第17話 “Hey, バディー”
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ハイパー体そう着 の つかいかた
これはボクみたいな天才がきみみたいなアホのために、わざわざキチョーな時間をつかってつくりあげた大ケッ作。せいぜーカンシャして、使ってよね。
・しゅん間キン力パワーアップ
むねのとこにあるへんなシンボルマークみたいのをにぎって、2回振る。と超スゴイパワーがでるようになる。ほんとうはそのしくみを教えてやりたいけど、りかいできないだろうからやめておいてやるよ!
・Eternal Stamina
これはチョーすごいよ。便利。
・Diamond Protect
もっとすごい。
習うよりエロってよくいうだろ。ボクにおそわるより、いろいろためしなよ。
そんじゃーね。せいぜー、がんばりなよ。
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以上が、短パンの中に入っていたメモの全文でした。はい。
なにこいつ感じワル。マヂムカプチころなんですけど。
削っていない鉛筆でも使っているのか、書体が太すぎる。そして筆圧強すぎる。紙の表面削れてるぞこれ。おまけに漢字苦手><系のにおいがヤバい、プンプンする。そのせいか中途半端にある漢字のせいで読みにくくて仕方ない。そして何故、基本的に上から目線なのか。何故途中で飽きてしまっているのか。習うより慣れろじゃなくて習うよりエロってなに、詳細はよ。
赤ペン持って顔真っ赤にしながら超長文のコメントをつづっていきたいところだったが……、結局のところが、意味わからん。なんだよ、ハイパー体操着って。
などと思考していたら、突然、白峰に肩を揺さぶられた。ななななになに。愛の告白? 答えはもちろんイエ――あっぶ、怖いわ、中性的な男子ってマジ怖いわ。ちょっとした拍子に一線越えてしまったらどうすんだ。まったく。
だが、現実は全く違った。白峰が教えてくれた限りでは、あの神林
理由は1組だから、と言われたら納得してしまいそうだ。とんだクレイジー集団として金輪際関わり合いになりたくないものですね。
ってか、握力ごときで真剣勝負とか。ぷふー、なんでも『真剣』をつければいいってもんじゃないんだよ? 真剣交際とか一緒だよ。あれ一種の高等ギャグだからね?
やばい、ちょっと面白いわ。笑いそう。
しかし、俺も精神年齢はいい歳。鉄のごとき
「いけるか?」
誰に言ってんだ? と思う。主語がないんだよ主語が。まったく。事実そう尋ね返した。……それにしてもよかった。怒っているわけではないらしい。
胸をなで下ろす間もなく、突如クラスメイトたちは俺の背中を押し始める。ちょちょなになに俺なんかした!? うろたえるまま最前線送りにされた俺は、そこで待ち構えていた神林と対峙するはめになった。
なんか色々と語り出してたけど、興味ゼロで聞いてたせいで中途半端にしかワードを拾えなかったわ。目覚めてない、謝ろうとかとか、まぁでも要するにこういうことだろう。
「謝るわ。さっきのは半分寝てた」
うんうん、俺にも覚えがあるぞ。
られっこ(イジられっこのこと)100ある特技の一つ、「ごめん、寝てた」だ。これはあたかも寝ているかのようにありとあらゆる感情を
たとえ俺が半径2メートル以内にいるのに悪口叩かれたとしても、机に突っ伏して寝ているのだから効かない、無敵。それに、寝てるなら別に気にしなくていっかと周囲にとっても非常に負担がかからない、エコ、地球に優しい。欠点はふと一人になった時に顔が涙でグシャグシャになってしまうことかな。
とにかく、「ごめん、寝てた」まで用いるとは、よーっぽど悔しかったのね。このメガネ。
だからといって俺が、いつでも再戦を受け付ける! とでも言ってくれる正統派イケメンと思わないことだな。勝ち逃げこそ、至強よ。
俺が黙したままいると、神林は奇声を上げて握力を計り始めた。しかも握力計を壊していた。やばいバグってるというか、こいつ、ガイチキなのでは説が俺の中で濃厚になってきた。
早い所逃げたいが、にわかに後ろが騒がしかった。どうやらうちのクラスメイトが今の神林のアレな行動に腰を抜かしたらしい。いや同感だよ、普通に怖いよ俺も。
しかし計測を終えないことには、逃げられないのもまた事実。よしそそくさと終わらせて隅っこにいよう。なるべく狂人メガネから距離を取ろう。そうと決まればやるぞ、あっ、
「待てよ」
つい声が出てしまって恥ずかしくなる。そうだそうだ、俺が知らず着用中である例のハイパー体操着とやらの機能を試してみよう。うっかり忘れてたわ。2パーセントくらいしか信じてないが、物は試しだ。
さっきのクソ腹たつ説明文だと、確か胸元の校章を2か――大丈夫だよね、いきなりドカーンとかないよね。ちょっと落ち着こう深呼吸してからやろう。よ、よしいくぞ。
ギュッと握って、もっかいギュッと握って、フリフ
瞬間、
――冬場にドアノブに触れてバチッとくる静電気と低周波マッサージのピリピリ感をうまいこと掛け合わせたかのようなショックが全身に走る。あびゃびゃばだだだだだいじょぶかここここここれれれれれ。
絶対に身体に悪影響があるとしか思えない電流に俺はたまらず、握力計を拾い上げて半分以上キレ気味に握る。絶対、あの説明文書いたヤツ後でプチコロス。俺の全霊力を込めてわら人形に五寸釘を打ち込んでやる。
おかげで、お決まりの「俺のこの手が光って――」を言うの忘れたわ。というか、気づけば電流もやんでるし、というかなんだろう、この静寂は……、
……俺が、時を止めた……?
9秒の時点でな、などとボケている場合じゃなかった。皆の視線を独り占めていた。そして、俺はもう何度目かのイヤな予感がして、ゆっくりと握力計を見やる。もうね、なんだろうね、握っている感触からしてやっちゃった感が振り切ってるよね。こんなカスカスって動くはずないもんね。
――999.9kg
なにこの理論上の最大ダメージみたいなの。これならラスボスも一発だぜみたいな数字は。FFじゃないんだからさー。
完全に壊れてますねこれ。
誰だぁ〜、こんなことをしたヤツは、先生怒らないから出てこい。
ふふ、この台詞の後はいつも濡れ衣を着せられたなぁ。身に覚えのない女子の体操着とかなんで俺の机の中にワープしてくるのかな、物理の天才に解いてもらいたいなー。
……、
…………うん、これ、ミーのせい?
違うよね、ハイパー体操着だぞ? そんなクソダサネーミングの体操着がこんな人体の限界を超えるような能力を発揮させるはずないじゃーん。大丈夫、絶対に大丈夫。これはアレ。アレな。そうアレよ。うんうん、アレ。だからアレしといてね。
ま、まぁ、アレは置いとくとして、
この手に収まる壊れた握力計だよ。こっちが大問題。
やばいな、数字は壊れたからしょうがないとはいえ。表面にヒビ入っちゃってるし、握るとこはカッスカスだしでもう使えそうにない。大丈夫か、弁償とかにならないか。
し、視線を感じる。わ、わしを見るなお前ら! は、払わんぞ、保険でどうにかしなさい! まったく部屋に戻らせてもらう。今日はもう誰も訪ねてくるなよ! じゃ、グッバイならー。
しかし、サイドから尋常じゃない勢いで駆け上がってきた白峰氏にそれを奪われる。頼れるウィングかよ。このエゴイストさんめ。ったく、俺に逃げる隙を与えんとはこいつでき――嘘です。見逃してください。ゴメンナサイでしたーっ!
いくらでも浮かんでくる弁解の言葉を並べ、勢いとテンションでこの場を切り抜けようと意を決した時、
神林が狙撃でもされたかのように後ずさりし膝をついた。なになにどしたの。赤いレーザーポイントなんてなかったはずだが、かつて歴戦のスナイパーであった頃の血が騒ぎ、みんな伏せろと騒ごうとして、
騒がしくなったのは周囲の
急に俺を取り囲むなり、「結構いい身体してんねー」的なニュアンスの言葉をふりかけてくる。貴様らこの短時間で一体、何に目覚めたんだ。
鳥肌が全身を駆けずり回ると、生形が急におかしくなってしまった(
説得力ゼロではあったが、そのまま皆も計測を続けるような流れに持って行くのはさすがだとは思うけどもね。いやはや総斎は恐ろしいところだ……。
ただでもね、みんなが計り始めたのを見ていて、気づいてしまいました。
……いやあのう、そういえばワタクシ、右手一本しかやっておりませぬが。
ただドンマイとその言葉だけが欲しくて、白峰に訴えると、反応は背後から降りかかってきた。
「まったく、今年は2台もぶっこわしてくれるとはYO」
やにわにパーティー、いやパーリィの香りがただよったかと思えば、ノリオだった。グラサンを額に引っかけ、表に出てきた意外とつぶらな瞳が俺をとらえ、
「さすがにもう一台も同じようにおしゃかにされたらマジ困るから、ニューカマー真条、ユーは利き手、フィッチどっち?」
どんな聞き方だと思いつつも、答えておく。
「右っす」
「じゃ左は、他のメンたちの利き手ともう片方の手の握力差と同じくらいの補正かけとくから。ユー次やってていいYO。これ教師命令だから」
伝わってくる。これ以上壊されたらたまらんという念が。すまぬとしか言えんわ。
だが、許してもらえるのならばそんなの些末ごとだ。気にしない。お互い大人なんだから、水に流そうやウィー。俺の友好的ビームが届いたのか。
「真条、ひとつ聞くYO。ユーは缶コーヒー飲んだらどうする?」
「手で潰してからくずかごへ!」
リサイクル大事ね真条くんとよく現場監督に言われたもんだ。おじさんも君も宇宙船地球号の乗組員なんだからなと言われた時はどんな顔すればいいかわからなかったけど。
グッと親指立ててから、ノリオはもう一角を指さす。えーと次は、上体起こし、か。いやダメじゃん。足押さえてもらわないといけないから結局誰か必要だろ。ノリオしっかりしろ。先生がペアになってやるからはもう嫌だ。しかし、
「2人でファイトだYO」
は? 2人って誰とだよ。も、もぉ〜しょうがないなぁ〜、ぺ、ペアになってやろうじゃん? へい、僕のバディはどこ、と振り返ると。
完全に涙と鼻水で顔面大洪水状態、おまけに小さい子が泣き喚いた後に特有の「えふっえふっ」とたいそう気持ちが悪く息をするメガネ――をはずした神林がいた。
白峰氏たちのいるわーきゃー賑やかなあの輪の中に入りたい。ルールールールーと物悲しい歌と一緒に床にのの字でも書いてやろうか。どうだ、構ってやりたくなったろう。放っておけないだろう。うん、
泣きたいのはこっちもだった。
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