●3日目 04 昼『生徒会副会長と書いてバケモノと呼ぶ』

 その後の作業は食糧確保で悲惨なことになった反動か、スムーズに進んだ。


 得られた食料は担当者に引き渡され、家庭科室へ持ち込まれたあと適切に調理される。沙希はろくな炊事経験もない中学生ではここでも悪戦苦闘があると予想していたが、全くトラブルも起きずに生徒全員分の食事が作られた。


「家では私が炊事係だったから」


 二日ぶりの食事にありついている生徒たちを見る高阪。食料が届いた時点ですぐに調理作業に入れるように、基本的な技術や準備をさせていたのだ。おかげで問題が起きることなく調理が完了している。

 品目は持ち運びが簡単で数を確認しやすいインスタントラーメンだった。袋詰のものを鍋に放り込んで煮込んだところにごく少数の缶詰の野菜を入れた程度のものだったが、知識も物資も不足している状況できちんと食べられるものに仕上げられている。


 しかもその後の配給についてまで、


「みんなお腹をすかせているのはわかっていたから。でも殺到したら混乱するのは間違いないと思って」


 事前にクラス単位で整理券を発行していた。そこには配給の順番と予定時間まで書かれていたため、飢えた生徒たちが我先と押しかけてきたり、廊下に配給待ちの生徒たちで長蛇の列ができることもなかった。

 二日ぶりで全生徒が飢えているので今日の昼と夜の配給はランク関係なく全員になっている。

 

 さらにそれだけではない。治安担当で捻挫や擦り傷と言った怪我をしていた生徒が多数いたが、彼らも医療担当によって適切に治療を受けていたが、


「簡単な手当なら前に講習で習ったことがあったから。傷口からバイ菌が入ると大変なことになるし、できるだけ早く治療できるようにしておいたほうがいいと思って」


 予め治安担当の負傷箇所や症状を予測し、その治療手段を医療担当に伝えていたのだ。お陰で全員つつがなく処置できている。

 まだまだある。


「昨日の夜も男子と女子でトラブルあったから。今のうちに分けておいたほうがいいと思って」


 以前から生徒たちの間で不満のあった自分のクラスで就寝する状況――つまり男女同室という問題に関して寝床の割り振りを実施し、雑務担当にリストを提示。あとは沙希に了承を取ればすぐに実行可能という段階までお膳立てしてある。沙希もやらないとならないと考えていたものの食料確保が先だと考えて後回しにしていた問題だったため、高阪のプランのままOKを出した。


「清掃用具が一箇所だと管理が大変だから。どんなものがどれだけあるのか把握しておけば、道具の割り振りもやりやすいと思って」


 空き教室に一角に各教室などにおいてある清掃用具を集めるように清掃担当に指示を出していた。そのおかげで理瀬の清掃作業の指示がやりやすくなっている。

 大きなことから細かいことまで。これを短い時間の間すべてやりきっていた。


「――なんて」


 沙希にやったことの事後報告を終えたあとに、いつもの可愛らしい仕草を見て、そんな彼女に羨望を超えて恐怖感すら覚えていた。この学校史上最大の天才と褒め称えられ生徒会長を一年生から二年連続で務めていたのですごい人物だとはわかっていたが、ここまでとは想像してなかった。


 生徒会長に選ばれた時に教師が彼女はバケモノだよと冗談じみに言っていたが、それに誇張はない。本物のバケモノだ。

 とはいえ、高阪の実力に圧倒されているばかりでは何もならない。この学校の生徒会長は沙希である以上、彼女が動かなければならないのだ。


 そして、次にやるべき具体的な計画も沙希の中ではすでに出来上がっていた。

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