俺の取り柄は顔しかない。~キモオタが美形に転生したら、ハーレムハッピーエンドを目指せるか~
友野佑紀
第一章:”アダムスプログラム”
第1話 “生まれ変わったらなりたい”
特売たまごLサイズ68円(お一人様1パック限り)はあまりにも安かった。
だから、愛する妹二人とわざわざ隣町にあるスーパー
「ろ、ろくでなし。お姉の番」
「し? うーん、えと、し、し,しめじ!! 次、お兄ちゃんだよ」
「しめじかー、うーん、じゃジギタリス」
「な、何それ?」
耳慣れない単語に困惑している様子の上の妹、真条
「薬草なんだ。薬の原料とかになるんだよ」
「そうなんだぁ。お兄ちゃん、凄い物知りだね」
「す、す、すれいぶ」
「おっ、凄いな
「お兄、わたしはひみつの多い女だ」
下の妹、真条
「ぶ? ぶ、ぶんぶく茶釜……」
「
「ま、まり……? って、あーっ!!」
「んがついた。お兄の負け」
妹たちに同時に指を差され、俺はふっ、降参だとばかりに両手を持ち上げる。大人げない語彙力を発揮しまくっていたが、やれやれ、妹たちに華を持たせてやるのがこんなに難しいとは。いや全然まったくバリバリマジぽようっかりとかじゃないから。断じて。
「二人とも少しは手加減してくれよー。兄ちゃん、しりとり弱いんだから」
おどけてみせれば、屈託のない笑い声が響き渡る。それにつられるように俺もまた自然と笑みがこぼれた。
他愛もない。家族のやりとり。絵に描いたような平和がそこにあった。
そう、――その時までは。
うわぁ、今日は夕焼けがきれいだねーと茉菜花が歓声を上げる。
つられて街を赤く染め上げる夕日に目を細めた矢先、辺り一帯の平穏を引き裂くような騒音と共にそれが現れた。
急に雲が太陽をさえぎったように、周囲が暗くなる。見上げれば黒い巨大なヘリがつい数メートル下の川べりへと着陸してきた。
巻き上げられる強烈な風と凄まじい音に、おびえた顔を向けてくる妹たちを背後へとかばい、俺もまた持ってかれそうになるスーパーのビニール袋の中の卵を死守するべく必死だった。いやいや割れる割れるて!!
やがてヘリのローターは徐々に速度を緩め、完全停止するに至り、
気づけば、俺はヘリから降りてきた黒服にサングラスという出で立ちの集団に取り囲まれていた。
な、なにこれ、なんの冗談?
エージェントの皆さん大集合みたいになってますけど。皆さん、お顔が恐いんですけど。
たちの悪すぎる海外のドッキリの様な事態についていけず、ただ安心させるように妹達の肩を抱きかかえていると、突如、黒服は整然とした動作で道をあけた。髪をなびかせながらヘリから出てきたその人物を迎え入れるように。
お仲間の例外に漏れず、黒のスーツとサングラスに身を包んだその人は、女性だった。それでいて肌質とか察するに俺と歳はそう変わらないように思える。
「――
問いかけというより、一応の確認を取るためといった調子で、俺の名が口にされる。
いやあの、どこから漏れましたか個人情報。またどこぞの大企業様がハッカー集団に攻撃されてお漏らししちゃったんでしょ。だったら詫びの品としてギフトカードもらわなきゃ割に合わないんですけど。そしたらそれで茉菜花と巡に何かを買って、
「? おっかしーですねぇ……?」
つい現実逃避をしていたせいで頷くことを忘れていたら、彼女はサングラスを取り、手に持ったスマホを俺に向ける。
シャッター音。
すぐに画面と俺を見比べ、
「はいはいはい。照合率99.999パー。本人確認終了っと」
ちょアナタ、撮影許可だしてないから、これダイレクト盗撮ではと思っていると、彼女は名刺サイズのカードを二枚渡してきた。なにこれ
違った。そこには、こう書かれてある。
内閣府 国家特別保全対策局
アダムスプログラム推進課
異性交遊特別支援担当
まさしく名刺。そして、もう一枚は金属製のカードで、
さながら超高級クレジットカードのような質感だが、裏側には学生証と全く同じ俺の証明写真と氏名が記載されている。ど、どこで手に入れたのこれ。つか、なんでこの写真なんだよ。これ寝不足んときの顔だぞ。
疑問符しか浮かばない。いや、ハイこれと渡されてつい受け取ったけども。
ライセンスって、つまり許可証ってことのはずだが、その前のアダムスってのが訳わからん。バケモノ愉快一家的な?
俺の疑問をよそに、手のひらを合わせたまま指先だけで軽く拍手しながら、
「まずは、おめでとーございます。さて真条さん、貴方はこの度、合法的に不特定多数の異性とあたたかで幸せな家庭を築ける権利および義務が与えられたことをご連絡しに参りました」
「は、はぁ……、」
ひ、ふ?
目の前の麻倉というらしい少女の放ったトチ狂った言葉の意味が、段々と染み込んでくる。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。ちょっと意味がわかりません」
「昨今の我が国における危急的存亡の数々をマス媒体を通じ、貴方もご理解頂いているかと存じます。しかしながら、そのいずれも、端を発しているのは人口。すなわち国民の数の減少です。国とは人の集まりによって成される共同体。その
あのよどみないとこ、ずびばぜんが、物凄い速さで漢語熟語に襲いかかられて右耳発、脳を経由せず左耳から飛び出して行きました。
見ろ。ラブリーマイシスターズたちも目をぱちくりしてい――あれ、
というか、だ。
「あの、うちテレビないですし、新聞も配達はしてますけど取ってないし、スマホとかあんな高い物使ってないので……」
マスメディアガークニガー言われても困る。我が家は今日を大切に生きるので精一杯なのだ。そんな余裕なんてない。
今度は、麻倉さんが逆に俺の発言の意を図りかねているようで、
「あり……ひょっとして、ご存知ないんですか? あの法案
ご存知ないと肯定するとしばし沈黙。まずいことを言った時、特有の空気が流れ始める。
——ああ、もう、ほんと変な世界だ。
気まずさに顔を背けながら、俺はしばし過去を振り返る。
× × × × × × × ×
二度目の生。
そんなものが本当にあると知ったのは、当然というかなんというか初めて死んだ時だった。
思えば、……死に向かってアクセルベタ踏みしたような人生だったです。うん。
最初にコースアウトしたのは中学くらいだったか。別にイジめられたとかそういうわけじゃない。全然そういうんじゃなくて、まぁなんというかイジり? イジり的なあれが前の人生ではぽっちゃりワガママボディを揺らしていた俺に集中したわけで、「クソデブメガネ」とか「
みたいな事をしてたら学校行かなくなったよね。
そんで次は、家にこもってゲームばっかりしてたわけですけど、ここで終わりのないのが終わってるエクスペリエンスなネトゲにはまってツーアウト。まぁっ、ワタシの本当の人生ってここにあったのね、ステキ!! と言わんばかりにヴァナ=ヘイム(異世界)の平和を年中無休で守ったよね。もちろん自宅も守ってたよ。
さて、ある時、悪質なプレイヤーキラーに襲われていた所をたまたま助けて知り合った獣人族のソーナちゃんに俺はフォーリンラブした。しっぽのある女の子には勝てなかったよ……。しかし、手持ちの財産は貢ぐだけ貢いだけど告白した際に、性別がメスなのはネット限定のカマ野郎ということが判明した。
今でもはらわたが煮えくり返るが、当時哀れなキーボードくんがその怒りの犠牲となり、真っ二つになった。合掌。ごめん、人はこれを八つ当たりといいます。
ちなみにこの栄光の竜騎士時代に現実ではもうとっくに成人を迎え、立派な大人になっていた。あ、これ大人と書いてクズと読むから、よろしくニキ。マジで何も生産的な事をしてなかったからな。う○こくらいだ。もりもり生産してたの。
家族にも完全に見放されてた。まぁ風呂入んなかったしね。二十四時間部屋にいるから汗かかない⇒清潔という摩訶不思議な理論を主張してたね。トイレもペットボトルっていう文明の利器に頼ってたし。
さてさて、こんな文字通りクソッタレな男にもスリーアウトの時間です。
四六時中、椅子の上であぐらをかいていたせいで腰はボロボロ。部屋から出ない1日の歩数は14歩。主食はピザポテチ、主水分はコーラ。睡眠時間は平均2時間。
そんな当時の俺はFPSのオンライン対戦でファッキンアメ公共をスナイプしていた。そこに、油断していると思ったのだろう。背後よりそろりそろりと近づいてきたメリケンに、その手は食わねーぜとテンション爆上げで高笑いをした瞬間,
ブチッて音が聞こえた。
ヘッドホンをしていたもんだから、最初はゲーム内の音かと思って、気にするかそれよか蜂の巣にしてやるわと銃をサプマシンガンに持ち替え——左の視界が急にブラックアウトした。
当然、パニックになった。リアルで本当に撃たれたかと思ったんだ。ゲーム中に急に視界が欠けたら、無理もないだろ。
その内に、今まで味わった事のないような頭の中で熱の塊みたいのが、ジワジワと大きくなっていくのがわかった。
でもわかった頃には、もう頭は机に突っ伏してた。残った視界の端では
理屈じゃなくて、あ、これ俺、死ぬなって思った。
よく
「聞いてます? 真条さん。もしもーし」
「うぉえあっ⁉︎」
至近距離から顔を覗き込まれ、女子特有の意味不明なくらい、いい匂いが鼻腔をくすぐる。
「真条さんが事情をご存知なかったのは、なんというかその……こちらの手落ちです。申し訳ありません。まぁっ、ともあれ、国家
「どどどゆことでしゅか」
超早口で、う、裏返りそうなトーンで反応してしまった。しかも噛んだ。うーん、普通に死にそう。
というか、ですよ。
全く話は飲み込めないが、何かドえらい国家レベルでのプログラムの対象者として俺が選ばれた、と。
そんでもって、条件を満たす限り、生涯の生活を保証って、それがつまりさっきの頭悪い発言だろ。
せめてと、予想を裏切ってくれることもなく。
「まっ、その条件というのが一定数以上の異性と睦まじい関係になってもらい、見合うだけの適切な子孫をこの国に残すこと。早い話が、――産めや増やせや、がんばれ男の子!です。一緒にがんばりましょー」
危うく吹き出しそうになった。コノヒトナニユーテンノ。てか親指立てないで。
やっぱそう、第二の生を受けたこの世界は何かがおかしい。
あの時、自分の部屋で確かに俺は死んだのだと思う。
そして、次の瞬間にはもう赤ん坊として、この世界に生まれ落ちた。ああ、もう理解不能だった。――身体が小さくなってしまっていた!? とか少年探偵通り越して赤ん坊だもの。意味わからん。
しかも、記憶はそのまま持ってるし。
とにかく、もう一度人生をマジでやり直すことになったわけですよ。これが、これがまぁ〜ほんッと大変。理由はいくつも挙げられるが、まずその一つが、このなんていうか価値観の違い。
前の人生とこの人生の世界。一見、同じだ。
人間の肌は緑色がデフォとか、草が主食とかそんなことはない。当たり前のように空は青いし、平和が一番大事とか綺麗ごといいながら世界のどっかで戦争が行われている。
だがしかし、目には見えない所がびっみょ〜にズレている。
言ってみれば、一種の外国に来たような感覚なのかもしれない。や、国はおろか、部屋から出ない人生でしたが何か?
……さておき、今のハーレム築いちゃいなよユー事案ですが、これがまかり通るような世界がこっちの世界だ。前の世界ならフェミニストおばさんたちが黙ってない。
こういったズレのせいで、頭が痛くなったことが何度あることか。まぁそれは今もそうなのだが、
「は、はぁ……」
「ご理解頂けたようで何よりです♪」
なんか、ノリ軽いなこの人。はぁ……。
こめかみを揉みつつ、挙手して、
「どして、その、俺なんでしょうか」
いやまぁ、……大体検討ついてますけど、当然わくであろう疑問をぶつける。
「このアダムスプログラムの対象者は国民全体のありとあらゆる膨大なデータ。靴のサイズから、飲み屋で口にした初恋のあの人の名前に至るまでを学習した政府保有のスーパー人工知能、『YAGOKORO』によって、適性ありと判断された人が対象です。まぁーですから、人知を超えた要素とかあるんじゃないですか。あ、膨大なデータのくだりはオフレコでお願いします」
なんかすげぇ最後らへん適当な言い方だったが、何が人知を超えた、だ。俺はわかってる。答えは単純シンプル、いつも一つだ。騙されない。
そうだ。
でなければ、俺に適性があるとは思えない。女性経験なしの今も昔も熱血硬派な
それに結局の所、前の人生をあんなふうに棒に振るようなドクズだ。……自分で言ってて凄い悲しくなるけど……。
気づけば、またまた、まじまじと見つめられていた。
「あ、いえいえ、真条さんは私がこれまで見てきたり、伝え聞いている他の候補者の方たちの反応とは違ったもので、つい」
こんなことを伝えるためにいきなりヘリで急襲されているやつが全国に何人もいるのか。同情するわ。ちなみに他の奴らの反応はどうなってるのかと尋ねると、
「えぇ、意外なことに二つ返事で了解する方が多いらしいですよ?」
マジかよ。なんだそれ。前言撤回。同情なんてできるか。きっとエロゲギャルゲラノベの主人公みたいなヤツばっかなんだろうな。ファック。
あれだ、なぜか問題だらけの美少女たちの集まる変な部活に所属している唯一の男性部員、女子しか扱えないメカスーツ学園でたったひとりの男なんでしょ?
性格は当然のように、いわゆる無自覚天然ジゴロってやつ。ヒロインのためなら、燃え盛る屋敷でも飛び込むみたいな。いや、無理ですって熱いって。火だぞ火。スケキヨになるぞ。
「そ、そすかー」
あ、棒読みになってしまった。だって対岸の火事としか思えないんですよ。あ、ちょっとこれ上手いこと言った気がする。
「真条さんみたいに、呆然となるのが当然の反応だとは私も思うんですけどね」
ふっと表情を幾分か柔らかくすると、
「まっこれはお国の決定事項です。ああだこうだ
ぽんと肩を叩かれる。ポディランゲージ苦手系男子たる俺は顔を引きつらせながら、身を固くしてしまう。いや、近い近い。
しかも、おそらくというか絶対顔真っ赤になってる俺。笑えるくらい耐性ないなおい。
その反応を見て、麻倉さんは一言。
「……真条さんって、なんだろ。
うぐっ、今の言葉は俺に効く。アンデッド系への聖水並に効く。そして、ふと思いついたかのように彼女は、
「逆に聞いてもいいですか? 真条さんご本人はどう思ってるんです? どうしてご自分が選ばれたのかについて」
思わず、はっと鼻で笑ってしまった。
そんなもの。そんなもの決まっている。
古今東西、老若男女、時と場合を選ばず、絶対不変の法則があるからこそ俺がこんなアダムなんちゃらに選ばれるのだ。
そう、とどのつまり、
「——顔っす。だって、俺の取り柄、それしかないし」
うん、誠に申し訳ないが、第二の人生における俺は、
――イケメンだった。
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