●22日目 08 夕方『生徒会長の役目』

 その後高阪の気が少し収まるのを待ってから学校へと帰還した。学校の内部の様子が気がかりだったが、光沢が上手くやってくれたらしく全く問題は起きてなかった。


「悪かったわね。思ったより時間がかかった」

「いえ、こちらも生徒のみなさんが素直だったので、ほとんど何もしていませんよ。ひとえに生徒会長の今までの行いのおかげかと」


 校門で出迎えたのはいつものように胡散臭い笑みを浮かべた光沢だった。しかし、顔面蒼白で八幡に連れて行かれる高阪の姿を見てすぐに表情が固くなり、


「……かなりひどい結果だったみたいですね」

「スーパーは爆破されて木っ端微塵、行方不明だった治安担当の生徒は全員食われていた」


 そう端的に状況を伝えておく。光沢は祈るように目をつぶったが、すぐに目を開き、報告を続ける。


「屋上の監視チームからは変質者たちがスーパーに集まっているという報告があります。あと略奪者と思われる大型トラックは街の外に出ていくのを目撃したと」

「街の外か。あいつらは一体どこから来たんだか」


 考えてみればこの学校のある街の外の状況はろくにわかっていない。もしかしたらここにいる変質者は頭の悪いのが多いが、別の町では普通の人間並みに考えて行動できる変質者が多かったりするのかもしれない。そんな推測が頭に浮かぶ。


 光沢は更に続けて、


「あと勝手ながら全校集会の準備もできています。あと30分ほどで時間です」

「集会?」

「ええ、今回の件についての説明が必要になるだろうと、予めクラス委員と各担当の責任者にメールを送っておきました。もし不要なら取りやめのメールを出しますが」


 沙希は少し考えてから、


「いやいい。生徒たちにはあたしの口で直に説明する」


 集会場所の体育館へと向かった。



 しばらくして全校集会が始まり、沙希は今回の件について説明を行う。スーパーマーケットに略奪者が現れ、それを奪還するための作戦が実行されたが失敗し十名の犠牲者が出たと端的に伝える。高阪による乗っ取り行為、そして彼女が作戦を発案して指揮していた事は黙っていた。


「――以上、今回犠牲となった生徒たちの名前です。三週間前に起きた惨事に続く痛ましい事件になりましたが、私たちはこれで踏みとどまるわけには行きません。彼らの犠牲を生かしすぐに次の行動に移しています。新しい物資確保先もすでに検討が始まり、明日にも確保を開始する予定なので当面食糧の問題はないと考えてください。また水に関しては備蓄があるため当分の間は枯渇することはありません。あと略奪していった人たちについてですが、現在のところ彼らが何者かという明確な証拠はないです。今後もこの街に現れて最悪ここも襲われる可能性があるため警戒態勢を――」

「あの」


 集会で集まっている生徒の中から質問が聞こえてきた。今までの集会では生徒たちは大抵ただ聞いているだけだったので、沙希の話を遮ってこういう質問が来たのは初めてだった。さらにそれが引き金になったのかさっきとは別の生徒も口を開いて、


「今回の件は、副会長がクーデターを起こして強引に作戦を決行したから起きた結果だって聞いたんですけど、本当ですか?」


 その声に事情を知らなかった生徒たちがざわめき始めた。さらに、


「副会長のせいでこんなことになったならここに連れてきて謝らせろよ!」

「そうよ! 生徒会長に逆らったんだから罰を与えるべきだわ!」

「もう誰も死なせる必要がなかったのに副会長が無茶なことやったせいでこんな事になったんだろ? ほとんど殺人じゃねえか!」

「責任を取らせてこの学校から追放しろよ!」

「あの人怖かった……一緒の学校なんていやです!」


 ヒステリー気味な騒動が始まる。


 沙希はしばらくそれを壇上から眺めていたが、やがて唇をかむと、きっと生徒たちを睨み、


「やかましいっ!」


 そう大声を上げて壇を手で叩き付けた。体育館に拡がった大きな音で一気に生徒たちが固まりみな口をつぐむ。


「何度も同じ事をいわせんな。この学校で起きたこと全ての責任はあたしにある。例え副会長がミスしたんだとしても、それの責任も全てあたしにある! もちろん今回の十人の犠牲者の命も全部あたしが背負うものよ! 恨むならあたしを恨めばいい――いや恨むべきだわ」


 そこまで言ってからぐっと自分自身の胸を叩き、


「どんな些細なことでもあたしが背負う! 勝手に誰かに責任押しつけたり、勝手に誰かが責任を取ったりするのは絶対に許さない! それは学校そのものに対する敵対行為だと思え!」


 体育館内に広がる沙希の怒声。これには生徒たちは全員口をつぐんでしまった。

 沙希は睨んだまま、


「まだ何か言いたいことのある奴は前に出ろ。話だけなら聞いてやる」


 この言葉にこれ以上糾弾の声を上げようとするものは一人もいなかった。

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