ、でも連れてきたはいいけどこの子日本語喋れないなんてことはないよね? 彼女がバリバリの英語で話しかけてきたら手に負えない。その場合、あたしは彼女を捨ててあった場所に還して来なければならないことになる。
「いや、そんなことより……」
そもそもなんであたしは女の子を連れこんでしまったんだろうか? あの時はそれが正しい選択なような気がしていたのだけど、普段のあたしなら、いくら可愛くたってそんな真似はしないはずなのに……
「ねえ、聞いてるの?」
「うわ!?」
誰かの手の感触で、あたしはようやく呼ばれていたことに気が付いた。
なんと、銀髪美少女が目覚めていたのだ。
彼女は何もかけず、生まれたままの姿であたしのことを見つめていた。
中学生のあたしでは見たこともないくらいの大きな胸。あたしは思わず生唾を飲んだ。
「た、頼むから前を隠して」
あたしが目を逸らしながら言うと。
「きゃああ」とわざとらしく彼女は言って布団を身体にかけた。
彼女はなぜか笑っていた。この状況で自身が素っ裸なのに笑っているなんて、まったくもって意味不明だった。
あたしは改めて目覚めたばかりの美少女の顔を見つめてみる。少しタレ気味な青い瞳の目はやはり外国人にしか見えなかった。だが今この子は明らかに日本語を喋っている。ということは、やはり彼女はハーフなのだろうか。
「ねえ、ここはどこ?」
顔と同じく実に可愛らしい声だった。
「ここはあたし、武内日真理の部屋」
あたしは自身を指さしながらそう言った。
「ひまり?」
「そう。それがあたしの名前。あんたは何て言うの?」
「真壁・シャロット・グレンフェル! それがぼくの名前!」
「ぼ、ぼく……? それに真壁ってことは、やっぱりハーフ?」
「ぼくはぼく。あとは知らない。ごめんなさい」
シャロは相変わらずの笑顔のまま頭を下げた。
「それって冗談? それともマジで記憶喪失?」
あたしは訝しがりながら尋ねる。
「マジで記憶喪失。ごめんなさい」
やはり、シャロは笑顔で謝る。
あたしは気を取り直して言う。
「ま、まあいいや。とりあえずシャロって呼ぶけどいい?」
「いいよ!」
元気でよろしいけど少し煩かった。
「ねえシャロ、あんたこんな状況でも驚かないの?」
「なにが?」
「なにがって……。だってあんた今裸だし、あたしとは初対面だし」
あたしがそう言うと、シャロはゆっくりと辺りを見渡し、そして……
「うーん、確かに変だ……」
と、言って首を捻った。
「あんたは地面に素っ裸で寝てたんだよ。寒そうだったからあたしが助けてあげたわけ」
半分は嘘だけど半分は本当だから問題ない。
「そうだったんだ! ありがとう!」
「そんなに目をキラキラさせてお礼を言わなくてもいいって」
「そうなの? でもなんでだろう。どうしてぼくは外で寝てたりしたのかな?」
シャロは顎に手を当てて、うーむと考え込む。
「外にいたってことは、それが人生で初めてのお外だった訳か」
「初めて……? なにそれ? どういうこと?」
「なんでだっけ? 忘れちゃった。でも覚えていることは、ぼくは今まで外に出たことがなかったということ」
シャロは笑顔でサラッととんでもないことを言ってのけた。
「それって、もしかして、マジでヤバい感じの話?」
あたしは恐る恐る尋ねる。
「分かんない。いいよ。覚えてないってことはあんまり大事なことじゃないと思うから」
あたしの心配をよそに、シャロはあっさりそう言った。
「それにしても寒いね。ねえ日真理、ぼくはおっぱいを露出させたままこの部屋にいればいいの?」
「あ、ごめん」
シャロが素っ裸だったことをすっかり失念していた。暖房を付けているとはいっても流石に冬に裸は寒いだろう。特にこの子は胸以外脂肪がなさそうだから余計に骨身に浸みるに違いない。
ちなみに、あたしは最近お腹周りがヤバいことはここだけの内緒だ。
あたしはクローゼットを開けてみる。
「うっ……」
クローゼットには、まともな服がほとんどなかった。
アニメの学校に出てくる制服数着、ナース服、スクール水着、プラグスーツ、ボンテージ、巫女服、そして自慢のメイド服。
あたしがクローゼットを眺めていると、布団をマントの様に被ったシャロが隣にやって来て中を覗き込み始めた。
「うわぁ、変わった服がいっぱいあるねえ。これが日真理の私服なの?」
「んなわけないでしょ。これは私の趣味」
そう、あたしの趣味は実はコスプレなのだ。コスプレは素晴らしい。コスプレは世界を救う。……いやある意味壊す。そしてこの世界を縛る法則をブチ壊す。
だからあたしはコスプレする。アニメキャラの服を着れば、あたしはこの世界から離れて、アニメの世界にのめり込むことができた。
そこであたしは考えた。
サイズは若干違うけど、自分の服を着せてしまえば問題は解決する。だが、なぜかあたしはそれは勿体無いと思った。
これだけ素材が良くて、本当にアニメの中にいてもおかしくないような子には、やはりあたしの趣味の服を着せたかったのだ。
ではこの子に似合う服はなんだろうか?
あたしは一瞬考えたが、
「これだ」
すぐにメイド服を手に取った。
「なあにこれ?」
「メイド服」
「メイドってアニメに出てくる様なの?」
どうやらアニメは知っているらしい。
「そう。あんた可愛いからこれ凄く似合うと思うのよ。ちょっと着てみてくれる?」
そう言ってメイド服を手渡す。布団を抑えていた手が離れて、裸体が露わになる。童顔なのに、信じられないくらいの胸の大きさに思わず興奮したが、あたしはできるだけそれを顔に出さないように努めた。
シャロは興味深そうにメイド服を眺めまわしている。そしてやがて、「着る!」と言った。
あたしはシャロにメイド服を着させてやる。
白色の清楚な下着、フリルのついたアンダースカート、そして丈の短い黒の半袖のワンピースとやっぱりフリルのついた白いエプロンのエプロンドレス。ちなみにサイズはどれも合っていないがこの際諦めることにする。
ドレスの肩からストラップを回し、ウエストで締めてやる。
黒のニーハイ。絶対領域は完璧。
手首にはカフス。可愛らしさの中に大人な雰囲気を。
胸元には蝶ネクタイ。鮮やかな赤をワンポイントに。
そして仕上げにレースのカチューシャを頭に載せる。
最後は髪型。このままでも充分可愛いが、この可愛さを最大限に引き出すのがあたしの仕事だ。
イメージが瞬間的に頭に浮かぶ。あたしはこれしかないと思った。
あたしはシャロの肩よりも長い髪を左右の束にする。ポケットからゴムを取り出し、二つの束を縛る。
「完成!」
こうして、麗しい銀髪ツインテールメイドが誕生した。
「うわああ!」
自分の姿を姿見で見たシャロは喜色満面だった。
我ながら完璧な仕上がりだった。
胸元が異様に膨らみ、ショーツが見えそうなほどにギリギリの長さのワンピース、そしてニーハイが堪らなくエロい。
正直目のやり場に困った。だがシャロは嬉しさのあまりぴょんぴょん飛び跳ねるものだから裾がめくれて余裕で中身が見えてしまっていた。
「家族が起きるから静かに」
あたしはシーと口元で人差し指を立てた。
「シー」
シャロは嬉しそうに同じことをする。意味が分かっているのかは甚だ疑問だった。
しかし着せたはいいが、さすがにこれで一日過ごさせるのは難儀なことだ。だからあたしは「やっぱり普通の服がいい?」と尋ねた。だけど、
「ぼくはこれがいい。これが気に入った!」
とシャロは言い、与えたメイド服を掴んで放そうとはしなかった。
そして彼女は笑顔で、
「お帰りなさいませ、ご主人様」
と言った。
変な子だけど、激烈に可愛いのだけは間違いなかった。
かくして、なぜかあたしと銀髪ツインテールメイドのシャロとの生活が始まってしまった。
しかし、その時あたしはまだ知る由もなかった。
この子が、
――あたしの人生を大きく変える存在となることを。
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