第18話 小さな来訪者3



「だ〜うっ」

こーのゆーびとーまれ!


私は意思を込めて声をあげた。


案の定、その声に反応したのは夜に活発化する新入りの「何か」。


もちろん、私に遊ぶ気はさらさらない。夜の静寂を好む古株 (?)の彼らは何かを含んだ私のコエには無論動かない。


そもそも、ここ・・にいる「彼ら」は私遊ぶ事はあっても、私遊ぶ事は滅多にない。


偶に彼らが『呼んだら行ってあげなくもない』的な雰囲気をチョロチョロと出してはいるが、私から誘った事は一度もない。


実際どうかは知らないが、「遊んで欲しい」とお願いすれば遊んでくれるだろうな。という程度の認識で留めている。それ以上の事があるかもなんて考えたら、うかうか眠れもしないじゃない。


ここにはここのルールがある。

それに従えないなら、さっさと元の持ち主ごしゅじんさまの下へとお帰り願いたい。


ついでに不審者繋がりの赤いお目々の彼にもお帰り願いたい。

そして二度と来ないでもらいたい。

だって、夜は寝たいじゃない。


それが本音ですが何か?


因みに私は遊ぶなんて事は一言 (?)も言ってない。


そういう雰囲気を出しただけで「この指とまれ」と言っただけだ。

別に嘘はいてない。


「!」


私の握ったその指に集う「何か」に少年は驚いたようだった。

勿論私も初めての光景に驚いている。

だが、この指を離すワケにはいかない。

今、ここで少年の指を離してしまえば、全てがおじゃんになる事は何となく解る。


少年の指に集う「何か」の姿がほどけ、吸い込まれる。

それらが不意に浮き出たかと思えば、「何か」であったそれらが不思議な紋様へと姿を変えて少年の指から腕へと描き出される。


それらが少年の腕から浮き上がり、その一端が綻んだ。


ダ メ !


私が睨むと綻びが紋様へと収束する。それを見て私は安堵した。


昨日の不審者は「元の主人あるじの下に帰れ」と命じてくれと言った。


私は彼らへと不審者もとのあるじのところへ帰るよう、何度も言った。お願いしたが、聞いてくれなかった。彼らは私のそばから動こうとしなかった。

仕方ないので命令してみようと思った途端に彼らはその場から逃げた。

呼んでみたが、不審者に返そうとする気配を察しているのか、遠巻きにして寄って来ようとしない。

命令を諦めると寄ってくる。その繰り返しに仕方なく私も、すんごいもの言いたげな視線をこちらへ投げてくる不審者も諦めた。


そして不審者が去ってから、新入りの「何か」に何度か声をかけてみた。


すると、不審者がいた時とは打って変わって呼べば来るのだ。

来るなと言っても来るのだ。


そしてやたらと私にぺたぺたと接触してくる。まるで私に自分の触れた痕跡を残そうとしているかのように。

その度に「彼ら」が追い払ってくれたのだが。


不審者の一連の言葉と「何か」の行動から察するに、「何か」は私からの「鎖」と「首輪」が欲しいのだ。


ならば、私が首輪をかけ、鎖はそれを望む別の人間に押し付ければいい。

そして鎖を握った人間が帰ってくれれば全て丸く収まる。

人間も「何か」もまとめて返品してしまえばいい。


私は少年を見上げる。

少年は目の前で起こっている光景にただただ目を奪われている。

一度、そう・・なってしまった「何か」は止まれないようで、解けた「何か」が流動的に少年の腕を中心に形を変えながら踊っている。

一際強く輝くと元は「何か」であったモノは少年の腕に紋様となって定着した。

そこから剥がれる気配はない。


「ぷふ〜」


それを確認した私は満足して息を漏らした。


まあ、新入りの半分は残ったものの、これでかなり静かになる。


また誰かが来たら、残り半分を押し付けて帰ってもらおう。


安堵と共に、どっと眠気が襲ってくる。


やはり昨日の夜更かしが響いているのだろう。


とろとろと意識が闇の中へと溶けていく。


それを赤い鋭い光がとどめた。


「おい」


「あ"…?」

なんだよ…


おねむMAXな私の機嫌は急降下だ。


解約しろはずせ


「ぶー」

だよ


赤い眼差しに苛立ちがわきあがる。

そして私の心にも苛立ちが湧き上がる。


「死にたいか」


「だ う !」

や っ て み ろ !


売り言葉に買い言葉。静かに凄んで見せる少年に私は凄み返した。

苛立った私の気配に・・・・・敏感な「彼ら」が浮き足立つ。


我ながら、大人気ないとは思うのだが、如何せん、感情の制御コントロールは今の私には至難の技。

それに今は少年よりも私の方が子どもなので無問題!!


少年の物騒な気配が膨れあがる。

少年の腕に居ついた「何か」もそれに合わせて燐光を放つ。


手のひら返すの早いな!

確かに彼に返品したおしつけたから使い方はそっちの自由だけれども!


イラッとした私の意思が伝わったのか、燐光が怯えたように散った。

そんな新入りだった「何か」の態度・・に更に苛立ちの拍車がかかり、全力で寝たいという欲求に逆らいたくない私は部屋中の「彼ら」を力いっぱい呼びよせた・・・・・・・・・・


生まれて半年とちょっと。

短いとは言え少年よりも私の方がこの地の「彼ら」と付き合いは長い。


普段、決して自分から声をかけなかった私が意志を持って「彼ら」を呼べばどうなるか。


「なっ…!?」


それはもう、狼狽える少年を見れば明らかというもの。


「!」


少年の目が大きく見開く。


どうだ!


なにもできない私だってこのくらいハッタリはかませられるのだ。


無論、「彼ら」任せだ。後の事は知らん。

他力本願?それが何か?

赤子の無力をナメないでほしい。


少年相手に大人気ない?

いやいや、しつけは大事デスヨ。

それに、今の私は少年より子供だ。


そして私を中心に集まった「彼ら」に驚いて固まったままの少年と、の姿を見て私はようやく溜飲が下がるのを感じた。


少年に刃向かう意図のない事を見てとった私は、今度こそ深い眠りに落ちた。


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