第11話「それを口にしてしまわれましたのね。もう、お傍にいられない」
一刹那、ウンディーネに
躊躇いの表情が浮かんだ。
「かしこまりました」
ベルタルダに手をかざすと
眠りに落ち入る。
「ベルタルダにはみられたくないのです。
どうぞあなたもみないでくださいまし」
「そのような指図うけぬ」
ウンディーネは項垂れた。
彼女の衣裳も体も色をなくし、
水のような透明になっていく。
その身は夜光虫の光を宿していた。
髪が蔓草のように延び足下を這う。
本体は髪へと移り、
身体は消え失せる。
髪は水流となって、
舷側を流れ落ちる。
流れ落ちた水は蛇の形をとり、
ゆらめく月のように川を泳ぐ。
光の蛇の頭が沈んで、
水の竜が身を擡げる。
うねりくねり浮いては沈む、
ほっそりとした優美な蛇体。
この刹那、世界から音が呑み込まれて、
水を伝わるルーンの韻律に満たされた。
魚達が白い骨になって溶解する。
拠りどころをもたない、
水霊はただ消えるのみ。
水の竜は鳥に形を変えた。
鳥は舟の上に舞い降りて、
ウンディーネの姿となる。
白鳥の頚のような繊手には
燦然と宝石を鏤めた首飾り。
「許してくださいまし、あなた。
首飾りは引き千切られて散らばり、
全部はみつかりませんでした。
代りにはならないだろうけれど
欠けた処をおぎなっております」
「寄るな、化け物。
我にさわるな。
そのようなものいらぬ。
水底に持ち帰るがよい」
口にしてはならない
言葉を口にさせたのは、
己が従わせていると
思っていた力への恐怖ゆえ。
「それを口になさって
しまわれましたのね」
瞠った瞳に涙が
ヴェールをかけた。
「恨んではいません、ただ
――辛いのです」
抱きとめようとさしのべた
腕にはなにも残らず、
胸に残るのは、
自責と悔恨、
そして喪失感。
膝が頽(くずお)れ
肺腑が破れ
血を吐くほどに
長く、長く
絶叫した――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます