8.地下水路

「カミオカさん、そっちに行きました!」


 オズマの声に反応し、カミオカは振り返る。その回転をそのままに、巨大化した魚を一振りで真っ二つにした。


「よーし、じゃんじゃん行くぞー!」


「あ、今度はまたあのゴキブリが......」


「ゴキブリはいやだ!」


 カミオカが悲鳴を上げながら飛んでくる巨大ゴキブリを避ける。


「ちくしょう、何でこっちに飛んでくるんだよぉ!」


「大声を上げるからですよ!」


 オズマが呆れ顔でゴキブリを打ち抜く。


「いや、こんなのが飛んで来たらフツーは悲鳴上げるだろ!」


「ほら、また後ろにも!」


「ひええええええ!」


「しっかりしてくださいってば!」


 こんな調子で、巨大な虫や凶暴化した魚と戦いながら水路をしばらく進んだ二人。しかし、ふいにオズマはあることに気づき、立ち止まった。


「……なんかさっきから、同じ道をぐるぐる回っていませんか?」


「んー、確かに」


 カミオカが地図を手に首をひねる。時刻はすでに昼近く。予定ではもうそろそろ水路を脱してもいい時間だ。


「⋯⋯もしかして、道に迷ってるんですか?」


「いやいや、ここをまっすぐ行けば着くはずだって!」


 カミオカが指さす方向を見ると、そこには苔で変色したコンクリートの壁があるだけだった。


「あり?」


「カミオカさん、こっちに何かあります!」


 オズマが声を上げた。

 苔に覆われた壁をオズマは指さす。そこには取っ手のようなものがついている。


「よし、でかした」


 カミオカが引っ張ると、中には机と椅子、パソコン、そして仮眠用のベッド。人一人が生活できるような空間がそこにはあった。


「隠し通路ではありませんでしたね......」


「ちょうどいい、ここらで少し休んでいくか」


 カミオカはいつのまにか昼食のおにぎりを取り出し、頬張っている。ミヨが早起きして作ったであろうおにぎりだ。


「……カミオカさんは、変わりませんね」


「ん? 何が?」


「貴方の事です。自分の好きなように生きながらも、皆さんに頼られて……」


「よせやい、照れんじゃん」


「でもぼくは、そんな貴方の汚点になってしまいました」


 部屋の明かりがチカチカと瞬く。遠くで勢いよく流れる水音がごうごうと水路にこだまする。


「はあ……またそれかい」


 カミオカは頭を掻いた。


「いいか? 『ぼくなんて』とか『ぼくのせいで』とか言うのは禁止な?」


「でも......」



「それにな……お前にそんな事言ってた奴はもう全員くたばってるよ。今さら気にしてどうすんだ」


 オズマは首を横に振る。


「誰かが言うからじゃありません。僕が僕を許せない……」


 うつむいたままのオズマを見て、カミオカは息を吐くと遠くを見つめて言った。


「いいか、この用事が終わったら、お前にちょっとしたプレゼントがある」


「プレゼント?」


「そう、プレゼント。きっと喜んでくれると思う」


 カミオカは笑った。オズマは首をひねる。  


「それって――」


「……秘密。まあ、とりあえずお前も今は休んどけ。昨日はあんまり眠れなかったんだろ?」


 オズマは驚いた顔でカミオカの顔を見やる。


「……はい」


 少しの間、横になり目を閉じるオズマ。そして十分ほど意識を落とし体力を回復した後、二人は再び出発した。





 しばらく水路を彷徨った後、ようやく出口が見つかった。コンクリートの壁の突き当たりに金属でできた梯子が伸びている。


「あそこから外に出られそうだな。ようやくか」


 オズマたちのいる場所からそこに行くには一本水路を超えなくてはいけない。

 川幅十メートルを超える、ひときわ広い水路。そこを流れの速い真っ黒な水が流れている。

 

 オズマはそこで、ふいに何かの気配を察知し、足をぴたりと停めた。


「どうした?」


 急に顔色を変えて立ち止まるオズマにカミオカは尋ねる。


「いえ……この感じ」


 オズマの様子を見て、カミオカの表情も警戒の色を強める。


 ブクブクと水面に泡が立つ。警戒しながら二人がその様子を見つめていると、やがて巨大な水飛沫と水音とともに敵の姿が現れた。


 ゴツゴツとした赤い機体と青い機体。水中から現れたのは二体の巨大なロボットだった。

 

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