第7話 対峙直前

「五班はこの炭坑で採掘をしてもらう。金や銀だけでなく、鉄などの鉱石も貴重な資源だ。心して作業をしてくれ」

「へいっ!」


 一つ目の炭坑が完成してから二週間が経過し、ライアス率いる採掘部隊は順調に作業を進めていた。既に幾つか金や銀の鉱石が採掘され、兵士や採掘作業者達の士気も一様に高まっている。

 ライアスも現地で直接指揮を執り、剣の腕以外でもその手腕を振るっていた。


 ライアスはここにいる誰よりも若い。だが、その真面目さと部下を思う心は、皆しっかりと感じ取っている。そのため、年下の指図なんか聞けない、などと子供じみたことを言い出す輩はいないのであった。


(——未だ竜の発見報告は無い。ただ、ここが女帝山と呼ばれる所以を考えると、居ないと考えることはまだ早計か……。陛下にもしもの時は一中隊を増援に送って下さると仰っていただいたが、もし、かの伝説の竜と遭遇した場合、それまで持つかどうか……)


 ライアスは思案する。ただ、いるかも分からない竜に対して不安ばかり募らせては、それこそ愚考であると自分を叱咤する。


「護衛部隊の半分は私に続いて、これより山頂付近まで見回りに行ってもらう。残りの半分は、現在採掘作業をしている者達の護衛だ。熊や猪の発見報告も多数きている。十分に留意するように」

 護衛を命じられた兵士達は、隊長の言葉に敬礼で返す。


「では行くぞ!」

「「はっ!」」

 号令を発し、ライアスは五十人程の兵士を率いて山の頂上へと進み始めた。



 その頃女帝竜は、日常になっているハクとラドの修行を見ながら、ライアス達の会話を聞いていた。

「ラド、ハク。ちょっと私は出掛けてくるから、ここで大人しく練習していてね。いい? 絶対にここを動いてはダメよ?」


 このままでは兵士達と子ども達が接触してしまう。そう感じた女帝竜は、ライアス達にここには近づかないよう説得を試みることにした。

 しかし、今まで「出掛けてくる」などという言葉を母から聞いたことがなかったハクは、少し困惑した様子で尋ねる。


「どうしたの? 母ちゃん……」

 対してラドは、ここに来ている人族に関係することであろう、と敏感に察知していた。

「ハク、母ちゃんはたまに運動しないと怪我が治らないんだ。母ちゃん、ハクは僕が見てるから、行ってきていいよ」


 女帝竜はハクを頼む、とラドに目線を送る。

「ありがとう、ラド。二人とも、ちょっと行ってくるわね。大丈夫。すぐに戻ってくるから」

「行ってらっしゃい、母ちゃん」

「すぐに帰ってきてね!」


 可愛い子ども達に見送られ、女帝竜はライアス達に接触するべく、その翼を羽ばたかせた。

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