葬炎の蝶


 > 称号獲得、<死の水> <底なし> <捕食者> <根こそぎ>。



 静寂で目が覚めた。

 虫の羽音も蟇蛙ひきがえるの鳴き声もしない。すべての生き物の気配が絶えていた。

 ゴブリンの屍だけが残っている。それへ命じた。


 「立ちなさい、おまえたちの巣まで案内するのよ」


 > 闇精魔法「死霊術」を修得。

 > 称号獲得、<屍鬼使い>。



 屍がよろよろと森を歩く。私は身を隠して後ろをつけている。

 ゴキブリは一匹みつけたら三〇匹いるという。こいつらゴブリンはいったいいくらいるんだろう。

 害虫は一切合切、根こそぎにしてやろう。


 > 闇魔法「隠形」を修得。

 > 暗殺術「隠密」を修得。

 > 「探索」を修得。

 > 「察知」を修得。


 何かの気配を感じたけど、屍鬼をそのままいかせる。

 木の上から猿と虎の混ざり合って、尾が蛇の頭になった獣が飛び下りてきた。その爪にゴブリンが切り裂かれる。

 私は長く生え下がっている揉みあげの髪を鞭にして放った。猿の肩から腕が千切れる。

 邪視をあてた。石化は徐々だが動きをにぶく出来る。

 猿がこちらに飛びかかるが、そのまま突き抜けてしまい、私の体は水の飛沫になって消えた。

 足下の影が底なし沼のようになり、ずぶずぶと沈んでいく。

 やかましく泣き叫んでいた頭も隠れ、差しのべる手もみえなくなる。

 私の影で拵えた異空間に呑まれたのだ。


 > 闇魔法「死蔵」を修得。

 > キマイラ猿猴型を捕食。

 > 融合、既に取得済み。

 > 「体術」を取得。

 > 「軽業」を取得

 > 「掴み」を取得。

 > 「爪刃」を取得。


 浮遊していた水の飛沫が集まって私の姿になる。

 ゴブリンはまだ這いずりながら蠢いているが使いものにならないだろう。闇の炎で消し去る。


 > 闇魔法「葬炎」を修得。



 私は影から水姫スキュラの下半身だった六匹の黒犬を呼び出し、ゴブリンがどこからやって来たか臭跡を辿らせる。


 > 闇魔法「召喚」を修得。

 > 闇魔法「従属」を修得。

 > 「嗅覚」「追跡」を取得。


 黒犬達が狩りをしながら疾走する。


 > 夜蝶ピクシーを捕食。

 > 「翔翅」「浮遊」「転移」「鱗粉」「糜爛」を取得。


 > 大蜘蛛アラクネを捕食。

 > 「糸紡ぎ」「糸操り」「機織り」「糸渡り」「糸吊り」「壁走り」を取得。


 私の髪が喪の色をした無数の蝶になって舞い立っていく。羽根の模様が透かし彫のようになった黒い蝶だ。

 私の髪は影の糸、闇を紡いだ綾織り。黒曜石の鱗粉を撒き散らし、触れたものすべてを糜爛させていく。


 > 闇魔法「喪蝶」を創造。

 > 称号、<影糸使い> <機織り姫>。


 > ……捕食、捕食。

 > ……取得、取得。



 ゴブリン達は一〇〇匹ほどの集落を作っていたが、さしむけた数万の黒蝶が舞いながら鱗粉を撒き散らし、闇色をした葬送の炎が燃え上がっているようだ。


 なら、なにを弔うのだろう。なくしてしまった私自身だろうか――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る